最近、デリーの酷暑から一時的に逃れ、バンガロールに滞在している。僕の映画ライフは、デリーではPVR系列の映画館に多大に依存しているが、ここバンガロールでも同じくPVR系列のPVRベンガルールが行きつけの映画館だ。PVRベンガルールは、バンガロールで最も流行っているモール、フォーラムに併設されている。フォーラムの土日の混雑振りは半端ではない。グルガーオンのモールでもこれほど混雑していないのではないかというくらいだ。また、今回久し振りにバンガロールに来たところ、カンナダ映画が無理に振興されているのが気になった。映画の料金はヒンディー語映画、英語映画、カンナダ語映画で異なり、カンナダ語映画が最も安く、英語映画が最も高くなっている。チケットの値段の差は税金の差から来ている。このバイアスは元からだったのだが、最近カンナダ語映画以外への税金がますます値上げされたようだ。また、カーヴェーリー河問題のせいでカルナータカ州内では反タミルの動きが強まっており、それは映画界にも影響を与えている。バンガロールではタミル語映画の上映機会がめっきり減ってしまったと言う。
しかし、PVRベンガルールで驚くのは、どんなにつまらない映画でも大体満席になることである。平日なのにも関わらず。もちろん、今インドは夏休みに当たる期間にあり、特別なのだろうが、それでもデリーの映画館の状況を見慣れていると異常に思える。デリーでは、つまらない映画は、まだそのつまらなさが知れ渡っていないはずの初日でも閑古鳥が鳴くことがほとんどである。その点でデリーの観客の方がシビアだ。だが、どうもバンガロールは爆発的に増加する人口に対して映画館の数が足りていないようだ。駄作でも満員御礼の秘密は、映画館の数の少なさにあると考えて良さそうである。
今日は、2007年5月11日に公開された「Good Boy Bad Boy」を観た。僕は観る前から駄作と判断してスキップしようと思っていたのだが、時間があったことと、タイミングが合ったことから、この映画も観てみることにした。だが、この映画も満席。そして意外にも割と面白い映画だった。
監督:アシュヴィニー・チャウドリー
制作:ラージュー・ファールーキー
音楽:ヒメーシュ・レーシャミヤー
作詞:サミール
振付:レモ、サロージ・カーン
出演:トゥシャール・カプール、イムラーン・ハーシュミー、イーシャー・シャルヴァーニー、タヌシュリー・ダッター、パレーシュ・ラーワル
備考:PVRベンガルール・ヨーロッパで鑑賞。
ラージュー・マロートラー(イムラーン・ハーシュミー)は既に3回も大学を退学になったバッドボーイであった。官僚の父親は息子の出来の悪さに頭を痛めていた。一方、ラージャン・マロートラー(トゥシャール・カプール)は典型的な優等生。しかし、酒場を経営する父親は息子の生真面目さを心配していた。二人は同じ大学に通っていた。ラージューは優等生の女の子ラシュミー(イーシャー・シャルヴァーニー)に惚れており、事あるごとにアタックしていたが、全く相手にされなかった。また、不良少女のディンキー(タヌシュリー・ダッター)は、真面目なラージャンに色目を使っていた。 ある日、大学に新しい学長アワスティー(パレーシュ・ラーワル)がやって来る。アワスティーは風紀の乱れた大学を立て直すため、新制度を導入する。それは、成績に従って生徒を3つのグループに分けるというものであった。成績70%以上の学生はAグループ、50~70%の学生はBグループ、50%以下の学生はCグループに振り分けられた。92%の成績のラージャンは当然Aグループに行くはずで、35%のラージューはCグループのはずだった。ところが二人の名前が紛らわしかったため、入れ替わってしまう。ラージューはラシュミーと同じクラスになれたことを喜び、ラージャンは、落第生のラージューが勉強する気になっているのを見て応援することに決めた。こうしてラージューとラージャンは秘密を共有する親友となった。 ラシュミーは次第にラージューに惹かれるようになり、ラージャンもディンキーの押しに押されるようになる。だが、アワスティー学長はラージューとラージャンの入れ替わりに気付いていた。しかもラシュミーはアワスティー学長の娘であった。しかしながら、彼はそのまま黙って様子を見守っていた。 ラージューとラージャンの大学は、大学対抗フェスティバルに参加することになった。アワスティー学長はラージャンをダンス部門の代表に、ラージューをクイズ部門の代表に選出する。勉強嫌いのラージューにクイズなど答えられるわけがなく、運動神経ゼロのラージャンにダンスができるはずがなかった。困り果てたラージューとラージャンは入れ替わりのことについて学長に謝りに行くが、学長は彼らを臆病者呼ばわりして追い返す。仕方なく、ラージューは必死に勉強し、ラージャンは必死にダンスを習う。 フェスティバル当日。ラージャンは練習の成果を披露し、見事ダンス部門で優勝する。また、ラージューも苦しみながらクイズを答え、優勝する。
真面目な親に不良の息子が生まれ、その息子が優等生の女の子に恋をする。一方、不真面目な親に優等生の息子が生まれ、その息子が不良の女の子に恋をする。そしてグッドボーイとバッドボーイが入れ替わって今までとは違った人生を歩み始める。そんな「王子と乞食」の現代版のような作品であった。展開が分かりやすく、テンポも良かったので、単純な娯楽映画を求める人には打ってつけの映画となっていた。佳作と言っていいだろう。
ほとんど深く批評する必要のない娯楽映画ではあるが、学生を成績によって3つのグループに分けるという試みは、もしかしたら近年インド中で大きな問題になっている留保制度を暗に風刺しているのかもしれない。エンディングで、その試みを提案したアワスティー学長は、「どんな生徒も我が校の宝だ」みたいなまとめ方をしていた。だが、これはおそらく深読みし過ぎであろう。
イムラーン・ハーシュミーとトゥシャール・カプールの凸凹コンビは面白かった。最近のヒンディー語映画をマメに見ている人なら、「Good Boy Bad Boy」という題名と、この二人の男優の名前を聞いただけで、「グッドボーイ=トゥシャール・カプール、バッドボーイ=イムラーン・ハーシュミーだろう」と容易に想像が付くことだろう。それほど大衆の一般的なイメージをうまく活かした配役であった。やはりトゥシャール・カプールは生真面目な優男の役が似合う。と言うかそれしかできない。このまま変な欲を出さずにこの路線で行けば、少しは生き残って行くチャンスはあるだろう。イムラーン・ハーシュミーも相変わらずイムラーン・ハーシュミーであった。しかも音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。イムラーンとヒメーシュのコンビは最強であるが、この映画の音楽はそれほどヒットしていないようだ。
それにしても、この映画を観てひとつ「なるほど」と思ったことがあった。それは、先月公開された「Kya Love Story Hai」(2007年)で主演したトゥシャール・カプールが、やたらとイムラーン・ハーシュミーの真似をしているように思えてならなかったのだが、それはおそらく「Good Boy Bad Boy」の撮影時に彼から直接「イムラーン道」を学んだのだろう、ということだ。
女優陣は添え物に過ぎなかったが、やはりグッドボーイとバッドボーイに合わせて、グッドガール、バッドガールのイメージが強い若手女優2人が登場。ただし、グッドボーイ×バッドガール、バッドボーイ×グッドガールという捻った組み合わせであった。元々プロのダンサーで、美貌や演技力は二の次のまま映画デビューしたイーシャー・シャルヴァーニーだが、今回は自慢のダンスはほとんど披露しておらず、グッドガールのヒロイン女優としての地盤固めに動き出しているように感じた。髪型も以前より魅力的になっており、ヒット作に恵まれれば有望な女優になれるだろう。一方、セクシーなイメージが先行するタヌシュリー・ダッターはバッドガールの役。先日公開された「Raqeeb」より存在感のない役ではあったが、美しさは「Good Boy Bad Boy」の方が上だった。彼女は今のところ微妙な位置にいる女優だ。このままだと悪女役の女優になってしまうだろう。
脇役出演のコメディアン、パレーシュ・ラーワルは、今回はコメディー色をぐっと抑えた落ち着いた演技を見せていて、若手俳優4人を前面に押し出した学園物映画をグッと引き締めていた。
バッドボーイのラージュー・マロートラー(イムラーン・ハーシュミー)よりもさらにあくどいバッドボーイズが映画の真の悪役として暗躍するのはご愛嬌であろう。
「Good Boy Bad Boy」は見た目駄作ではあるが、普通に楽しめる娯楽映画であった。やはり無理に観る価値のある映画ではないが、暇つぶしには悪くないオプションである。