Force

2.5
Force
「Force」

 昔から南インド映画のヒンディー語リメイクはコンスタントに作られて来たが、昨今のヒンディー語映画界における南インド製アクション映画リメイクブームまたは南インド映画風アクション映画ブームは、アーミル・カーン主演「Ghajini」(2008年)やサルマーン・カーン主演「Wanted」(2009年)の大ヒットに端を発していると言っていい。ヒンディー語映画界では長らくアクション映画不況だったのだが、これらの映画のおかげで南インド映画テイストのアクション映画が堰を切ったように作られるようになり、昨年はサルマーン・カーン主演「Dabangg」(2010年)、今年はアジャイ・デーヴガン主演「Singham」(2011年)の大ヒットがあった。また、珍しいところでは68歳のアミターブ・バッチャンが「Bbuddah Hoga Tera Baap」(2011年)で南インド映画テイストのアクション映画に挑戦した。

 アーミル・カーン、サルマーン・カーン、アジャイ・デーヴガンなどに続いてアクション映画バンドワゴンに乗ったのはジョン・アブラハムだった。本日(2011年9月30日)より公開の「Force」はタミル語映画「Kaakha Kaakha」(2003年)のリメイクである。南インド映画のヒンディー語リメイクでは南インド映画界出身の女優がヒロインとして起用されることが多いのだが、「Force」もお約束通り南インド映画界出身のジェネリアがヒロインになっている。縁起のいいナヴラートリ祭週ということで今日から一気に少なくとも5本の新作ヒンディー語映画が封切られたのだが、その中ではもっとも上映スクリーン数が多く、まず観てみることにした。

監督:ニシカーント・カーマト
制作:ヴィプル・アムルトラール・シャー
音楽:ハリス・ジャヤラージ
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
出演:ジョン・アブラハム、ジェネリア・デスーザ、ラージ・バッバル、モーヒーシュ・ベヘル、ヴィデュト・ジャームワール、ムケーシュ・リシ、サンディヤー・ムリドゥルなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 麻薬取締局(NCB)勤務のヤシュワルダン警視監、通称ヤシュ(ジョン・アブラハム)は、インフォーマントのアルヴィンドからインド中の麻薬密輸ギャングの情報を入手し、4人の敏腕警官のチームを結成して一斉取り締まりに乗り出す。グジャラート州カッチ、ゴア州、パンジャーブ州、ヒマーチャル・プラデーシュ州ソーランをそれぞれ拠点とする4ギャングを一網打尽にする。

 また、ヤシュは覆面捜査中にNGOで働くマーヤー(ジェネリア・デスーザ)と出会い、恋に落ちる。家族がおらず、仕事の性格上今まで女性を避けて来たヤシュであったが、とうとうマーヤーと結婚することを決める。

 ところが、アルヴィンドがヤシュにタレコミをしたのには訳があった。彼は麻薬密輸で大儲けを企むギャング、レッディー(ムケーシュ・リシ)と結託しており、ケニア在住の弟ヴィシュヌ(ヴィデュト・ジャームワール)をインドに召還するに当たって、まずはインド中の麻薬密輸ギャングを一掃しようと計画したのだった。NCBとヤシュはまんまとその計画に乗ってしまったという訳である。

 ヴィシュヌがインドに上陸し、大がかりな麻薬密輸網を構築し始めた。麻薬密輸ギャングを一掃したにも関わらず、以前よりも麻薬密輸活動が活発になったことに気付いたNCBとヤシュは捜査を始め、家具商ターヒルに行き着く。ターヒルは家具の中に麻薬を仕込んで海外に密輸していた。ターヒルの尋問から麻薬密輸の現場を取り押さえることが可能となり、ヤシュはレッディーを殺害する。だが、生け捕りできたにも関わらず射殺したことが問題となり、ヤシュとそのチームは停職処分となる。

 生き残ったヴィシュヌは、まずはターヒルに復讐し、その後ヤシュのチームを一人一人殺害することにする。まずはヤシュをターゲットとし、大胆不敵にも予告をするが、ヤシュは準備万端でヴィシュヌの襲撃を撃退する。だがヴィシュヌはすぐに反撃に出で、ヤシュの部下で、停職中のために丸腰だった警官が惨殺される。

 この事件を受けてヤシュらの停職処分は解ける。また、ヤシュとマーヤーの結婚式を延期する案も出たが、ヤシュはそのまま結婚をすることにする。ヤシュとマーヤーは避暑地パンチガニーの別荘へ行って初夜を迎える。ところがちょうどその頃、ヤシュの部下の一人アトゥルの妻スワーティー(サンディヤー・ムリドゥル)がヴィシュヌに誘拐される。また翌朝ヤシュとマーヤーも襲撃される。ヤシュは銃弾で負傷し崖から落ちるものの助かり、アトゥルらに救い出される。だが、病院で意識不明の状態だった。

 アトゥルの携帯電話にヴィシュヌから電話が掛かって来る。もしスワーティーの命が惜しかったらヤシュを殺すように命令される。迷ったアトゥルだったが、そのときヤシュが目を覚まし、自分が死んだとメディアに報道するように指示する。てっきりヤシュが死んだと考えたヴィシュヌはアトゥルにスワーティーの引き渡し場所を教える。1人で来るように言われたが、ヤシュはチームを引き連れてその場所へ向かう。ヤシュやアトゥルが現場に到着したとき、スワーティーの遺体があった。責任を感じたアトゥルは拳銃自殺してしまう。

 スワーティーは殺されたが、まだマーヤーがヴィシュヌの手中にあった。死んだことになっているヤシュの他にチームメンバーで残ったのはカムレーシュのみだった。カムレーシュはマーヤーの命を救うため、ヤシュと共にヴィシュヌに呼び出された場所へ行く。ヤシュは奇襲を仕掛けてヴィシュヌの部下たちを皆殺しにし、ヴィシュヌを追う。だがヴィシュヌはヤシュの目の前でマーヤーを殺す。怒ったヤシュはヴィシュヌと激突し、激闘の末にヴィシュヌを殺す。

 僕はかねてから、南インド映画をそのままヒンディー語リメイクすることには反対している。南インド映画の映画作りはヒンディー語映画のトレンドから見ると古めかしいことが多く、失敗作に終わることが多々あるからである。具体的には、ダンスシーンの挿入の仕方(唐突過ぎる)、女優の演技(オーバーアクティング過ぎる)、登場人物の家族構成(大家族過ぎる)、脚本の稚拙さ(大ざっば過ぎる)などから古めかしさを感じる。タミル語映画リメイクである「Force」もこの欠点を踏襲しており、古いタイプのアクション映画だと感じた。

 映画の序盤に明らかに悪役の風貌をして登場した主人公が実は警官で、しかもそれがヒロインに惚れられるきっかけとなるという設定は、「Wanted」などの南インド映画発アクション映画で過去に何度も見たような気がする。ヒロインが殺されてしまうという極端なストーリーも、同じくヒロインが殺される「Ghajini」や、母親が殺される「Dabangg」などを想起させる。南インド映画にはまた独特の文法があり、それをそのままヒンディー語映画にすると何か違和感を感じる。

 しかしながら、「Force」は全体的にスピーディーな展開が心地よく、善悪も明快でアクションも優秀であり、アクション映画としてはまあまあ楽しめる作品となっていた。ジェネリアの演技は時にオーバーアクティングに思えることもあったが、彼女には演技ではなく自分自身の個性で映画を支配する力があり、それが今回はうまく活かされていたと感じた。また、ジョン・アブラハムの肉体がやたら強調されていたのも印象的であった。筋肉があまりに目立ちすぎて、彼の演技はあまり記憶に残っていない。

 娯楽を第一とした単純明快なアクション映画であったが、もし何らかのメッセージを読み取るとしたら、それは「悪人は殺すべし」という暴力的なものだ。レッディーを生け捕りにするか射殺するかの問答シーンでその葛藤が見られた。結果的にレッディーは殺され、ヤシュらは停職処分となるが、ストーリーの流れから言えば、レッディーをその場で射殺したことは正当化されていた。26/11事件(ムンバイー同時多発テロ)の実行犯の一人で唯一生け捕りとなったテロリスト、アジュマル・カサーブを多額の予算を費やして生かし続けていることへの批判も劇中にあり、警官による私刑を支持する内容であった。そういう一直線な主張も南インド映画っぽいと感じる。

 音楽はハリス・ジャヤラージ。要所要所で挿入歌が入っており、最近の映画の中ではダンスシーンやミュージカルシーンは多めだったが、特に心に残ったものはなかった。

 「Force」は、最近のヒンディー語映画界でブームとなっている、南インドで大ヒットしたアクション映画のヒンディー語リメイクである。ヒンディー語映画にはフィットしない古めかしさが散見されるが、アクション映画としてはまあまあの出来。しかし日本人がわざわざ好んで観るような作品でもないだろう。もしヒットするならば、地方都市を中心に興行成績を上げると思われる。