Janleva 555

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Janleva 555
「Janleva 555」

 2012年10月18日公開の「Janleva 555(殺人者555)」は、インドの農村に蛇に咬まれて命を落とす人がまだ多いことを啓発するために作られたと銘打っている映画だ。ただし、作りは完全なるB級娯楽映画であり、社会派映画ではない。

 監督はサンディープ・マーラーニー。カルナータカ州マンガロールで育ったため、カルナータカ州と縁が深く、カンナダ語かヒンディー語で映画を撮っている。地元ではTV番組の司会や映画評論家としても名を知られているようで、マルチタレントな人物だと思われる。ただし、インド全国レベルでは全く無名だ。

 主演はカルパナー・パンディト。「Moksha」(2001年)や「Anubhav」(2009年)などに出演していた女優だが、それほど有名ではない。彼女以外のキャストも無名の新人俳優たちばかりである。アーカーシュ・ホーラー、クリフ・ヤンケ、ラージーヴ、ショーナー・チャーブラー、マン・ホーラー、アナント・ジョーシー、ランジート・ジャー、ムハンマド・ヴァスィーム、ウィリー・マンチャンダーなどである。

 ところが、こんな低予算映画にあっと驚く大物が顔を出しているのである。カンナダ語映画界の名優アナント・ナーグが特別出演している。他に、映画の冒頭ではヴァイジャヤンティーマーラー、プラブデーヴァー、ソーヌー・スード、スダー・チャンドランが観客に、この映画の収益の一部が蛇に咬まれた患者の治療に必要な人工呼吸器の購入に充てられると呼びかけている。

 「Janleva 555」は、ナーギン映画の一種だ。「ナーギン」とは「蛇女」という意味であるが、正確には「イッチャーダーリー・ナーギン」、つまり、変幻自在の霊力を持った神秘的な雌蛇のことである。インドの神話や伝承に登場する。ナーギンは「ナーグマニ」と呼ばれる宝石を守っているとされ、この宝石を狙う悪役が現れるというのが定番だ。ナーギンは現代においても度々映画やTVドラマの主題になっており、インド人の大好物である。ちなみに、神秘的な蛇は雌に限らず、雄もいる。その場合は「イッチャーダーリー・ナーグ」と呼ばれる。

 2012年。ニーラム(カルパナー・パンディト)は蛇が出て来る夢をよく見ていた。ニーラムは、監督のスティーブ監督(クリフ・ヤンケ)、恋人のラージーヴ(ラージーヴ)、ルームメイトのプージャー(ショーナー・チャーブラー)、プージャーの恋人ヴィーレーン(マン・ホーラー)、それにアスラム・バーイー(ムハンマド・ヴァスィーム)、ジョージョー(ランジート・ジャー)、ラーリー(アナント・ジョーシー)と共に蛇についてドキュメンタリー映画を作ることになる。彼らが向かった先は、様々な蛇が出ると噂されるデーヴィープルであった。

 デーヴィープルに着いた途端、ニーラムは不思議な感覚に襲われる。途中で彼らが乗っていたミニバスのタイヤがパンクし、森の中で野宿をすることになるが、彼らはバーバージー(アーカーシュ・ホーラー)と出会い、助けられる。ニーラムはコブラに出会い、前世の出来事を夢に見る。

 それは今から555年前の1457年。イッチャーダーリー・ナーギンのラジニー(カルパナー・パンディト)は、イッチャーダーリー・ナーグのアーナンド(アーカーシュ・ホーラー)と恋に落ち、結婚する。ところがナーグマニを狙う邪悪な蛇使いカールバイラヴ(ウィリー・マンチャンダー)はアーナンドを呪縛し、ラジニーを脅迫してナーグマニを手に入れようとする。ラジニーは自らを三叉槍で刺して絶命する。

 翌朝、彼らはデーヴィープルに到着し、取材を始める。だが、カールバイラヴが目を覚まし、ラジニーの生まれ変わりであるニーラムを呼び寄せようとする。だが、バーバージーは実はアーナンドの生まれ変わりであり、ニーラムをカールバイラヴの魔の手から守る。バーバージーに導かれ、ニーラムはラージーヴと結婚する。

 カールバイラヴはヴィーレーンを操り人形にしていた。ヴィーレーンは酔っ払ってニーラムに粗相を働いたことを悔い、故郷に戻ろうとするが、彼は後に森の中で遺体で発見された。カールバイラヴはニーラムに襲い掛かり、彼女を守ろうとしたスティーブは殺されるが、ラージーヴによって返り討ちにされる。だが、カールバイラヴは死ぬ直前にラージーヴに乗り移っていた。ニーラムは今度はラージーヴに追い回され、ナーグマニを出すように脅迫される。

 ニーラムは偶然、オカルト研究家スィナー教授(アナント・ナーグ)と出会い、彼女の身に起こっていることを説明される。5月5日午前5時55分に生まれたニーラムは、555年前に死んだイッチャーダーリー・ナーギン、ラジニーの生まれ変わりであり、午後5時55分に正気を失い、午前5時55分に目を覚ます。

 ニーラムはラージーヴに憑依したカールバイラヴと対峙し、アーナンドの助けを借りて、カールバイラヴを退治する。翌朝、ニーラムはラージーヴ、プージャー、アスラム・バーイー、ジョージー、ラーリーと共にデーヴィープルを後にする。

 素人の監督が素人の俳優を集めて撮った、学芸会のような映画である。通常ならば迷わず歴史の闇に葬り去られる作品であるが、監督の人脈が不必要に広いのであろうか、いくつかのビッグネームがこの映画に結び付いてしまっており、そのせいで惑わされて鑑賞してしまう者も何人か出て来てしまうという厄介さがある。アナント・ナーグのような名優がこのような駄作に出演し、大真面目にとんでもない役を演じてしまっているのである。

 演技や撮影などに未熟さが散見されたが、もっとも我慢ならなかったのはダンスの使い方だ。「Janleva 555」ではインド映画の定例に従っていくつものダンスシーンが差し挟まれる。だが、ひとつひとつの音楽、歌詞、ダンスのレベルがかなり低く、しかも無意味に多すぎる。ダンスシーンのみならず、不必要なシーンが多くて全体的にテンポが悪く、さらに作品の質を低めていた。

 映画の冒頭で、蛇害に悩まされるインドの農村部を救済しようと呼び掛けられていたにもかかわらず、ストーリーにそういう要素がほとんどなかったことも、非常に不満だった。

 そんなB級未満の映画ながら、視覚効果的に興味深いシーンもあった。それは蛇が登場するシーンである。全てではないだろうが、本物の蛇が使われているように見えた。蛇の映画なので、蛇の撮影には力を入れたと思われる。

 題名の「555」には人を引き付ける力がある。一体何を意味するのか、つい映画を観たくなってしまう。これで「555」が何の意味も持っていなかったら激怒するところだったが、物語の中で一応の説明がされており、納得することはできた。主人公ニーラムの前世ラジニーが死んで555年後という設定や、ニーラムの誕生日時が5月5日午前5時55分であることなどにこの数字が使われていたのである。

 主演のカルパナー・パンディトは輪廻転生の前と後の役を一人で演じ、しかもナーギン・ダンスなどを精力的にこなしてはいたが、映画全体の質の低さを覆すほどの演技には至っていなかった。その他の脇役陣はほとんどが新人であり、特筆すべきことはない。

 「Janleva 555」は、アナント・ナーグが特別出演しているなど、関心を引かれる部分もあるのだが、基本的には素人が集まって作った低予算B級映画であり、間違っても観ようと思ってはならない作品だ。あたかも社会派映画であるかのような導入部であるが、それも嘘である。一応、YouTubeにアップロードされている本編動画を埋め込んでおくが、これを再生して時間を無駄にしてはならない。


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