Ugly Aur Pagli

3.5

 2008年7月25日から26日にかけ、カルナータカ州バンガロールとグジャラート州アハマダーバードにおいて連続爆破テロが発生し、その後も各地でテロ騒ぎが続いている。アハマダーバードの爆弾テロは、市街地と病院を時間差で狙った悪質なもので、先日公開された映画「Contract」(2008年)のプロットと酷似しており、インド映画がテロや犯罪のインスピレーション源になっている可能性が改めて議論された。また、7月22日には下院で信任投票が行われ、あわや政変という事態にまで行った上に、与党による信任票の売買というスキャンダルがまだくすぶっていることもあり、政治が不安定な状態になっている。もし「Contract」のプロットをそこまで信じるならば、今回の連続爆破テロは、不安定な政局から国民の目をそらすために政治家によって計画されたものだと邪推されても仕方ないだろう。さらに7月30日にはデリーの日本大使館にテロ予告が届き騒然となった。結局それはインド人による悪ふざけであることが分かったのだが、真相発覚後もデリーでは通常よりも明らかに厳戒なレベルの警戒態勢が敷かれている。

 そんな状態なのでなるべく外出を避けているのだが、映画のためには外に繰り出さねばならず、今日は、2008年8月1日公開の新作ヒンディー語映画「Ugly Aur Pagli」を観て来た。

監督:サチン・カムラーカル・コート
制作:プリーティシュ・ナンディー、ランギーター・プリーティシュ・ナンディー
音楽:アヌ・マリク
歌詞:アミターブ・ヴァルマー
振付:レモ、ラージーヴ・スルティ、ポニー・ヴァルマー
出演:マッリカー・シェーラーワト、ランヴィール・シャウリー、スシュミター・ムカルジー、マニーシュ・アーナンド、ヴィハング・ナーヤク、バーラティー・アチュレーカル、ガウラヴ、パーヤル・ローハトギー(特別出演)、サプナー・バーヴナーニー(特別出演)、ズィーナト・アマン(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 カビール(ランヴィール・シャウリー)は、ムンバイーの工科大学で留年に留年を重ねる落ちこぼれであった。長年ガールフレンドを求めていたがいつもうまく行かなかった。その上、母親からは、サンディヤー叔母さん(ズィーナト・アマン)のところへ行ってお見合いをするように強要されていた。

 カビールはある晩、駅でプラットホームから落ちそうになっている女の子(マッリカー・シェーラーワト)を見つけ、思わず助ける。その女の子はかなり酔っぱらっていた。そのまま放っておけなかったカビールは彼女を背負ってホテルへ行く。だが、部屋のエアコンを修理しようとして間違ってホテル全体の電気回線をショートさせてしまい、悪戯と勘違いされて警察に連行される。

 だが、その出会いがきっかけとなって2人はその後も会うようになる。女の子の名前はクフー。脚本家志望。常に命令口調で話し、何か気に障ることを言ったらすぐにビンタが飛んで来るような恐ろしい女の子であった。しかも賭けに負けたカビールはクフーの奴隷ということになってしまう。だが、カビールはクフーをいつも喜ばせたいと思っていた。

 ある日、いつものようにクフーが酔いつぶれてしまった。カビールはクフーを初めて彼女の家へ連れて行く。だが、そこにはクフーの両親が待ち構えていた。落ちこぼれのカビールはクフーの両親に気に入られず、しかも失態を演じて追い出されてしまう。

 それをきっかけにクフーは家出をし、カビールを連れてゴアへ旅立つ。だが、家族を捨てることができなかったクフーは、カビールに別れを告げる。何が何だか分からないカビール。だが、それ以来クフーは消息を絶ってしまう。

 2年後。しばらくコールカーターに住んでいたクフーはムンバイーに戻って来る。両親は彼女をお見合いさせようとする。だが、そのお見合い相手はカビールの友人であった。カビールからクフーのことを聞いていた彼は、彼女の前でカビールが彼女について語ったことを話す。それを聞いてクフーはお見合いの場から駆け出す。だが、カビールは既に引っ越し、連絡先も変わっており、彼を見つけることはできなかった。

 一方、カビールは、クフーへの思いを映画の脚本にし、それが認められてちょっとした名声を稼いでいた。そしてとうとうお見合い結婚をすることを決意する。サンディヤー叔母さんの紹介でお見合い相手と顔を合わせる。それはなんとクフーであった。

 2006年にラブコメ映画「Pyaar Ke Side/Effects」が公開されスマッシュヒットを飛ばした。ミスター・ヒングリッシュ、アート系映画の旗手として知られる演技派男優のラーフル・ボースが、アイテムガール、セックスシンボル、そしてヒンディー語映画界のトラブルメーカーとして知られるマッリカー・シェーラーワトと共演するというチグハグなキャスティングであったが、この2人のミスマッチさが逆に妙にはまり、絶妙なラブコメにまとまっていた。おそらく「Ugly Aur Pagli」は、その2匹目の土壌を狙った映画である。プロデューサーはどちらもプリーティシュ・ナンディーとその妻ランギーター・プリーティシュ・ナンディーが経営するプリーティシュ・ナンディー・コミュニケーションズ。主演男優は異なるものの、ヒロインはどちらもマッリカー・シェーラーワト。映画の全体的デザインや、女性牽引型の展開などもとてもよく似ている。だが、「Pyaar Ke Side/Effects」との類似が必ずしも「Ugly Aur Pagli」の欠点となっていたわけではない。笑いとロマンス、涙とサスペンスが適度に配分され、ライトなノリの娯楽映画に仕上がっていた。

 インド映画では伝統的に、強くたくましいヒーローと、美しくもか弱いヒロインを原則として映画作りが行われて来た。だが、社会の変化を反映し、気弱なヒーローと強気なヒロインによるロマンス映画も作られるようになって来ている。日本ではしばしば「女性の男性化と男性の女性化」と言われるが、インドでもその傾向はあるようで、ヒンディー語映画界はその流れを敏感に感じ取っている。「Ugly Aur Pagli」が捉えたのも正にこの点で、従来の「男が女を守る」的な概念を笑い飛ばし、女性主導型恋愛時代の到来を宣言していた。また、通常「ドメスティック・バイオレンス」と言った場合、男性が女性に暴力を振るうことであるが、「Ugly Aur Pagli」では事あるごとにビンタを飛ばす、男性に暴力を振るう女性がヒロインとなっており、その暴虐振りがコメディーの種になっていた。

 とは言っても、女性の矛盾点や弱点を突くことも忘れていなかった。普段は男女平等を盾に男勝りな行動や要求をするクフーであったが、いざ不利になると「私は女なのよ」と言い訳するシーンがいくつかあった。また、結局クフーが常に高慢な態度を取っていたのは、彼女がカビールに手紙で明かしたところによると、昔の恋人を忘れたいがためであった。女性の外面的強さは、結局内面的弱さを隠すためのものだということがそこで主張されていた。カビールはクフーに振り回されてばかりであったが、クフーのことを一途に想い続け、最後の最後で彼女の心を勝ち取っており、それは伝統的な恋愛映画の流れとそう異なっていないと言える。

 ただし、映画のあらすじは、日本でも公開された韓国映画「猟奇的な彼女」(2001年)と酷似している。韓国映画のリメイクだとすると、上記の事柄はインドの社会の変化を反映したものとは言えないかもしれない。

 前半は正に猟奇的な展開で面白いのだが、カビールとクフーが離れ離れになってからは急に雰囲気が変わってしまう。2年振りに現れたクフーが急におしとやかな女の子になっているのは、前の恋人を忘れられて吹っ切れたからであろうか?だが、もう少し説明があればよりまとまった映画になったと思う。

 何かと話題になるマッリカー・シェーラーワトであるが、「Pyaar Ke Side/Effects」と同様に、素晴らしい演技をしていた。しかも何が起こったか分からないがかわいいのである。彼女は自分が何を期待され、何をすればいいかを完全に把握しており、しかもそれを越えるだけの力を見せる抜け目なさも備えている。大女優のオーラすら出ていた。何はともあれ、現在のヒンディー語映画界で名前で観客を呼ぶことのできる女優の一人であることは間違いないだろう。「Ugly Aur Pagli」はマッリカーのためにある映画である。

 「醜い男」にされてしまったランヴィール・シャウリーは、ださい駄目男の雰囲気を巧妙に醸し出していた。「Pyaar Ke Side/Effects」のラーフル・ボースと役柄が重なるようになっているのは気になるが、いい俳優である。ちなみにラストではランヴィールとマッリカーが熱いキスを交わすシーンがある。見てて怖くなるくらいマッリカーは本気で彼にキスをしていた・・・。

 脇役陣の中では、お見合い叔母さんのサンディヤーを演じたズィーナト・アマンが特筆に値する。往年の名女優の一人で、既に引退しており、滅多にスクリーンには登場しない。

 「Pyaar Ke Side/Effects」は音楽もヒットしたが、「Ugly Aur Pagli」のサントラCDもなかなかいい。特にディスコ・ナンバー「Talli」が秀逸である。

 「Ugly Aur Pagli」は、プリーティシュ・ナンディー・コミュニケーションズが得意とするライトなノリのラブコメ映画である。笑いとロマンスのバランスが絶妙で、マッリカー・シェーラーワトがいつになく魅力的なので、口コミがうまく作用すればヒットするかもしれない。