2009年2月13日公開のヒンディー語映画「The Stoneman Murders」は、1983年にボンベイ(現ムンバイー)で起きた連続殺人事件をテーマにした映画である。ニヒルな演技に定評のあるケー・ケー・メーナンが主演だったために観に行った。
監督:マニーシュ・グプター
制作:ボビー・ベーディー、シータル・ヴィノード・タルワール
音楽:スィッダールト・スハース
歌詞:クマール、マニーシュ・グプター
振付:レモ
衣装:ダルシャン・ジャラーン
出演:ケー・ケー・メーナン、アルバーズ・カーン、ヴィクラム・ゴークレー、ルクサール
備考:PVRナーラーイナーで鑑賞。
サンジャイ・シェーラル(ケー・ケー・メーナン)はボンベイの警察だったが、拷問中に容疑者を殴り殺してしまい、停職処分となってしまった。しかし、サータム副本部長(ヴィクラム・ゴークレー)から一度だけチャンスをもらった。現在世間を騒がせている路上生活者連続殺人事件を、ケーダール・パドケー(アルバーズ・カーン)率いる正規の捜査チームよりも早く解決したら、復職を推薦するというものだった。だが、警察からは一切の援助がなかった。サンジャイは単身事件の捜査に乗り出す。その連続殺人事件は、石で路上生活者を撲殺するというもので、いつしか犯人はパッタルマール(石殴り)というニックネームを与えられていた。 サンジャイは、元部下のクンブレーの借りつつ捜査を進めるが、彼が接触を試みた路上生活者が次々に殺されて行く。殺人は火曜日と土曜日に必ず起こることに気付いたが、次第に容疑者としてサンジャイ自身が疑われるようになる。また、妻のマナーリー(ルクサール)からは、毎晩家を空けているため、浮気を疑われていた。一度サンジャイは現行犯で犯人を捕まえそうになるが、ケーダールの邪魔を受けて取り逃がしてしまう。殺人の現場にいたことから、サンジャイは指名手配される。 サンジャイはサータン副本部長を信頼しており、逐一情報を伝えていたが、サータン副本部長すらもサンジャイを逮捕しようと計画していることを知ってしまう。サンジャイは今回の事件を迷信から来るものだと考え、図書館で部族の儀式を調べた。遂に彼は事件の真相を知る。それは、火曜日と土曜日に一人ずつ合計9人の生け贄を捧げることで、EDが直ると言うものだった。今まで8人の犠牲者が出ており、最後の犠牲者が出るはずだった。その日はちょうど火曜日で、犯人を捕まえるためには最後のチャンスであった。しかも、サンジャイは犯人が警察の中にいることまで突き止める。 指名手配中のサンジャイは、信頼を置いていた部下のクンブレーを呼び寄せ、今までの捜査の記録を託し、サータン副本部長に渡すように頼む。また、サンジャイは、警察の中の部族出身の人物が犯人だと目星を付けていることをクンブレーに話す。だが、実はそのクンブレーこそが連続殺人犯であった。サンジャイが真相を知ってしまったことに気付いたクンブレーは、不意にサンジャイを石で殴る。サンジャイも反撃するが、そこに駆けつけたケーダールに撃たれてしまう。 しかし一命を取り留めたサンジャイは病院へ搬送された。夜、クンブレーはサンジャイにトドメを刺そうと病院へやって来る。だが、ケーダールらが待ち伏せしており、クンブレーを取り押さえる。こうして連続殺人犯は逮捕された訳だが、サータン副本部長は警察の中から犯人が出たことが世間に知れ渡ってはいけないと、サンジャイにクンブレーの抹殺を命じる。サンジャイは人里離れた森の中でクンブレーを殺し、地中に埋める。
先にも述べた通り、この映画は1983年にボンベイで実際に起こった連続殺人事件を題材としている。また、どうも1987年にカルカッタ(現コルカタ)で似たような連続殺人事件が起こったようで、それとの関連にも踏み込んでいる。監督は映画を通し、連続殺人の動機は、部族出身の人物による呪術的儀式であり、それが未解決のままなのは、警察が保身のために隠蔽したのが原因だったと提示していたが、もちろんこれは空想に過ぎず、これをそのまま事件の真相だと受け止めてはならないだろう。
「The Stoneman Murders」は、ヒッチコックが得意としたいわゆる巻き込まれ型サスペンスの一種だと言える。それに、部族の呪術に関連したおどろおどろしいホラーの要素も加わっており、全体としてある程度緊張感は保たれている。しかし、終盤の種明かしまでの持って行き方が、伏線が足りないためか唐突な印象を受けた。細かい部分で整合性の低い部分もあった。よって、最上のサスペンスとは言えないし、ホラー映画としても失格である。
しかし、ケー・ケー・メーナンは持ち前の演技力を発揮する場を存分に与えられており、彼の表情の使い方のうまさを感じさせられるシーンがいくつもあった。彼のために作られた映画だと言っていい。他に、ヴィクラム・ゴークレーの演技も良かった。
インド映画の悪い癖なのだが、緊張感の維持がもっとも重要な映画の中にも無理にダンスシーンを挿入しようとすることがあり、この「The Stoneman Murders」もその呪縛から逃れられていなかった。もちろん、才能ある監督なら本筋を邪魔しない方法で挿入歌などを入れ込むことができるのだが、マニーシュ・グプター監督からはそういう技術を感じなかった。結果、映画の完成度は落ちていた。
「The Stoneman Murders」は、巻き込まれ型サスペンス映画の一種であるが、主演ケー・ケー・メーナンの演技以外は特筆すべき点に欠ける映画であった。無理に観る必要はないだろう。