2012年1月13日には複数のヒンディー語映画が公開されたが、どれも小粒である。その中でもキャストに魅力のある「Chaalis Chauraasi」を観ることにした。監督は「Pyaar Mein Twist」(2005年)などのフリダエ・シェッティー。曲者俳優として知られるナスィールッディーン・シャー、ケー・ケー・メーナン、アトゥル・クルカルニー、ラヴィ・キシャンの四人が主演を務める。
ところで、上映時間の関係で今回初めてPVRディレクターズカットで映画を鑑賞した。これは昨年ヴァサント・クンジのアンビエンス・モールにオープンしたばかりの新しい映画館で、インド最高級の映画館に位置づけられる。チケット代は950ルピー、日本の一般料金と変わらない値段。高級感溢れる内装、スマートな接客、ふかふかのリクライニングシート、ウェルカムドリンクなどがセールスポイントだが、インドのマルチコンプレックスの一般的チケット代の4倍を払ってわざわざこの映画館で映画を観る価値があるかは疑問である。ただ、一般的な上映作品に加えて、毎週ハリウッドの古典的名作を上映しており、インドでは稀な「名画座」としての価値はある。ちなみに今週はアルフレッド・ヒッチコック監督「北北西に進路を取れ」(1959年)とデヴィッド・リーン監督「ドクトル・ジバゴ」(1965年)を上映している。
監督:フリダエ・シェッティー
制作:アヌヤー・マイスカル、サチン・アワスティー、ウダイ・シェッティー
音楽:ラリト・パンディト
出演:ナスィールッディーン・シャー、ケー・ケー・メーナン、アトゥル・クルカルニー、ラヴィ・キシャン、ザーキル・フサイン、ラージェーシュ・シャルマー、マノージ・パーワーなど
備考:PVRディレクターズカットで鑑賞。
夜中のムンバイーを、4人の警官を乗せたパトロール・ヴァンが走っていた。助手席にはパンカジ・スーリー、通称サー(ナスィールッディーン・シャー)、運転席にはシャクティ・チンナッパ(ラヴィ・キシャン)、後部ではアルバート・ピントー(ケー・ケー・メーナン)とバルヴィンダル・スィン、通称ボビー(アトゥル・クルカルニー)がトランプ遊びをしていた。 四人はとある場所に向かっていたが、途中で酒場に立ち寄り時間を潰す。再びヴァンに乗って走り出したが、後ろからバイクに乗った警官が追って来ていた。四人は「本物のサツがやって来た!」と焦る。そう、実はこの四人、本物の警官ではなかった。 話は数日前に戻る。サーは元々大学で英語を教えていたが、夫婦喧嘩のもつれで妻を殺してしまい、10年間服役していた。ボビーは歌手になるためにムンバイーにやって来たが、レストランで歌手をしている内に女性たちとコンタクトができ、いつの間にか売春婦のポン引きとなっていた。そしてシャクティはヤクの売人、ピントーは自動車泥棒だった。 サーは刑期を終えた後、とある成金(マノージ・パーワー)の運転手をしていた。運転手として仕事をする内に、偽札マフィアの隠れ家を知ることになる。彼らが作る偽札は本物よりも本物らしいと評判だった。本物のお金を受け取り、その2倍の額の偽札を供給しており、4日間ムンバイーで商売をした後にまた姿をくらます予定になっていた。サーはマフィアが2人しかいないのを見て、4日目にその隠れ家を四人で急襲すれば、多額の本物のお金が手に入ると考えた。その額はざっと2億ルピーだと計算した。 サーは、警察のパトロール・ヴァンを調達し、警官の格好をして急襲することを計画する。そのために通常のヴァンを盗み、ガレージに持ち込んでパトロール・ヴァンそっくりに塗装させた。そのヴァンのナンバーが「4084」であった。ところが、塗装が終わったそのヴァンは何者かに盗まれてしまう。仕方がないので四人は警官の格好をして深夜警察署に堂々と入り込み、そこからヴァンに乗って悠々と立ち去る。先ほどまでの出来事は、偽札マフィアの隠れ家へ向かっている途中に起こったのだった。 四人を追って来た本物の警察はマヘーシュ・ナーヤク(ラージェーシュ・シャルマー)という名前だった。マヘーシュはこれからマフィアのドン、トミー・ビスレーリー(ザーキル・フサイン)が滞在するホテルを急襲するところだった。マヘーシュは四人にバックアップを命令する。仕方なく四人はマヘーシュと共にそのホテルへ行くことにする。 しかしマヘーシュは四人がパトロール・ヴァンを盗んだ偽警官であることを最初から知っていた。泥棒を捕まえると同時にトミーも生け捕りにしようとしていたのだった。後から警官の一団も到着し、ホテルでは警官とマフィアの間で銃撃戦となる。その混乱の中で四人は何とか生き延びるが、トミーと共に捕まってしまう。サーはマヘーシュに20億ルピーのことを話し、解放してもらおうとする。マヘーシュはその話に乗るが、20億ルピーを手に入れるのは彼らの仕事となった。 偽札マフィアの隠れ家に到着し、サー、ボビー、ピントーの3人が急襲することになった。ところが隠れ家には警官がいた。ハリヤーナー州警察を名乗っており、偽札マフィアを捕まえるためにわざわざやって来たとのことだった。しかし、彼らが乗るヴァンのナンバーが「4084」であるのを見て、彼らこそが四人が用意したパトロール・ヴァンを盗んだ張本人だと理解する。彼らも偽警官であった。ところが偽札マフィアは重火器で武装しており、しかも二人どころではなかった。偽札マフィアのボスは三人にロケットランチャーをぶっ放す。異変に気付いたマヘーシュは隠れ家に駆けつけ、シャクティとトミーも見張りの警官を気絶させて自由の身となる。 偽札マフィア、警官、四人の間で乱闘となるが、その中で四人に加えマヘーシュとトミーが生き残る。しかしトミーが隙を見てマヘーシュを殺し、その後四人は隙を見てトミーをヴァンから蹴落とす。こうして四人は20億ルピーを手に入れたのだった。
個性派俳優たちの演技と粋な脚本が中心のブラックユーモア犯罪スリラー映画であった。特に主人公四人が偽警官であることが発覚し、過去の経緯がフラッシュバックで解説されるところまでは高いグリップ力を維持していた。その後は多少ストーリーがルーズとなり、偽札マフィアの隠れ家を急襲するシーンでは完全に緊張が緩んでしまう。エンディングのまとめ方も説得力不足に感じた。しかしながら、4人の個性的な俳優たちのおかげで何とか退屈せずに見終えることができた。
映画のタイトルでもあり、ストーリーの重要な伏線ともなる数字「4084」であるが、この数字には「嘘八百」という意味がある。「40」は、40篇の詩を集めたチャーリーサーという形式の詩集があり、そこから「話」、特に「でっち上げた話」という意味が生まれた。「84」は完全性や多様性を示す。監督の話によると、家の前に「4084」番の警察車両が止まっていたことがこの映画の着想源となったようである。
この映画の醍醐味はまず、てっきり警官だと思っていた4人の主人公が、実は本物ではなかったという点である。パトロール・ヴァンを追い越しした自動車に因縁を付けたり、ダンスバーで飲めや歌えの大騒ぎをしたり、酷い警官振りなのだが、偽物だと分かることでとりあえずムンバイー警察の批判をしている訳ではないことが分かる。むしろ後に登場する本物の警官は、多少コラプト(汚職)しているものの、基本的には頼もしく描写されていた。それではこの四人は何者なのか、それを説明するシーンが「数日前」として挿入される。そして四人が警官に扮して偽札マフィアの隠れ家急襲を決めたところまでが描かれる。
ここまでは楽しかったのだが、本物の警官に連れられてマフィアのドン、トミー・ビスレーリーを急襲することになったシーンから雰囲気がガラリと変わってしまう。それまでとは違った緊張感はあるのだが、途端に主人公四人が情けない言動を繰り返すようになってしまい、スマートな犯罪劇とは無縁となる。偽札マフィアたちがハリヤーナー州警察に扮して現れたシーンは意外性があったが、賢い観客ならば、彼らが「4084」番のヴァンを盗んだことは簡単に予想ができる。だから、映画の題名にまでなっている伏線番号「4084」もインパクトは薄い。偽札マフィアとの銃撃戦や乱闘のシーンは全く迫力がなく、尻すぼみであった。最終的に生き残ったのはサー、ピントー、ボビー、シャクティとトミーの五人であったが、20億ルピーを手にして有頂天になるトミーをヴァンから蹴落として残りの金を手にするところもやっつけ仕事だと感じた。前半の出来が良かっただけに、後半の練り込み不足は残念であった。
しかしながら、四人の主人公の演技は皆それぞれ素晴らしかった。やはり頭一つ抜きんでているのはナスィールッディーン・シャー。彼の持ち味である、肩の力を抜いた自然な演技が気持ちいい。ケー・ケー・メーナンやアトゥル・クルカルニーも演技力で知られた男優であり、好演していた。しかし、ナスィールッディーン・シャーを除けばラヴィ・キシャンが光っていた。ボージプリー語映画で活躍し、ヒンディー語映画にも脇役出演することが多い彼は、非常に重力のある演技をする。ナスィールッディーン・シャーの軽さと対照的で、この二人のケミストリーが映画を救っていた。他に、やはり曲者俳優のザーキル・フサインも出演しており、アクセントになっていた。
2時間の映画ながら、挿入歌の数は多めである。音楽監督はラリト・パンディト。アイテムナンバーのオンパレードで、「Hawa Hawa」や「Setting Zhala」など、意外にいい曲が多い。低予算映画にしてはダンスシーンにも力を入れた作品だと言える。
「Chaalis Chauraasi」は、個性派俳優たちによる演技と優れた脚本が中心の、ブラックユーモアに満ちた犯罪スリラー。特に前半はよく練られていて大きな見所となっている。後半になるとグリップ力が落ちるが、俳優たちの演技で持っていた。万人向けの映画ではないが、主演四人をよく知っているインド映画ファンなら楽しめるはずである。