Fight Club

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Fight Club
「Fight Club」

 今日はPVRプリヤーで、2006年2月17日公開の新作ヒンディー語映画「Fight Club」を観た。「Fight Club」というと、1999年に公開されたブラッド・ピット主演のハリウッド映画「ファイト・クラブ」を思い出す。このヒンディー語映画版「Fight Club」は、ハリウッド版「ファイト・クラブ」から着想を得ていることは確実ではあるが、ストーリーは全く別であり、ほとんどオリジナルの作品に仕上がっている。

 プロデューサーはソハイル・カーンとバラト・シャー、監督はヴィクラム・チョープラー(新人)、音楽はプリータム。キャストは、スニール・シェッティー、ソハイル・カーン、ザイド・カーン、ディノ・モレア、リテーシュ・デーシュムク、アシュミト・パテール、アーシーシュ・チャウダリー、ラーフル・デーヴ、ヤシュ・トーンク、ディーヤー・ミルザー、ネーハー・ドゥーピヤー、アムリター・アローラー、クルブーシャン・カルバンダーなど。

 ムンバイーの大学生、カラン(ディノ・モレア)、ヴィッキー(ザイド・カーン)、ソーミル(リテーシュ・デーシュムク)、ディックー(アーシーシュ・チャウドリー)は、憎しみ合う二人が一対一で素手で殴り合うことのできるファイト・クラブを始める。ファイト・クラブは大成功を収めるが、次第に警察に妨害されるようになる。

 ソーミル(リテーシュ・デーシュムク)の叔父(クルブーシャン・カルバンダー)はデリーでクラブ「クロスロード」を経営していた。だが、マフィアのボス、サンディー(ラーフル・デーヴ)からクラブを売り渡すよう恐喝されていた。なぜならそのクラブはデリーとハリヤーナー州の境目にあり、麻薬などの売買に絶好のロケーションだったからだ。しかし、叔父は25年間経営してきたクラブを簡単に手放そうとしなかった。叔父のことが心配になったソーミルはデリーに駆けつけるが、叔父はマフィアに殺されてしまう。

 ソーミルのクラブをそのまま存続させるため、カラン、ヴィッキー、ディックーらはデリーにやって来る。クラブではカランの恋人のショーナーリー(アムリター・アローラー)が歌手をして繁盛するが、すぐにマフィアの妨害が入るようになった。ヴィッキーは、宿敵のサミール(ソハイル・カーン)を説得して仲間に引き込み、マフィアに対抗する。

 その頃、サンディーが慕う真のボス、アンナー(スニール・シェッティー)が刑務所から出所してくる。アンナーはひねくれていた弟のモーヒト(ヤシュ・トーンク)を改心させるために自首し、刑期を終えて出てきたのだが、モーヒトの性格に変化はなかった。それに失望しながらも、アンナーはマフィアから足を洗い、真面目に働き始める。しかし、モーヒトは密かにサンディーやその弟のディネーシュ(アシュミト・パテール)とつるんでいた。

 ソーミルの叔父を殺した張本人であるディネーシュは、ひとつの計画を考える。まずディネーシュはモーヒトを興奮させて、クロスロードに送り込む。モーヒトはカランたちがムンバイーでやっていたファイト・クラブに出場したことがあった。モーヒトはクロスロードに乱入すると、大声でわめき散らす。すぐにモーヒトはつまみ出されてボコボコに殴られる。血まみれになって帰って来たモーヒトを、ディネーシュは殺害する。弟が殺されたことを知ったアンナーは、カランたちが殺したと勘違いして激怒する。カラン、ヴィッキー、ソーミル、ディックー、サミールの5人は捕えられて、アンナー、サンディー、ディネーシュらにリンチを受ける。だが、そのときモーヒトを殺したのはディネーシュであることがアンナーにばれてしまう。怒ったアンナーはディネーシュを殺す。

 クロスロードの危機も去り、カラン、ヴィッキー、ソーミル、ディックー、サミールは、ショーナーリー、カランの妹でヴィッキーの恋人アヌー(ディーヤー・ミルザー)、サミールの恋人コーマル(ネーハー・ドゥーピヤー)、そしてアンナーを交えて祝杯を上げる。

 今をときめくB級スターたちが総出演する、オールB級スターキャストとでも言うべき映画だった。B級スター、つまりいまいち大スターになりきれない俳優や、まだ若手や新人で知名度の低い俳優たちのことだ。この中から将来の大スターが生まれる可能性がないことはないのだが、今のところは先頭集団に付いていけていない人たちばかりである。どちらにしろ、この映画を観れば、21世紀に入ってデビューした俳優たちの多くをカバーすることができるだろう。

 ハリウッド版「ファイト・クラブ」は衝撃の大どんでん返しが売りの脚本重視の映画であったが、このヒンディー語映画版「Fight Club」は悪い意味でハリウッド版の影も形もなかった。2つの映画の共通点は、「ファイト・クラブ」という殴り合いのクラブが存在することだけで、それ以外は全く違う映画であった。そして残念なことに、ヒンディー語映画版の方が遥かに深みのない映画になってしまっていた。最も致命的な欠点は、前半と後半で大きな溝があることだ。「ファイト・クラブ」が出て来るのは前半だけで、後半は全く別のストーリーと言っても過言ではない。最後の決闘シーンで思い出したように殴り合いが始まるが、全く脈絡がない。題名を「ファイト・クラブ」とする必要性すら感じなかった。

 キャストの中で最も有望なのはザイド・カーンであろう。「Main Hoon Na」(2004年)や「Dus」(2005年)のヒットにより、現在人気上昇中の男優である。「Fight Club」でもいい演技をしていた。ディノ・モレアは、まだモデルっぽさが残っているものの、俳優らしくなって来た。リテーシュ・デーシュムクはほとんど殴り合いに参加していなかったのが気になった。ソハイル・カーンはこの映画のプロデューサーでもある。腕っ節の強い寡黙な男という得意な役を演じていた。というより、彼はそういう役しか演じないような気がする。ソハイル・カーンが映画中で乗っていた大型バイクは、彼の愛車らしい。アーシーシュ・チャウドリーはどちらかというとコミック・ロールであったが、濃い顔をしているので、こういうおちゃらけた役は似合っていないと思う。スニール・シェッティー、ラーフル・デーヴ、アシュミト・パテール、ヤシュ・トーンクなどの悪役側俳優も、目立った活躍はできていなかった。

 はっきり言って男の映画だったので、女優陣はほとんど出番がなかったし、出て来る必要性も感じなかった。ディーヤー・ミルザーだけはかわいさが際立っていた。特にデパートでザイド・カーンをからかうシーンがよかった。アムリター・アローラーは全く理解不能のキャラクター。ほとんどアイテム・ガール出演である。ネーハー・ドゥーピヤーは友情出演とのことだが、蛇足に近かった。

 映画はムンバイーとデリーが舞台になっていた。デリーのシーンで最も印象に残ったのはアンサル・プラザのロケのシーンであろう。アーシーシュ・チャウダリーとソハイル・カーンが、ヤシュ・トーンクら悪党と戦うシーンだ。アシュミト・パテールやネーハー・ドゥーピヤーも出て来る。その後に登場するクトゥブ・ミーナールが見えるオープンカフェは特定できなかった。

 「Fight Club」は、ハリウッド版「ファイト・クラブ」の単なる焼き直しでない点は評価できるが、その原作よりも明らかに楽しくない映画なので、これでは「そのままパクッた方がよかった」と変な文句を言われてもおかしくないだろう。ただ、たくさんの若手男優が登場するので、現在どんな男優がヒンディー語映画界にいるのかを概観するには役立つだろう。


https://www.youtube.com/watch?v=wET93nTiQvE