Kabhi Haan Kabhi Naa

3.5
Kabhi Haan Kabhi Naa
「Kabhi Haan Kabhi Naa」

 「Kabhi Haan Kabhi Naa(イエスのときもノーのときも)」は、しばしばシャールク・カーンのベスト作品に数えられることがある作品である。1993年1月10日から20日にデリーで行われた第24回インド国際映画祭でプレミア上映されたが、劇場一般公開は翌1994年の2月25日である。つまり、プレミア上映から劇場一般公開まで1年以上の時間が空いている。

 監督はクンダン・シャー。音楽はジャティン・ラリト。主演シャールク・カーンの他に、スチトラー・クリシュナムールティ、ディーパク・ティジョーリー、リター・バードゥリー、サティーシュ・シャー、アンジャーン・シュリーヴァースタヴァ、ゴーガー・カプール、ティークー・タルサーニヤー、ラヴィ・バースワーニー、ナスィールッディーン・シャー、アーシュトーシュ・ゴーワリカル、クルシュ・デーブー、アーディティヤ・ラキヤー、ヴィーレーンドラ・サクセーナーなどが出演している。また、ジューヒー・チャーウラーが特別出演している。

 1993年1月には完成していた映画なので、この映画の撮影は1992年に行われたはずである。その時期、シャールクとジューヒーは「Raju Ban Gaya Gentleman」(1992年)を大ヒットさせており、期待の若手俳優であった。シャールクがトップスターの座を確固たるものにするのは「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)以降なので、「Kabhi Haan Kabhi Naa」の撮影時、彼はまだ並み居る俳優たちの内の一人だったと思われる。

 ゴア州在住のスニール(シャールク・カーン)は、大学の卒業試験に3度も落ちている落ちこぼれだった。メカニックをする父親ヴィナーヤク(アンジャーン・シュリーヴァースタヴァ)は彼に家業を継がせたかったが、スニールは仲間たちと音楽活動に勤しんでいた。スニールはアナ(スチトラー・クリシュナムールティ)に片思いをしていたが、バンド仲間のクリス(ディーパク・ティジョーリー)もアナのことが好きで、アナはクリスの方に好意を寄せていた。

 スニールは嘘を付いてクリスとアナのデートを邪魔する。だが、その嘘はすぐにばれてしまう。スニールはアナから絶交され、バンドからも追い出されてしまう。バンドはパテール(ティークー・タルサーニヤー)の経営するバー「チャイナタウン」で演奏するチャンスを与えられる。だが、チャイナタウンの客はマフィアたちで、バンドがつまらない演奏をするとすぐにヤジを飛ばしていた。しかも彼らの演奏初日にはドンのアンソニー(ゴーガー・カプール)が来ていた。クリスやアナたちはスニール抜きで演奏をするが、すぐにブーイングの嵐となる。その様子を隠れて見ていたスニールは飛び出していき、マフィアが好きそうな演奏を即興で披露する。アンソニーは感動し、スニールを友と認める。クリスやアナもスニールを許し、彼が再びバンドのメンバーになる。

 アナの父親サイモン(サティーシュ・シャー)、母メリー(リター・バードゥリー)、兄アルバート(ラヴィ・バースワーニー)はクリスの両親に縁談を持ち込もうとする。だが、その直前にクリスの両親は彼の結婚相手をシャロンに決め、人々の前でアナウンスしてしまう。アナは落ち込み、引きこもってしまう。

 スニールの卒業試験の結果が発表された。4回目も不合格だった。スニールは絶望するが、パテールは入れ知恵をする。パテールはアンソニーに頼み、合格した成績証明書を偽造してスニールに渡す。スニールから成績証明書を渡されたヴィナーヤクは大喜びし、パーティーを開く。だが、罪悪感に苛まれたスニールは神父ブラガンザ(ナスィールッディーン・シャー)に相談する。ブラガンザはすぐに両親に真実を打ち明けるべきだと助言し、彼はそうする。ヴィナーヤクは怒るが、ブラガンザに取りなされ、スニールを許す。

 ヴィナーヤクはスニールをアナと結婚させようとする。だが、スニールはアナが本当に愛しているのはクリスだと知っていた。スニールはアナをクリスに譲る。

 シャールク・カーンは主演であるが、彼の演じるスニールは、映画の中では二枚目半の役柄であった。聡明で裕福なモテモテ男の役は、ディーパク・ティジョーリー演じるクリスが担っていた。スニールはなかなか大学を卒業できない落ちこぼれであり、しかも目的を達成するために嘘を付く癖もあった。およそ主人公とは思えないようなキャラである。

 スニールはアナに片思いしていたが、アナはクリスに好意を寄せていた。クリスはスニールのバンド仲間であり、親友であったが、アナを手に入れるために嘘を付いて二人の仲を裂こうと画策する。またも大学卒業に失敗したスニールは、合格点を取った成績証明書を偽造し両親に見せる。

 だが、この映画は嘘を付いたスニールがすぐにしっぺ返しを喰らうところも見せている。クリスとアナを遠ざけるために付いた嘘はすぐにばれ、クリスともアナとも絶交状態になってしまう。しかもスニールはバンドから外されてしまう。大学卒業試験合格の嘘もすぐにばれ、彼は公衆の面前で父親から平手打ちを喰らってしまう。

 「嘘を付いてはいけない」は、多くのインド映画が共通して発信するメッセージのひとつだ。「Kabhi Haan Kabhi Naa」のストーリーも、嘘が自らを窮地に追い込む様を繰り返し見せている。これにはマハートマー・ガーンディーの影響を見出すことができる。

 しかしながら、スニールは意外にあっさりと許されてしまう。バンドから外されたスニールは、マフィアに受ける歌を作ったことで功績を認められバンドに戻される。成績証明書偽造が発覚した後も、「Woh Toh Hai Albela(彼はユニークだ)」というダンスシーンに移行してウヤムヤの内に免罪となる。もし「嘘を付いてはいけない」というメッセージを本当に観客に届けたいのだったら、嘘を付いたことがあっさり許されるこれらの展開は逆効果だ。その点ではとても弱い映画だった。

 スニールが嘘を付いて失態を演じたことでクリスとアナの結婚は決まったかに見えたが、クリスの両親が彼を別の女性と結婚させようとしてしまい、二人の仲は壊れる。こうしてスニールにチャンスが巡ってくるわけだが、最終的には彼は自分の気持ちよりもアナの気持ちを優先し、彼女がクリスと結婚することを後押しする。この自己犠牲もインド映画ではよく見られる展開なのだが、普通は脇役が主役に譲るものだ。主役のスニールが脇役のクリスにアナを譲るというのは珍しい。

 そのままだと後味の悪さを残す終わり方になるところだったが、アナを失って落ち込むスニールの元にジューヒー・チャーウラー演じる女性が現れ、新たな恋の幕開けを予感させてエンディングとなる。そこで初めて題名にもなっている「Kabhi Haan Kabhi Naa」というフレーズが発せられるが、これは要するに、「恋愛はうまくいくこともあればうまくいかないこともある」という意味だと解釈できる。

 「Kabhi Haan Kabhi Naa」でのシャールク・カーンは、完全無欠の絶対的なヒーローではなく、欠点だらけだが人間味のある青年役を演じており、それがうまくはまっていた。嘘がばれそうになったときのドギマギした挙動は、オーバーアクティング気味といえばそうなのだが、個性が出ていた。まだ大スターになる前のシャールクの純粋な演技が見られる作品である。

 ちなみに、アナ、クリス、アンソニーなど、主要な登場人物はキリスト教徒だ。ポルトガルの植民地だったゴア州を舞台にしているため、このキリスト教徒人口の多さは変ではない。ただし、スニールの家族はヒンドゥー教徒である。また、バンド仲間にはイスラーム教徒やゾロアスター教徒がいた。一時、スニールとアナの縁談が進んでいたが、それが実現すれば異宗教間結婚になっていた。映画の中では特にそれがハードルだとは描かれていなかった。

 後に「Lagaan」(2001年/邦題:ラガーン クリケット風雲録)を監督することになるアーシュトーシュ・ゴーワリカルや、同映画で不可触民のカチュラーを演じることになるアーディティヤ・ラキヤーが出演しているのも密かな見所である。

 「Kabhi Haan Kabhi Naa」は、シャールク・カーンが大スターになる前に出演したロマンス映画であり、彼自身の一番のお気に入りだと伝えられている。主役でありながら、脇役にヒロインを譲るなど、変わった筋書きの映画だ。興行的にも成功し、批評家からの評判も良かった。観て損はない映画である。