English Babu Desi Mem

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English Babu Desi Mem
「English Babu Desi Mem」

 1996年1月26日公開の「English Babu Desi Mem(英国紳士とインド淑女)」は、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)の記録的な大ヒットにより大スターに登り詰めたシャールク・カーンが、「Karan Arjun」(1995年)でのダブルロールの直後にトリプルロールを演じたことで知られる作品である。

 監督はプラヴィーン・ニシュチョル。音楽はニキル・ヴィナイ。主演シャールク・カーンの相手役を務めるのは、「Aag」(1994年)でデビューして以来、人気急上昇中だったソーナーリー・ベーンドレー。他に、サイード・ジャーファリー、キラン・クマール、ラージェーシュワリー・サチデーヴなどが出演している。

 2024年4月25日に鑑賞しこのレビューを書いている。

 ハリ・マユール(シャールク・カーン)はロンドン在住のインド系英国人大富豪ゴーパール・マユール(シャールク・カーン)の長男だった。インドを愛するハリは英国人女性とのアレンジド・マリッジを潔しとせず、結婚式の日に逃げ出し、インドへ向かう。ところが彼の乗った飛行機はインドに着く前に海に墜落し、ハリは死んだものと思われていた。

 実はハリは生き伸びており、インドに流れ着いていた。ハリは、自分を看病してくれた地元女性カタリヤー(ラージェーシュワリー・サチデーヴ)と結婚した。やがてカタリヤーは妊娠し、ナンドゥーという男の子を産むが、ハリとカタリヤーは火災に遭って同時に死んでしまう。カタリヤーの妹ビジュリヤーがナンドゥーを育てることになった。

 それから8年後。成長したビジュリヤー(ソーナーリー・ベーンドレー)はバンジョーの経営するバーでダンサーをして生計を立て、ナンドゥーを育てていた。ハリやビジュリヤーをよく知る弁護士マダドガール(サイード・ジャーファリー)は、ハリの双子の弟ヴィクラム(シャールク・カーン)の存在を知り、彼をインドに呼び寄せる。ヴィクラムは兄が飛行機事故後も生きており、インド人女性と結婚して子供を作ったことを初めて知る。そして、ナンドゥーをロンドンに連れ帰ろうとする。

 ビジュリヤーはナンドゥーと離れ離れになるのを恐れ、ヴィクラムを追い返そうとする。だが、ヴィクラムはビジュリヤーがバーダンサーであることを知り、ナンドゥーを無理矢理にでも連れ帰ろうとする。そのためにヴィクラムはビジュリヤーに接近する。ところでナンドゥーの夢はビジュリヤーの結婚であった。ナンドゥーはビジュリヤーがヴィクラムと結婚することを望むようになる。だが、ヴィクラムはそれを拒否した。

 ビジュリヤーはヴィクラムから、ナンドゥーが学校に行かず、彼女の結婚資金を貯めるために靴磨きなどの仕事をしていると知りショックを受ける。ビジュリヤーはナンドゥーを家から追い出し、ヴィクラムとロンドンに行くように促す。ビジュリヤーを狙う悪党のビーマ・カラースィー(キラン・クマール)はバンジョーに命令して彼女を買い取る。ナンドゥーはヴィクラムと共にロンドンへ向かおうとしていたが、ビジュリヤーの危機を察知し、彼女を助けに向かう。ヴィクラムはナンドゥーと共にカラースィーを倒し、ビジュリヤーを救う。こうしてヴィクラムとビジュリヤーは結婚することになった。

 1990年代に作られた映画ということを差し引いても、前時代の行き当たりばったり的なノリを引きずった雑然とした映画だ。編集が雑でシーンとシーンの継ぎ目が粗いし、BGMの使い方も変である。シャールク・カーンも、トリプルロールを演じているのは確かだが、3つの役を丁寧に演じ分けているわけでもないし、同じ画面に複数の役を演じるシャールクが登場するわけでもない。叔母と甥の間の、実の母子にも勝るような強い絆が描かれている点は目新しかったが、ヴィクラムとビジュリヤーがお互いにどのような感情を抱いているのかは明確に描かれておらず、観客が感情を移入する先が定まっていなかった。決してシャールク出演作の中で傑作に数えられる作品ではない。

 注目されるのは、導入部で重要な動きをするハリが、インドをこよなく愛するロンドン在住インド系英国人である一方で、双子の弟ヴィクラムが大のインド嫌いだったことである。二人の対比や、ヴィクラムもインド人女性との結婚に落ち着く結末は、インドの礼賛だと捉えることができる。そもそもこの映画の公開日は、インドにおいてもっとも愛国心の高まる共和国記念日の1月26日である。「English Babu Desi Mem」は、インド人の間に愛国心を喚起する目的もあって作られた映画であることが分かる。NRI(在外インド人)がインドに回帰するというプロットは、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」とも共通している。

 ソーナーリー・ベーンドレーとダンスが非常に良かった。バーダンサー役ということで彼女が踊りを踊るシーンは多い。登場シーンの「O Bijuria Sun」から始まり、「Bharatpur Loot Gaya」や「Love Me Honey」を経て、クライマックスの「Kaise Mukhde Se」まで、どれも安っぽさはあるのだが、見入ってしまう魅力があり、バラエティーに富んでいる。振り付けをしているのはラージュー・カーン、サロージ・カーン、ファラー・カーンである。

 「English Babu Desi Mem」は、シャールク・カーンが父親と双子の息子の3役を一人で演じる映画だ。しかしながら、彼のトリプルロールは最大の見所とはいえない。むしろ、人気急上昇中だったソーナーリー・ベーンドレーがとても魅力的で、彼女の貢献度の方が高い。全体的には完成度の低い映画であり、シャールク・カーンの熱烈なファンでなければ観る理由のない映画である。