南アフリカでクリケットのワールドカップが始まった今日、PVRアヌパム4に新作映画「Khushi」を観に行った。2003年2月7日公開のヒンディー語映画である。「Khushi(喜び)」は、ヒット作にあまり恵まれないながらも未だ飛ぶ鳥を落とす勢いのカリーナー・カプールと、デビューから4、5年経つにも関わらず人気いまいちで伸び悩むファルディーン・カーンの映画である。他にアムリーシュ・プリー、ジョニー・リーヴァル、シャラト・サクセーナーなどが出演していた。ナレーションはアミターブ・バッチャンで、監督はSJスーリヤである。
カラン(ファルディーン・カーン)はコルカタ育ちのひょうきんな若者、クシー(カリーナー・カプール)はガルワール育ちの純粋な女の子だった。二人は運命に導かれてムンバイーの同じ大学に入学し、クラスメイトとなる。二人は出会ったときからお互いに惹かれあうものを感じるが、なかなか友達の関係から踏み出せずにいた。 そんな中、カランの友達のビッキーが、クシーの友達のプリヤーに恋をしていることが分かる。カランとクシーは二人をくっつけるために協力し、見事恋人となる。しかし依然としてカランとクシーは友達のままだった。 カランはクシーが自分のことを好きなのを知っていた。クシーもカランが自分のことを好きなのを知っていた。しかし二人はプライドと恥からいつも口喧嘩で終わってしまう。その内イライラがつのり、二人は絶交状態となってしまう。 一方、プリヤーの父親はマフィアのような男だったので、ビッキーたちの恋愛もうまく行かなかった。とうとうプリヤーの父親は彼女の結婚を勝手に決めてしまう。カランとクシーは絶交状態ながらも、彼らの仲を取り持つのは自分たちの責任だと考え、協力して彼らを駆け落ち結婚させる。 大学も終わり、カランはコルカタに、クシーはガルワールに帰ることになる。しかし最後の最後で二人は自分の気持ちを伝えることを同時に決意し、カランはクシーの乗るガルワール行きの列車へ、クシーはカランの乗るコルカタ行きの列車へ行く。だが二人は行き違いになってしまう。そこで二人は置き手紙を残して去って行った。その手紙には、今まで言おうとしても言えなかった愛の告白がつづられていた。その手紙を見た二人は涙する。 ガルワールに戻ったクシーを待っていたのは、彼女の結婚式の準備だった。クシーは戸惑うか、結婚相手を見て驚く。それはカランだった。カランはクシーの手紙を見て列車から降り、飛行機でガルワールまで直行していたのだった。カランとクシーは抱き合って喜ぶ。二人の間には17人もの子供ができたそうな。
正統派インド映画。男女の出会いからストーリーが始まり、二人の結婚でストーリーが終わる。こういう映画を何度も見ていると飽きてしまうが、最近こういう普通のインド映画があまりなかったため、かえって新鮮な印象を受けた。分かりやすいラブコメで、言葉が分からなくても理解できるだろう。音楽、ミュージカルシーンも上質。カリーナー・カプールも自分の得意な役柄をのびのびと演じており、久々にインド映画的気持ちよさと共に映画館を出ることができた。
やはりカリーナー・カプールはいい。よく分からないけどいい。最初カリーナーを見たときはあまりピンと来なかったのだが、だんだん彼女の価値が分かってきた。こういう女優は、インド映画にいつの時代にも必要な人材である。コミカルな演技ができて、下手に演技派を目指さず、踊りも無難にこなし、お色気シーンも難なくこなせる。それに姉のカリシュマー・カプールにはなかったカリスマ性がある。カリーナーが出ていれば、どんなクソ映画でも見たくなる、そういう気分にさせてくれる不思議な女優である。
ファルディーン・カーンもカリーナー・カプールに合わせてコミカルな演技をしていた。彼は悪くはないのだが、どうもインド映画の男優に必要な素質の何かが欠けているように思えてならない。彼について語る際、必ず文の最後に「・・・のか?」と付けたくなる。ファルディーンはかっこいい・・・のか?ファルディーンの演技はうまい・・・のか?ファルディーンの踊りはうまい・・・のか?という具合に。
悪役を演じることの多いアムリーシュ・プリーだが、今回はコミカルな父親役に徹した。ガルワールの田舎からムンバイーに出て来たときの顛末などは爆笑もの。やはりうまい俳優だ。ジョニー・リヴァールの登場機会も多く、大いに笑わせてもらった。
はっきり言って、ほとんど主人公のカランとクシーの行き違う恋愛だけで3時間ももたせることができたことが一番すごいと思った。やろうと思えば10分、20分で二人の出会いから結婚まで描けたと思うのだが、それを3時間映画に引き伸ばしてしまうところがインド映画のすごさだろう。ジョニー・リーヴァルのギャグシーンが多かったのは、それが原因なのかもしれない。また、無意味に長いシーンも多かった。途中で、サーリーを着たクシーがベンチに座って勉強をしており、その横でカランがクシーの腰をじっと眺めるシーンがあるのだが、その腰のシーンがやたら長い。カリーナー・カプールの露な腰(サーリーを着ていると腰から腹にかけて露になるのはご存知の通り)がシネスコ・サイズでず~っと映し出されるのだ。しかもその腰はじっとりと汗ばんでいる・・・。クシーはカランが自分の腰を見ていることに気付いて怒り、その事件は後々まで尾を引くのだが、あのカリーナーの腰は2003年のインド映画迷シーンのひとつに数えられるだろう。
音楽監督はアヌ・マリク。彼の音楽は当たり外れが激しいと思うのだが、「Khushi」の音楽はミュージカルと合わせて当たりだと思う。まずカリーナーの登場シーンで「Khushi Aayee Re Aayee Re」が流れるのだが、その歌のサビ直前の「チュッチュッチュッチュッチュ・・・(キスの音)」が秀逸。もちろんその音に合わせてカリーナーがキスの仕草を観客に向けてして来る。また、このときのカリーナーは半袖半ズボンの上に水の中で踊っているので色っぽい。特に太ももの付け根の日焼けしていない部分がいやらしい。全てが計算されて作られているかのようだ。
ファルディーン・カーンの登場シーンに流れるのは「Good Morning India」。ハウラー橋、ヴィクトリア記念堂、地下鉄など、コルカタの観光名所をバックに踊っていたのが新鮮だった。近い内にデリーメトロも映画に登場することがあるだろう。
後半の一番最初に流れる「Hai Re Hai Re」は、おそらく「Khushi」の中でもっとも出来のいい歌であると同時にミュージカルシーンもギャク満載。ファルディーンとカリーナーがヒッピーやら警官やらカウボーイやらヒップホップ・ダンサーやら、いろんな仮装をして登場するので、観客には大受けだった。
インド映画をインド映画として見ることのできる人なら、「Khushi」は必ず楽しめる映画だ。ヴァレンタインにピッタリの映画なので、もしかして少しはヒットするかもしれない。