今日は、2004年10月1日から公開のヒングリッシュ映画「Let’s Enjoy」をPVRアヌパム4で観た。監督はスィッダールト・アーナンド・クマールとアンクル・ティワーリー、音楽はMIDIval PunditZ。キャストは若手新人俳優のオンパレードで、「Girlfriend」(2004年)に出演していたアーシーシュ・チャウダリー、双子のローヒト・ヴェート・プラカーシュとラーフル・ヴェード・プラカーシュ、ヤーミニー・ナームジョーシー、シヴ・パンディト、ヴィノード・シェーラーワト、カビール・スィン、サヒール・グプター、ジャスプリート・スィン、ドルヴ・スィン、ドルヴ・ジャガースィヤー、アールズー・ゴーヴィトリーカル、ローシュニー・チョープラー、ピヤーリー・ローイ、ラージーヴ・グプターなどなど。
南デリーのファームハウスでダンスパーティーが開かれることになった。パーティーの主催者はアメリカ帰りのナイスガイ、アルマーン(アーシーシュ・チャウダリー)。アルマーンの親友で双子のラマン(ローヒト・ヴェード・プラカーシュ)とラタン(ラーフル・ヴェード・プラカーシュ)がDJを務めることになり、アルマーンの友人たちが招待された。 シュレーヤー(アールズー・ゴーヴィトリーカル)はアルマーンの元彼女だった。しかし4年前にアルマーンがアメリカへ渡ってから一度も連絡を取り合っていなかった。シュレーヤーは友人のソーナール(ローシュニー・チョープラー)とピヤー(ピヤーリー・ローイ)と共にパーティーに出席する。シュレーヤーのアルマーンに対する気持ちは複雑だった。 アルマーンの大学時代の友人、ラグ(シヴ・パンディト)はリーマー(ヤーミニー・ナームジョーシー)と5年間も付き合っていたが、まだ2人は肉体関係に至っていなかった。リーマーの誕生日がアルマーンのダンスパーティーと重なったため、ラグはリーマーをパーティーに誘う。 カラン(ヴィノード・シェーラーワト)はミュージシャンになるためにデリーにやって来た若者だった。未だに芽が出ずくずぶっていたが、アルマーンのパーティーに誘われてやって来る。 ラージンダル(ドルヴ・スィン)はモデルになるのを夢見て毎日ジムで筋肉を鍛えている貧しい若者だった。アルマーンのファームハウスでパーティーがあるのを聞き、モデルになるチャンスと会場に忍び込む。 その他、ハッピー(カビール・スィン)、ソーディー(サヒール・グプター)、バニー(ジャスプリート・スィン)の三人組や、ファッションデザイナーでオカマのBJ(ドルヴ・ジャガースィヤー)などもパーティーに出席する。 アルマーンとシュレーヤーは久し振りに再会するが、うまくお互いの気持ちを言い表せないでいた。ラグとリーマーはパーティーそっちのけでいちゃつける場所を求めて放浪していた。ラージンダルは塀を乗り越えて会場に侵入するが、ちょうどそこで立ち小便をしていたBJと出会う。BJはラージンダルを見初めてモデルにすると約束するが、ラージンダルはBJが怪しい目で見るので断る。一人で落ち込んでいるラージンダルを見て、ピヤーは何となく惹かれ、声を掛ける。ハッピー、ソーディー、バニーはパーティー会場の地図をなくして郊外を迷走し、散々な目に遭いつつもやっと会場に辿り着く。カランはシュレーヤーと出会い、停電中に彼女のために歌を歌う。シュレーヤーはカランに惹かれるが、最後にはアルマーンとよりを戻す。ラグとリーマーは誰かのベンツの中でやっと落ち着いていちゃつくことができた。 こうして、楽しいダンスパーティーの夜が更けて行った。
「Dil Chahta Hai」(2001年)、「Monsoon Wedding」(2001年)や、ジョージ・ルーカス監督の処女作「アメリカン・グラフティー」(1973年)を思わせる青春群像映画。デリー在住の若者たちがそれぞれの思惑や目的を持って、南デリー郊外のファームハウスで開催されたダンスパーティーを訪れ、それぞれの青春をエンジョイするというストーリーで、あらすじは大したことないのだが、見終わった後の爽快感はなかなかのもの。これだけ登場人物が多い映画をまとめるのはけっこう難しいのだが、うまくそれぞれの特徴を活かしており、誰が誰だか分からなくなることはない。
出てくる登場人物全てが主役と言ってもいいのだが、一応パーティーの主催者アルマーンが軸となって物語が進んでいく。男女の恋愛という観点から見ると、アルマーンとシュレーヤー、シュレーヤーとカラン、ピヤーとラージンダル、ラグとリーマーの4組が主体である。女性陣の中で一番目立っていたソーナールは、アルマーンに気があるようにも見えていたが、結局大した活躍はしていなかった。コメディーという観点から見ると、ハッピー、ソーディー、バニーの三人組の行動が面白かった。道に迷っている途中、道案内のために怪しい男バーラト・ブーシャン(ラージーヴ・グプター)を車に乗せてしまう。バーラト・ブーシャンは三人を売春宿に誘う。ところがそれは罠で、バーラト・ブーシャンは999ルピーをかっぱらって逃げてしまう。その他、双子のDJ、ラマンとラタンが冒頭で自動車のパンクにより砂漠の真ん中で立ち往生してしまうシーンや、ラグとリーマーのやりとりなどが面白かった。いい味を出していたのはラージンダル。パーティーに出席すればモデルになれると思って会場に侵入するものの、相手にしてくれたのはオカマのBJだった。ラージンダルは結局モデルになることができなかったが、最後にピヤーの電話番号をゲットする。ギターを持ってパーティー会場に来たカランもよかった。停電中、カランはシュレーヤーに弾き語りをする。
パーティーの途中に停電になるというシーンは、なかなか現実に即していてよかった。そういえば2004年9月8日にコルカタで行われたFIFAワールド杯インド対日本の試合でも停電があった。インドにおいて、停電は生活の中で大きな問題だが、停電がないとインドという気がしないから不思議だ。そういう意味で、パーティー中の停電というのはいいところを突いていた。
よくインド映画のダンスシーンを見て、「こんなのインドにはどこにもない」と言う人がいるが、実はインド映画のミュージカルシーンのようなダンスパーティーは、行くところに行けば存在する。この映画で描かれている南デリーのファームハウスにおけるダンスパーティーも、決してフィクションではない。季節になれば、連日連夜、金持ちの集まるパーティーが行われている。だから、デリーのパーティー文化を垣間見るためにも、この「Let’s Enjoy」はいいのではなかろうか。
先日観た「Dance Like A Man」(2004年)で、ヒングリッシュ映画で使われる英語について批判を述べたが、この映画の言語は現実に忠実に即した、生の中上流層の言語だった。すなわち、英語とヒンディー語のチャンポンである。これこそ、現代のハイソな若者たちが使っている本当の英語であり、本当のヒンディー語である。言い換えれば、ヒンディー語と英語の融合形、ヒングリッシュ語である。現代のこの2つの言語の華麗なる融合に、僕は、トルコ語、ペルシア語、ポルトガル語、英語などの外国語や、オーストロ・アジア系言語、ドラヴィダ系言語などの土着語、サンスクリト語、ブラジ語、アワディー語、パンジャービー語などのインド諸言語を次々と取り込んで行った、ヒンディー語のダイナミズムを見る気がする。また、個人的にはこういう言語の映画が一番聴き取りやすいし理解しやすい。教科書に載っているようなコテコテのヒンディー語を登場人物が話すヒンディー語映画もそれはそれで分かりやすいのだが、現実の言語状況に即していないことが多いので、多少気になることがある(例えば裁判所のシーンでヒンディー語を話していたりすることなど)。
音楽はMIDIval PunditZというニューデリー出身のユニットが担当しており(その筋ではある程度有名かも)、全曲ほぼダンスナンバー。「Sabse Peeche Hum Khade」と「Subah」の2曲だけはアコースティク・ギターの音が心地よい弾き語り風の曲。どちらもなかなかいい歌で、機会があったらマスターしてみたい曲である。
ほとんど新人で、名前を覚えるのが大変だが、この中からまた新たなスターが出てくるのだろうか。「Let’s Enjoy」は、映画なのに見終わった後は精一杯踊りきったような気分になる、ユニークな映画である。