インドでは占星術が日常生活に浸透しており、子供が生まれるとジャナムパトリーまたはクンダリーと呼ばれるホロスコープが作られるのが常だ。ジャナムパトリーには、その人が誕生したときの天体の位置が模式図で表され、それを読み取ることで、その人の運命が分かる。特に結婚の際にジャナムパトリーが重視される。縁談を決める前に男女のジャナムパトリーが合わせられ、相性が確認されるのである。ジャナムパトリーが合わない場合、結婚は破談となることもある。
ジャナムパトリーは、以下のような幾何学的な図形で表される。合計12の部屋に分かれており、それぞれ番号が振られている。この12の部屋はその人が生まれたときの天空の状態を12等分したもので、第1室は東の地平線を示している。それぞれの部屋にどんな天体が入るかが書き入れられる。
結婚の際に最もよく確認されるのが「マンガルドーシュ(マンガラドーシャ)」である。「マンガル」とは火星のことで、ジャナムパトリーにおいて、第1室、第4室、第7室、第8室、第12室のどれかに火星が位置していることをいう。そして、「マンガルドーシュ」にある人のことを「マーングリク」と呼ぶ。
インドの占星術では、マーングリクの人と非マーングリクの人が結婚すると、非マーングリクの人は早死にするとされている。特にマーングリクの女性の結婚は慎重に決められる。相手男性の命に関わるからである。マーングリク同士の結婚の場合は、その影響は打ち消されるとされている。インドの新聞紙には結婚紹介のページがあるが、よく見ると「マーングリク」というカテゴリーがある。マーングリク同士のパートナー探しが行われているのであろう。
また、占星術の文献には、マンガルドーシュの細かな例外規定も記されている。たとえ火星が第1室、第4室、第7室、第8室、第12室のどれかにあったとしても、諸条件が揃えば、マンガルドーシュは打ち消されるとされている。例えば、マンガルドーシュがあっても、第1室、第4室、第7室、第8室、第12室のどれかに土星が位置していれば、マンガルドーシュは打ち消されるとされている。
さらに、マーングリクの人がどうしても非マーングリクの人と結婚しなければならなくなった場合にも抜け道は用意されている。それは、相手との結婚の前に、人間以外の生物や物と結婚をすることだ。こうすることで、マンガルドーシュの悪影響をそれに移すことができる。その後、改めて人間同士の結婚を行うのである。仮に結婚する相手には、状況に応じて、犬や木や壺などが選ばれる。
インドのロマンス映画は結婚が終着点となっていることが多い。そして物語を面白くするため、様々な障害が用意される。その中でマーングリクの迷信が持ち出されることが時々ある。
マーングリクが物語の重要な起点となっている映画としては、「Phillauri」(2017年)が挙げられる。主人公の青年カナンはマーングリクで、幼馴染みのアヌと結婚する前に木と結婚させられることになったが、その木に取り憑いていた女性の幽霊と結婚したことになってしまい、枕元に幽霊が現れるというストーリーである。
「Dil Juunglee」(2018年)でもマーングリクに言及されていた。主人公のコーローリーはマーングリクで、恋人であるスミトの母親が彼女との結婚を敬遠したのである。ただ、二人の結婚が一時的に実現しなかった要因はそれだけではなく、マーングリクが中心的なテーマの映画ではなかった。
その他、以下の映画にマーングリクの言及がある。
- Cash(2021年)
火星は戦争の星である。マーングリクの人は競争心が旺盛だとされる。映画業界は極度の競争世界であり、特に映画家系の背景を持たずに業界に飛び込んで身を立てた女性にはマーングリクが多いとされる。1994年のミス・ワールドから映画女優に転身したアイシュワリヤー・ラーイもマーングリクとされており、2007年にアビシェーク・バッチャンと結婚する前にヴァーラーナスィーにおいて菩提樹と結婚したとされている。