King of Bollywood

4.0

 2004年9月24日に公開された映画の一本、ヒングリッシュ映画の「King of Bollywood」をPVRグルガーオンで観た。監督はピーユーシュ・ジャー、音楽はスモーク。キャストは、オーム・プリー、ソフィー・ダール、カヴィター・カプール、ディワーカル・プンディル、マノージ・パーワーなど。ヒングリッシュ映画なので言語は基本的に英語。所々ヒンディー語が入るが、英語字幕が入る。

 クォーター・インド人の英国人女性クリスタル(ソフィー・ダール)は、ボリウッドの大スターKK、つまりカラン・クマール(オーム・プリー)の大ファンだった。クリスタルはカラン・クマールのドキュメンタリーを撮るためにムンバイーを訪れ、KKにドキュメンタリー撮影の許可をもらう。プライベートは撮影しない約束だったが、カメラマンはこっそりKKの部屋に隠しカメラを仕掛け、大スターの真実を暴く。

 KKはかつて大スターだったものの、年を取った現在では主演作の話が全く来なくなり、悶々とした生活を送っていた。プライドが高いKKはゲスト出演などは我慢ならず、自分がヒーローにならなければ出演しようと思わなかった。妻のマンディラー(カヴィター・カプール)も往年の大女優だったが、KKと結婚した後はスクリーンから遠ざかって、夫の傲慢な態度に愛想を尽かしながらもこっそりと暮らしていた。一人息子のラーフル(ディワーカル・プンディル)は、父親の後を継いで映画界に入ることを頑なに拒否しており、建築家を目指していた。

 遂にKKが動き出すときが来た。「Dak Dak(ドキドキ)」という題名の、KK監督・主演の映画撮影に乗り出した。すぐにスタッフを招集し、脚本に取り掛かる。資金はムンバイー地下世界のドン、サリームバーイーから調達し、その情婦のディンキーが主演女優に決まった。ロケ地はロンドン。KKは祖父、父、息子の3役を1人でこなし、八面六臂の大活躍。ところがKKがディンキーに手を出したためにサリームバーイーが激怒し、スポンサーを失ってしまう。その後も何とかスポンサーを見つけるが、やはりKKの自己中心的行動のおかげで資金繰りに困る結果となってしまう。結局映画の資金は別のマフィアから調達した。いつの間にか題名も「Dak Dak Hota Hai Father India Ka Dil(インドの父の心臓がドキドキするぜ)」みたいな長ったらしい名前に変更されていた。また、この撮影中にクリスタルとラーフルは親密になる。

 いよいよKKの新作映画が公開されたが、全くの大失敗。映画賞を獲得することもできず、KKは落胆する。ところが懲りないKKは、今度はクリスタルを女優にして「Hollywood Bollywood」という映画を打ち上げる。息子のラーフルと妻のマンディラーも出演させ、キング・オブ・ボリウッドは再び立ち上がる。

 監督がボリウッドを馬鹿にしたいのか賞賛したいのか、いまいち判断しかねるが、インド映画好きな人にもインド映画嫌いな人にもオススメしたい傑作コメディー映画だった。何より、「典型的」インド映画がどのような過程を経て、どのような苦難を乗り越えて完成するのかを垣間見ることができ、非常に興味深い。

 ストーリーはまず、KKの昔のヒット作のミュージカルシーンから始まる。曲の題名は「ロード・ダンサー」。いかにも昔のボリウッドといった感じの馬鹿馬鹿しいほど格好をつけたミュージカルである。次に、KK主演映画の、悪党との決闘シーンが映し出される。悪党がKKに向けて銃で撃つと、KKは歯でその弾丸をくわえ、それを悪党に向けて吹き返す。その弾丸により悪党は死ぬ。これも典型的なボリウッド映画の決闘シーンである。これらのビデオは、英国のある映画会社で、クリスタルがプレゼンテーションのために映していたものだった。クリスタルはKKのドキュメンタリー映画を制作するために映画会社にアイデアを持ち込んでいたのだった。クリスタルは必死にKKの絶大なる人気について熱弁する。「KKが結婚したとき、多くのインド人女性が手首を切って自殺を図ったほどの人気なんです!」会社の幹部はビデオを見て、「何じゃこりゃ」と顔をしかめるが、本当にKKがインド人の間で人気なのか一応確かめることにし、会社で働いているインド人のおばさんを会議室に呼ぶ。幹部「カラン・クマールという俳優を知ってるかね?」おばさん「彼を知らない人はいません。」幹部「ちょっとさっきの歌の一節・・・何だったか・・・そう、ロード・ダンサーを歌ってみてくれるかね」と言った途端、おばさんは「ロード・ダンサー!」と言って嬉しそうに踊り出した。会議室を出ようとするおばさんの手首には、自殺を図った跡がくっきりと残っていた。幹部たちもKKの絶大な人気を理解し、クリスタルにドキュメンタリー撮影のゴーサインを出す。

 その後は、KKの新作映画の撮影の様子、ドキュメンタリーのためのインタビュー、そしてカメラマンが仕掛けた隠しカメラによる映像の3つを柱にストーリーが進んでいく。それにより、KKの虚栄心と焦燥感、そしてスタッフたちのKKに対する底なしの親愛の情が次第に浮き彫りになって行く。何となくオーソン・ウェルズの「市民ケーン」(1941年)を想起させた。

 個人的に印象に残ったのは、KKの息子ラーフルとクリスタルの恋愛である。特に詳しく描写されていなかったが、ラーフルがクリスタルを倉庫に連れて行くシーンは印象的だった。その倉庫には、KKの映画人生を象徴するような品々が埃をかぶっていた。ラーフルとクリスタルはKKの映画の衣装を見つけ、音楽をかけて二人で踊る。ラーフルは父親にいつも反抗していたが、実際は父親を誇りに思っていたみたいで、父親の映画の振り付けも覚えていた。その後、クリスタルが映画に出演することもあり、ラーフルも結局映画界に入ることになった。少し僕の想像も入った解釈だが、ここ部分をもう少し強調できていれば、もっといい映画になっていたと思う。

 この映画で描写されているインド映画制作の過程が果たしてどれほど真実に根ざしているのかは分からないが、いくつか面白い事象が観察された。まず、資金をマフィアから調達したりするところは、現実と同じだろう。スポンサーの息子や愛人などが映画に出演するというところも本当っぽかった。また、不気味だったのは必ずKKのそばについているグルジー(占い師)。常に計算機を叩いており、適切なカメラの設置場所や、カットの瞬間などを取り仕切っていた。つまり、監督よりも占い師の判断で映画撮影が進行していくのだ。これもインドのことだからあり得ない話ではない。俳優が映画に参加したり脱退していくのに従ってストーリーが都合よくどんどん変わっていく様も面白かった。まず脚本ありきで撮影が進むのではなく、映画制作に参加している人々のそれぞれのエゴに合わせて映画が自由自在に変化していくのだ。これを見てしまうと、インド映画の駄作の裏にもいろいろな事情があるのかもしれない、と思えてきてしまう。

 この映画は何と言ってもオーム・プリーのためにあるような映画だ。いい意味で肩の力を抜いた絶妙の演技。「スーパル・デューパル・ヒット・ピクチャル!」というような彼のコテコテのインド訛りの英語もおかしい。クリスタルを演じたソフィー・ダールは英国のトップモデルらしく、映画出演は初めて。いきなりこんな変な映画に出演してしまって大丈夫なのだろうか・・・と心配してしまう。もしかしたら本人もインド映画好きなのだろうか?KKの妻を演じたカヴィター・カプールは、控えめながら、元大女優というオーラを漂わせていて適役だった。

 果たしてKKのモデルはいるのだろうか?かつての大スターだが、現在は落ち目で、しかもその威光とプライドを忘れられずにいる人・・・。一時のアミターブ・バッチャンがそうだったかもしれないが、現在はけっこう成功しており、最盛期にも増してカリスマ性を発揮している。タミル語映画のラジニーカーントはどうだろうか?少し前に公開された彼の主演作は興行的に失敗に終わったと聞いているが・・・。「ロード・ダンサー」の辺りは、「Disco Dancer」(1982年)で人気スターとなったミトゥン・チャクラボルティーを意識していると思われる。

 音楽やミュージカルシーンは馬鹿馬鹿しいものばかりだが、その馬鹿馬鹿しさがいい味を出してろい、CDを見つけたら是非買おうと思っている。「Dak Dak」テーマソングや「ロード・ダンサー」などが絶品。

 「King of Bollywood」は、上記の通り、インド映画が好きな人にも、嫌いな人にも、是非見て笑ってもらいたい傑作コメディー映画である。