2011年9月30日公開の「Tere Mere Phere(君と僕の結婚式)」は、恋愛結婚をしながらもハネムーン早々ケンカばかりしているカップルの物語だ。
監督はディーパー・サーヒー。「Hero Hiralal」(1988年)や「Oh Darling Yeh Hai India!」(1995年)で主演をした女優であり、監督をするのはこれが初めてだ。キャストは、ヴィナイ・パータク、リヤー・セーン、ジャグラート・デーサーイー、サシャー・ゴーラーディヤー、ダルシャン・ジャーリーワーラー、スシュミター・ムカルジー、ローシャン・シャー、アヌープ・ジャローター、ケータン・カラーンデー、クリティ・パント、アニルッド・ナーイルなどである。
映画公開時にはインド在住だったが、この映画は見逃していた。2024年4月17日に鑑賞し、このレビューを書いている。
ムンバイー在住のラーフル・バースィン(ジャグラート・デーサーイー)とプージャー(サシャー・ゴーラーディヤー)は新婚夫婦で、ヒマーチャル・プラデーシュ州のガッガル空港から飛行機に乗ってシムラー空港へ向かっていた。ところがラーフルとプージャーは機内で夫婦喧嘩を始め、それが原因で飛行機はガッガル空港に引き返してしまう。同じ飛行機に乗っていたジャイ・ドゥーマル(ヴィナイ・パータク)はどうしても翌日午後4時までにシムラーに到着しなければならなかった。ラーフルとプージャーはガッガル空港の駐車場に駐車していたキャンピングカーで出発しようとするが、そこへジャイが銃を持って乗り込んできて、シムラーへ向かうように命令する。
ジャイはラーフルとプージャーがなぜ結婚早々ケンカばかりしているのか、徐々に聞き出していく。ラーフルとプージャーは一目惚れからトントン拍子に恋愛結婚をした。お互いの相性はバッチリだと感じていた。二人はハネムーンとしてレンタルのキャンピングカーでヒマーチャル・プラデーシュ州を巡るツアーに参加したが、3日も経たない内に細かいことで対立するようになり、険悪になり始める。彼らは道中でアルジュン(アニルッド・ナーイル)とギーターンジャリ(クリティ・パント)というバイカーに出会う。彼らのバイクは故障したようで、ヒッチハイクをしていた。ラーフルとプージャーは二人をキャンピングカーに乗せ、しばらく一緒に旅することになる。ラーフルはギーターンジャリと親しくなり、それがプージャーを嫉妬させた。そこでプージャーはわざとアルジュンに近づき、それがまたケンカの種になった。
ある日、ラーフルとプージャーが目覚めると、アルジュンとギーターンジャリが彼らの金を全て盗んで逃げた後だった。二人はお互いに責任をなすりつけあい、もはや関係修復は不可能になった。彼らはハネムーンを中断することにし、ガッガル空港にキャンピングカーを置いて、シムラー、デリー経由でムンバイーに戻ろうとしていたのである。その飛行機の中でジャイと出会ったというわけだった。
実はジャイは、ムスカーン(リヤー・セーン)という恋人とこれから駆け落ち結婚をするところだった。そのためにシムラーに時間内に到着する必要があった。途中で目的地がマナーリーに変わるが、それはムスカーンが他の男性と婚約させられそうになっていたからだった。ラーフルとプージャーはジャイをムスカーンとの待ち合わせ場所に送り届けるが、ジャイは彼らの不仲を見せられて結婚に不安を感じるようになり、ムスカーンから逃げ出してしまった。しかしながら、ラーフルとプージャーがケンカをしながらも愛し合っていることを見せ、ジャイはムスカーンとの結婚を決断する。
ジャイとムスカーンは田舎の寺院で婚姻の儀式を行おうとしていた。ところがそこへムスカーンの兄ヴィールー(ケータン・カラーンデー)がやって来る。ヴィールーはムスカーンを無理矢理連れ帰ろうとするが、誤ってプージャーを誘拐してしまった。ジャイとラーフルはヴィールーを追いかけてプージャーを連れ戻そうとする。ジャイだけが脱出に成功し、彼は寺院に戻ってムスカーンと儀式を行う。後からラーフル、プージャーと共にヴィールーも駆けつけるが、既に結婚をしてしまった妹を見て諦める。その後、ラーフル、プージャー、ジャイ、ムスカーンは一緒にハネムーンをすることになる。
キャストの中ではヴィナイ・パータクとリヤー・セーンのみがある程度名の知れた俳優であるが、集客力のあるスターとはいえない。映画全体の作りも低予算映画のそれであり、地味な作品だ。ディーパー・サーヒーの監督の腕にも突出したものがあるわけではない。いくつかの弱点はありながらも脚本はよくまとまっており、ストーリーが進行するほど面白さが増してくる。恋愛結婚をしながらもケンカばかりしている夫婦が何組か登場し、なぜ結婚前にあれほど盛り上がっていた恋愛は結婚後に途端に色あせてしまうのか、「夫婦あるある」なエピソードをいくつも提示しながらひとつの物語にまとめ、観客に考えさせる内容になっている。新婚夫婦やこれから結婚しようとしているカップルが観ると参考になる作品なのではなかろうか。
あらすじは、ケンカばかりしている新婚夫婦が、ハネムーン中に出会った、これから結婚しようとしているカップルを結びつけると同時に、その過程で自分たちの関係修復にも成功するというものだ。最後には全て丸くまとまり、後味がとてもいい。特にラーフルとプージャーについては、相性がいいからケンカもするという典型であり、これからも細かいケンカは絶えないだろうが何とかうまくやって行けそうな夫婦だという予感すらした。そのように感じるのは、ロードムービー的な作りになっており、我々観客も彼らと一緒に旅をした気分になって、彼らを身近に感じられるようになるからであろう。
映画のほぼ全編はヒマーチャル・プラデーシュ州で撮影されている。特に同州東部のキンナウル地方でロケが行われたようだ。断崖絶壁をくりぬいて造られた道路が続く、インドでも有数の危険な道路が印象的だ。キンナウル・ドワール(門)と呼ばれる岩のトンネルも見られた。山岳地帯の美しい光景もこの映画の見所になっている。それにしてもこの辺境地帯でロケが行われた映画は珍しい。
ただし、実際の地図が頭に入っている人にとっては、多少の違和感を感じる。彼らがキンナウル地方を旅行しているのはいいのだが、いざハネムーンを中断しようとした際、ガッガル空港から飛行機に乗るというのは地理的におかしい。なぜならガッガル空港はヒマーチャル・プラデーシュ州西部、ダラムシャーラー近くにある空港であり、キンナウル地方とは全く正反対の場所にある空港だからだ。
ラーフルとプージャーが参加した、キャンピングカーをレンタルして旅行するというツアーは初めて目にした。まず、インドでキャンピングカーは珍しい。そして、それを自分で運転して旅行するというのはインドでは全く新しいスタイルのツアーだ。普通ならば運転手が付くはずであるし、ツアーというからにはガイドも付くだろう。この映画はヒマーチャル・プラデーシュ州の協力の下に作られた。もし本当にこのようなツアーがあるならば、大きな変化である。また、途中でパラグライディングをするシーンもあったが、これは実際に体験できる場所が同州にあるのだろう。
「Tere Mere Phere」は、低予算映画かつ貧弱な作りながら、ヒマーチャル・プラデーシュ州でのロケから醸し出される旅情を有効活用し、結婚後にケンカしがちになる夫婦について鋭くも面白おかしく描き出した、技ありの作品である。観て損はない映画だ。