Pankh

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Pankh

 2010年4月2日公開の「Pankh(羽)」は、過去に男の子ながら女の子の役を演じ、一躍有名になった子役俳優が成長した後に抱える葛藤を描いたサイコスリラー映画である。

 プロデューサーはサンジャイ・グプター。監督は新人のスディプト・チャットーパディヤーイ。キャストは、マラドーナ・レベロ、ビパーシャー・バス、リレット・ドゥベー、マヘーシュ・マーンジュレーカル、アミト・プローヒト、ローニト・ロイ、サンジーダー・シェーク(子役)など。

 元女優メリー・デクーナー(リレット・ドゥベー)は、息子のジェリー(マラドーナ・レベロ)をスターにしようと夢を抱いており、子供の頃から子役俳優として売り出していた。当初は男の子の役を演じていたが、あるときから女の子役を演じさせ、それが大当たりする。ジェリーはベイビー・クスムとして有名になる。

 だが、ジェリーは成長して子役として起用されなくなり、自堕落な生活を送るようになる。同じく自堕落な生活を送っていた父親は死んでしまう。メリーは、再びジェリーをスターにしようと、映画界の知人のツテを頼ってオーディションに連れ出す。

 ジェリーがスタジオに行くと、スタントマンのサリーム(アミト・プローヒト)を見掛ける。子供の頃、サリームはジェリーの唯一の友人だった。サリームは、ベイビー・クスムを本当の女の子だと考えて彼女に恋していた。ジェリーが現れ、自分がクスムだと名乗っても、信じようとしなかった。

 また、ジェリーはスター女優ナンディニー(ビパーシャー・バス)の幻想を見ていた。彼女に導かれ、ジェリーはオーディションで女の子役をやりたいと言い出す。プロデューサー(マヘーシュ・マーンジュレーカル)と監督(ローニト・ロイ)は驚くが、彼の起用はしなかった。怒ったメリーはジェリーを突き放す。

 ジェリーはサリームと共に夜の街に繰り出し、酒を飲んで酔っ払う。ジェリーは現実世界のナンディニーに会いに行くが追い返される。サリームはジェリーこそがクスムであると信じるようになり、思い切って彼にキスをする。ジェリーはサリームを突き放し、自宅に戻る。そして自殺する。ジェリーは天国で父親と再会する。

 劇中でも語られていたが、インド映画黎明期では、男性が女性を演じたり、女性が男性を演じたりすることがあった。当時、女性がカメラの前で演技をするのははしたない行為だとされていたため、女性役を男性が演じることが多かったが、その一方で、女性が男性を演じることもあった。例えば、「インド映画の父」と呼ばれるダーダーサーヒブ・パールケー監督の無声映画「Kaliya Mardan」(1919年)でクリシュナを演じたのは、パールケー監督の娘マンダーキニー・パールケーだった。

 「Pankh」の主人公ジェリーは、母親の方針により、男の子ながら女の子役を演じた過去があった。しかも、ベイビー・クスムの名で女の子として出演した映画「Jeevan Darpan」が大ヒットし、誰もが知る子役女優になる。本当は男の子であることはほとんど知られていなかった。ただ、成長するに従って子役に起用されなくなり、ジェリーは普通の人になった。

 その幼少時の思い出がジェリーの精神に与えた影響は大きかった。彼にとってベイビー・クスムは過去の栄光であったが、性別が異なるため、それは彼自身の本当の姿でもなかった。その精神状態は、性同一性障害とも違うもののようだった。また、彼は、ナンディニーという女性の幻想も見ていた。それが何を投影した姿なのかはよく分からなかったが、もしかしたら、ベイビー・クスムのまま女優として成長した自分を彼女に見ていたのかもしれない。ジェリーがサリームに、クスムは死んだんだと涙ながらに語るシーンもあった。

 この映画は、子役女優アハサース・チャンナーの半生をモデルにしているとされている。アハサース・チャンナーは、「Vaastu Shastra」(2004年)や「Kabhi Alvida Naa Kehna」(2006年)などで、女の子ながら男の子の役を演じ、人気を博した。ただ、彼女は今でも健在であり、女優としての脱皮にも成功している。

 作り込み次第ではとても面白い映画になったかもしれないが、スディプト・チャットーパディヤーイ監督は扱いきれていなかった。ジェリーの不安定な精神状態を表すために前衛的な映像効果を用いたりしていたが、それらがことごとく外れており、単なる低予算映画になってしまっていた。

 ビパーシャー・バス、リレット・ドゥベー、マヘーシュ・マーンジュレーカル、ローニト・ロイなど、キャスティングのセンスも良かったのだが、残念ながら彼らを活かせれていなかった。マヘーシュ・マーンジュレーカルがオカマのプロデューサーを演じていたのだけは面白かった。

 「Pankh」は、子役女優としての栄光の過去を持つ若い男性が、トラウマに苛まれながら死に至るまでを描いたサイコスリラー映画である。着想やキャスティングなど、素材はいいのだが、監督の腕が未熟で、生焼けで終わってしまっていた。残念な作品である。