インド系移民が世界中に散らばっていることもあり、インドには海外を舞台にした映画を作りやすい素地があり、実際にそのような映画が少なくない。米国、英国、スイス、オーストラリア、南アフリカ共和国などがロケ地に選ばれることが多いのだが、最近ではタイ、マレーシア、シンガポール、韓国など、アジアの国々で撮影された映画も出て来た。もうすぐ公開の話題作「Chandni Chowk to China」では中国ロケも敢行されている。
2008年7月25日より公開のヒンディー語映画「Mission Istaanbul」は、その名の通り、トルコを舞台にしている。「Guru」(2007年)でも少しだけトルコでロケが行われていたが、「Mission Istaanbul」はほぼ全編トルコ・ロケである。
監督:アプールヴァ・ラーキヤー
制作:エークター・カプール、ショーバー・カプール、スニール・シェッティー、シャッビール・ボックスワーラー
音楽:アヌ・マリク、シャミール・タンダン、チランタン・バット、ミカ・スィン
歌詞:シャッビール・アハマド、ハムザ・ファールーキー、サミール、イシュク・ベクター、ミカ・スィン、ヴィラーグ・ミシュラ
振付:ボスコ・マーティス、シーザー・ゴンサルヴェス、レモ
衣装:ファルグニー・タークル
出演:ザイド・カーン、ヴィヴェーク・オーベローイ、シュリヤー・サラン、シュエーター・バールドワージ、ニケータン・ディール、シャッビール・アフルワーリヤー、カリール・アハマド、ブレント・メンデンホール、スニール・シェッティー(特別出演)、アビシェーク・バッチャン(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。
インドの大手TVニュース局「Aaj Tak」でニュースキャスターを務めていたヴィカース・サーガル(ザイド・カーン)は、さらなる出世を求め、トルコを拠点とする世界有数の報道会社アル・ジョーハラに転職する。だが、その決定を巡って妻のアンジャリー(シュリヤー・サラン)と対立し、遂には離婚に至ってしまう。 トルコに着いたヴィカースは、アル・ジョーハラの記者オワイス・フサイン(スニール・シェッティー)の出迎えを受け、本社へ案内される。アル・ジョーハラのガズニー社長(ニケータン・ディール)はヴィカースを歓迎するが、本社ビル13階にだけは近づかないように警告する。 ヴィカースは「Aaj Tak」時代から、アフガニスタンを拠点とする国際的テロ組織の首領アブー・ナーズィル(カリール・アハマド)を追っていた。その頃、アフガニスタンでは外国人観光客がアブー・ナーズィルの組織に誘拐される事件が起こる。オワイスがアフガニスタンへ取材に行くことになり、ヴィカースも同行を申し出る。実は取材と同時に人質の解放もミッションに入っていた。アフガニスタンではアブー・ナーズィルの右腕カリールとの接触に成功、急襲部隊による奇襲もうまく行き、人質を救出するが、このときオワイスは銃弾を受けて死んでしまう。 オワイスの葬儀が行われた。そのとき、ヴィカースは謎の男に「お前の命は狙われている」とのメッセージを受ける。また、ヴィカースの前には敵か味方か分からない謎の女リサ・ロボ(シュエーター・バールドワージ)も現れる。徐々にヴィカースは、アル・ジョーハラという組織に漠然とした疑問を持ち始める。 ヴィカースは謎の男と接触する。男の名はリズワーン・カーン(ヴィヴェーク・オーベロ^イ)。アブー・ナーズィルによるテロで妻子を殺され、トルコのコマンドー部隊に入隊し、除隊後はテロ組織壊滅のために地下活動をしている男であった。リズワーンはヴィカースに、衝撃的な事実を伝える。アブー・ナーズィルは既に死んでおり、アル・ジョーハラがアブー・ナーズィルの映像を加工してテロの予告や犯行声明を出しているとのことであった。アル・ジョーハラ本社ビルの秘密の13階がその作業を行う場所だった。また、アル・ジョーハラは今度はインドをテロのターゲットにしようとしていた。リズワーンは、アル・ジョーハラの実態を明るみに出し、インドをテロから救うため、コンピューターのエキスパートであるヴィカースの協力を求めた。 ヴィカースとリズワーンは協力してアル・ジョーハラに突入し、13階のコンピューターからデータを全てペンドライブにコピーして脱出する。逃亡する二人の前に謎の女リサが現れるが、彼女は二人を自動車に乗せ、脱出を手助けする。リサは実は、インドの対外諜報機関、調査分析局(RAW)のエージェントで、アル・ジョーハラの実態調査をしていたのだった。ガズニー社長は追っ手を差し向けるが、三人は返り討ちにする。 ガズニー社長は三人をテロリストとして指名手配する。ヴィカースはインド大使館へ行って援助を求めるが逆に逮捕されそうになる。また、リサはテロリストのカリールに殺されてしまう。ガズニー社長は、ヴィカースの前妻アンジャリーをインドから呼び寄せて捕らえ、データをコピーしたペンドライブとの交換を要求する。ヴィカースは待ち合わせ場所の廃工場へ行く一方、リズワーンはあちこちに時限爆弾を仕掛ける。ペンドライブを手に入れたガズニー社長は、ヴィカースとアンジャリーを殺そうとするが、タイミングよく爆弾が爆発する。ヴィカースはガズニー社長と、リズワーンはカリールと死闘を繰り広げ、二人を殺す。こうして、インドは国際的テロ組織の魔の手から救われたのだった。
国際的テロ組織と国際的報道会社の闇の関係を描いたスケールの大きいアクション・スリラーであった。ウサーマ・ビン・ラーディン、アル・カーイダ、アル・ジャズィーラ、ブッシュ大統領などとそっくりの人物や組織が登場、これらが結託し、テロを利用することで世界の政治や経済を動かしているのではないか、ということが暗示されていた。また、ウサーマ・ビン・ラーディンは既に死んでおり、もっと巨悪な存在が彼の名前を使って世界中でテロが行っていることも示唆されていた。現在、インドの各都市で無差別爆弾テロが相次いで発生しているのだが、映画中でも国際的テロ組織の次なるターゲットがインドとなっているとされており、とてもタイムリーな時期に公開されたと言える。
銃撃戦、カーチェイス、肉弾戦など、アクション映画お約束のアクションシーンには気合いが入っており、娯楽映画として十分楽しめる作品になっていた。ザイド・カーンやヴィヴェーク・オーベローイなどの俳優も適材適所であった。イスタンブールが醸し出す異国情緒もいい刺激になっていた。ブッシュ大統領やウサーマ・ビン・ラーディンのそっくりさんが出て来る点で、茶目っ気も加わっていた。主人公ヴィカースと前妻アンジャリーの関係の描写が弱かったが、コンパクトにまとまった典型的マサーラ―映画になっていたと言える。
一時期将来を有望視され、アイシュワリヤー・ラーイの恋人としても名を馳せていたヴィヴェーク・オーベローイは、ここ数年全くツキに見放されていたのだが、「Mission Istaanbul」での演技を見て、もっと評価されてもいい味のある男優だと感じた。これをきっかけに第二のブレイクは来るだろうか?少なくとも主演のザイド・カーンより存在感を示せていた。
ヒロインのシュリヤー・サランは、タミル語映画「Sivaji – The Boss」(2007年)でタミル語映画界のスーパースター、ラジニーカーントと共演する幸運に恵まれ、そのままヒンディー語映画界でも運が続くかと思ったが、残念ながら「Mission Istaanbul」では名ばかりのヒロインで、ほとんど出番はなかった。もう一人のヒロインを演じたシュエーター・バールドワージは新人。レーカーに似た鋭い目をした女優で、アクションシーンも果敢にこなしていた。アクションもできる女優として売り出して行くのだろうか?
音楽はアヌ・マリクなどの合作。注目はトルコ語歌詞の入った「Jo Gumshuda」と、アビシェーク・バッチャンがアイテムボーイ出演する「Nobody Like You」であろう。だが、映画中での挿入歌やダンスシーンの入り方は唐突な印象が強かった。
最近のインド映画では映画内広告が流行っているが、「Mission Istaanbul」ではマウンテンデューのあからさまな広告が入っていた。映画の副題の「Dar Ke Aage Jeet Hai(恐怖の先に勝利がある)」も、マウンテンデューのキャッチコピーである。ちょっとここまで来ると映画内広告も行き過ぎだと感じた。
「Mission Istanbul」は、娯楽映画としてはよくできた作品である。「テロの時代」に突入した現代の世界におけるテロの実態にも切り込んでおり、面白い。観て損はない作品である。