ヒンディー語映画界が誇るアクションスター、ヴィデュト・ジャームワール主演のアクション映画「Commando」のシリーズは、「Commando: A One Man Army」(2013年)、「Commando 2: The Black Money Trail」(2017年)と続いて来た。コマンドー出身の主人公カランが、肉体と頭脳をフル回転させて事件を解決して行くのが特徴のシリーズである。そして第3作「Commando 3」は2019年11月29日に公開となった。
監督は「Table No.21」(2013年)のアーディティヤ・ダット。主演はもちろんヴィデュト・ジャームワール。前作からストーリー上のつながりがあり、前作でエンカウンター・スペシャリストの女性警察官バーヴナーを演じていたアダー・シャルマーがヒロインとして再登板している。他に、アンギラー・ダル、グルシャン・デーヴァイヤー、スミート・タークル、ラージェーシュ・タイラング、フェレナ・ワズィールなどが出演している。
ムンバイーにおいて、パスポート偽造の捜査の過程で3人の少年が逮捕される。彼らはイスラーム教徒であり、謎の教祖に洗脳され、何か大きなテロ事件の準備をしていたことが分かる。教祖はロンドンにいる可能性が高かった。そこでコマンドーのカラン(ヴィデュト・ジャームワール)が呼ばれ、エンカウンター・スペシャリストのバーヴナー(アダー・シャルマー)と共にロンドンに派遣される。 カランとバーヴナーは、英国諜報機関のマッリカー・スード(アンギラー・ダル)とアルマーン・アクタル(スミート・タークル)に迎えられる。彼らは膨大な南アジア人の中から、ロンドンでインド料理レストランを経営するブラーク・アンサーリー(グルシャン・デーヴァイヤー)が教祖であることを突き止める。また、ブラークには離婚した妻ザーヒラー(フェレナ・ワズィール)と、息子アビールがいた。 カランとバーヴナーはザーヒラーとアビールを確保し、ブラークの犯罪を告発させる。だが、ザーヒラーとブラークは誘拐され、ブラークは自首する。そして、英国警察と取引をし、易々と釈放される。ブラークは隙を見てザーヒラーを殺し、アビールを隠れ家に隠す。 カランとバーヴナーはロンドンで派手に活動したため、英国から国外追放されそうになっていた。24時間の猶予を得た二人は、ブラークの隠れ家を襲撃すると同時にアビールを連れて行く。カランはブラークを捕まえ、インド海軍の協力を得て彼を洋上に確保する。ブラークからは、ダシャハラーの日、つまり本日、インドの5都市でテロを計画していることが分かる。カランはSNSを使ってインド国民に宗教融和を説く。それが利き、テロは回避される。カランはブラークを殺し、アビールをインド陸軍の士官学校に入れる。
前作「Commando 2」は、アダー・シャルマー演じるバーヴナーが暴走気味で、ハチャメチャなアクション映画になっていた。だが、監督が交代したせいか、シリーズ3作目となる本作では、緊迫感溢れる展開が続き、硬派なアクション映画に仕上がっていた。断然、「Commando 2」より優れたアクション映画である。
また、テーマ性もしっかりしていた。悪役は、イスラーム国(IS)の指導者アブー・バクル・アル・バグダーディーを意識した、インテリ狂信者で、インドで虐げられて来たイスラーム教徒のために、インドで9/11事件を上回るテロ事件を起こし、インドに「アッラー」の名前を永遠に刻もうとしていた。具体的には、「ALLAH」の頭文字を構成する、グジャラート州アハマダーバード、マハーラーシュトラ州ラートゥール、パンジャーブ州ルディヤーナー、ウッタル・プラデーシュ州アヨーディヤー、そして同州ハシームプラーでテロ事件を計画していた。これらの都市ではヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の間でコミュナル暴動が起こった過去があった。
しかしながら、イスラーム教徒を一方的に敵視する内容ではなかった。まず、登場人物にはイスラーム教徒が多い。例えば、英国諜報機関に所属するマッリカーとアルマーンは、名前から察するに、イスラーム教徒である。そして、テロや暴力を好まないイスラーム教徒たちが、一部の過激なイスラーム教徒たちのテロを止めるという結末になっており、イスラーム教徒もインドの国益を第一に考え、行動する様子が描かれていた。
映画の最後では、ダシャハラー祭において、ラーマ王子とイスラーム教徒が共に弓を引いて羅刹王ラーヴァンの像を燃やす様子が映し出されていた。ラーヴァンは悪の象徴であり、それをヒンドゥー教徒とイスラーム教徒が共に撃破していたのは、宗教融和の力強いメッセージだ。
このように、前作に比べてだいぶまとまりが良くなっていたが、「Commando」シリーズの見所が主演ヴィデュト・ジャームワールのアクションシーンであることは全く変わりがない。今回も驚くほど華麗な身のこなしを随所で見せており、真正アクションスターとしての地位を確固たるものとしていた。また、驚くべきことに、2人のヒロイン、アダー・シャルマーとアンギラー・ダルも目を見張るようなアクションを披露していた。ヒロインも動けると、アクション映画としての完成度が高くなる。
アダー・シャルマー演じるバーヴナーが前作に比べて抑え気味だったのも、「Commando 3」の美点だった。前作ではバーヴナーがうるさすぎて馬鹿すぎて食傷気味だったのである。
「Commando 3」は、ヴィデュト・ジャームワール主演のアクション映画シリーズの第3作。完成度は全3作の内で最も高い。興行的にも今のところ一番成功した作品となっている。スタントマン出身俳優ヴィデュトのアクションはもちろんのこと、ヒロインのアダー・シャルマーとアンギラー・ダルの身のこなしも見所である。