2001年のヒンディー語映画界は「Lagaan」(2001年)、「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)と歴史物の大作が続いたが、ついに本命の時代劇映画「Asoka」が10月26日から公開され始めた。前々から注目していた映画で、早くも観に行くことにした。ネットで映画の上映時間を調べたらコンノート・プレイスのプラザ・シネマが11時45分からやっていたので、そこへ観に行くことにした。今までの経験からすると、映画館で人気の映画を観るときにいくつかのコツがあり、まずは平日に見に行くこと、次になるべく初回(正午から始まることが多い)を見ること、そしてできることなら12時前に始まる映画館へ観に行くことが、確実にチケットを手に入れる最良の方法だと思った。なぜならインドの映画は大体3時間あって1日4回上映されており、普通上映時間は一律12:00、3:00、600、9:00となっていて、インド人もそれを承知してその時間に合わせて映画館にやって来るからだ。だから12時前に始まる回だとまだ人がそれほど来ておらず、チケットも買いやすいことが多い。
コンノートに着き、プラザ・シネマへ早足で向かった。映画館の前には既に人だかりができており、「Asoka」の人気の高さが伺われた。とは言ってもチケットは簡単に買うことができた。僕が観た回はほぼ満席に近かったが、満員御礼とまではいかなかったみたいだ。
「Asoka」はシャールク・カーンとカリーナー・カプールが主演の歴史映画で、紀元前3世紀の北インドを支配したマガダ朝第三代アショーカ王の物語である。マダガ朝第二代目の王ビンドゥサラ王(ゲルソン・ダ・チュンハ)には二人の息子がいた。長男はススィーマ(アジト・クマール)、次男はアショーカ(シャールク・カーン)である。兄弟の仲は悪く、ススィーマは何度もアショーカを暗殺しようと試みるが失敗を重ねる。やがてアショーカは愛馬を連れて一人旅に出る。アショーカは旅の途中マガダ国の隣国カリンガへ訪れ、そこで一人の女性と出会う。実は彼女はカリンガ国の姫カウラヴァキー(カリーナー・カプール)だったのだが、家臣の裏切りにより両親を殺され、弟であり王位継承者である少年アーリヤ(スーラジ・バーラージー)と将軍ビーマ(ラーフル・デーヴ)を連れて逃亡生活をしているところだった。アショーカは自分の身分を隠してパヴァンと名乗り、カウラヴァキーに言い寄る。ほどなくアショーカとカウラヴァキーは恋に落ち、ささやかな結婚式を挙げるが、母が病気になっていることを聞いてアショーカは一旦マガダ国へ帰る。その間にカウラヴァキーとアーリヤは腹黒い大臣の手下から襲撃を受け殺されそうになるが、別の女性と少年が身代わりになって殺される。アショーカはカリンガに戻ってカウラヴァキーが殺されたことを知り絶望する。そしてマガダ国に戻り、自分のために結婚式が破談となってしまったデーヴィー(リシター・バット)と代わりに結婚をする。ススィーマの刺客は遂にアショーカの母を殺害し、アショーカは憎悪に取り付かれてススィーマとその一派を殺害し、カリンガ国へ攻め込む。一方、カリンガ国ではカウラヴァキーとアーリヤが戻っており、前国王を殺害し、アーリヤたちまでも殺そうと企んだ大臣を罷免してアーリヤが王位についていた。アーリヤもカウラヴァキーも、アショーカがパヴァンであることなど露知らず、マガダ軍を迎え撃つ。将軍ビーマはアショーカを暗殺しようとして失敗し殺され、カウラヴァキーが軍を指揮することになった。アショーカの軍勢とカウラヴァキーの軍勢は衝突する。この戦い中にカウラヴァキーはアショーカがパヴァンであることに気付くが、その瞬間頭を殴られて倒れてしまう。戦争はマガダ軍の勝利に終わるが、アショーカは敵軍の統率者の名前がカウラヴァキーであることを知り、おびただしい数の死体が転がる戦場へと赴くが、そのあまりの無残さに心を痛める。そしてその死体の海の中をお経を唱えながら歩く仏教の僧侶の姿を見る。カウラヴァキーは生きており、アショーカと再会するが、カウラヴァキーはアショーカをパヴァンだとは認めない。そこへアールリも現れるが、既にアーリヤは瀕死の状態であり、二人の前で息絶える。泣き崩れる二人・・・こうして物語は終わる。
史実ではアショーカ王はこのカリンガ国との戦争で多くの死者が出たことに心を痛め、仏教の僧侶と出会って仏教に改宗し、仏教の教えである「非暴力」の精神に則って国を治め、二度と戦争を行うことはしなかったと言う。アショーカ王は仏教を国中に広めるために全国に石柱を立てただけでなく、さらに世界中に広げるためにエジプト、スリランカ、ビルマなど世界各地に僧侶を送ったそうだ。映画の最後にはこう記されていた。「マガダ国は滅びたが、仏教の教えは今でも生き続けている」と。仏教の生まれ故郷インドでは実は仏教は滅びかけているのだが、そのインドでこういう大作映画が作られるというのも、いかにも宗教に垣根を設けないインド人らしい考え方だと思った。
話を映画自体に戻して悪い点から評価すると、まず全体的にあまりバランスがとれていない感じがした。なんとミュージカルシーンはほとんど(全部?)前半に集中しており、後半はストーリーだけであった。編集に甘いところが多くて微妙に話が飛んでいるところがあったように思われた。途中ちょくちょくゲスト出演しているジョニー・リーヴァルがあまり目立っていなかった。もっとうまく使って欲しかった。アショーカとデーヴィー、アショーカとカウラヴァキーのその後がウヤムヤで終わってしまった。ハッピー・エンドではないのでインド人受けするかどうかが心配。このくらいだろうか。
「Asoka」の良かった点はたくさんある。まず褒めるべきは「インド映画にしてはよく頑張った!」ということだろう。衣装、セット、戦争シーンなど、まさにハリウッドの娯楽映画並みの規模はあったと思う。戦闘シーンでは大量の象兵が登場したのが良かった。インドならではの芸当だろう。シャールク・カーンの演技力は言うまでもないが、相手役のカリーナー・カプールもとても良かった。「Ajnabee」のカリーナーは新人セクシー女優ビパーシャー・バスに負けてしまっていた感じがしたが、「Asoka」のカリーナーはエキゾチックなメイクと露出度の高い衣装、そして色っぽいタトゥーなどで身を飾っていて魅力的だった。ミュージカル・シーンと音楽もとても素晴らしい出来だった。総合的に見て「Lagaan」と肩を並べるぐらいの作品だと思う。ただ「Lagaan」ほどヒットするかはちょっと疑問である。(結局「Asoka」は興行的に大コケにコケた。)
ちなみに「Asoka」のテーマは「戦争の空しさと非暴力」。まさに今の時代に訴えるのにピッタリではないだろうか。ブッシュ大統領に見せてあげたいくらいだ。アショーカ王の時代から人のやっていることはそう変わっていない。時勢に乗って映画の評価が必要以上に高まるかもしれない。