日本でも公開されたテルグ語映画「Baahubali: The Beginning」(2015年)と「Baahubali 2: The Conclusion」(2017年)のシリーズは全世界で大ヒットし、ヒンディー語映画界にも多大な影響を与えた。この映画の成功の後、ヒンディー語映画界でも叙事詩的なスケールを持った映画が作られるようになった。だが、2019年10月25日公開の「Housefull 4」ほど直接の影響が見られるヒンディー語映画は他にないだろう。
「Housefull」シリーズは、ヒンディー語映画界でヒットを飛ばし続けているコメディー映画のシリーズである。第1作の「Housefull」公開が2010年。以降、「Housefull 2」(2012年)、「Housefull 3」(2016年)と続いている。第4作まで続くシリーズ映画は「Housefull」が初めてだ。どれも基本的に3人のヒーローと3人のヒロインが結婚を巡ってドタバタ劇を繰り広げる物語である。4作共通で出演しているのは、アクシャイ・クマール、リテーシュ・デーシュムク、そしてチャンキー・パーンデーイである。
第1作と第2作の監督はサージド・カーンだったが、第3作ではサージド・ファルハドという兄弟が監督をした。第4作の監督は、サージド・ファルハドの内の一人、サージド・サームジーである。キャストは、アクシャイ・クマール、リテーシュ・デーシュムク、ボビー・デーオール、クリティ・サノン、プージャー・ヘーグデー、クリティ・カルバンダー、チャンキー・パーンデーイ、ラーナー・ダッグバーティ、ランジート、シャラド・ケールカル、ジョニー・リーヴァル、ナワーズッディーン・スィッディーキーなどである。また、写真のみだが、シャクティ・カプールとアルチャナー・プーラン・スィンが出ている。
ロンドン在住のハリー(アクシャイ・クマール)は、大きな音を聞くと直前にあったことを忘れてしまう酷い健忘症だった。ハリーには、マックス(ボビー・デーオール)とロイ(リテーシュ・デーシュムク)という兄弟がいた。マックス、ハリー、ロイは、大富豪タクラール(ランジート)の三人娘、クリティ(クリティ・サノン)、プージャー(プージャー・ヘーグデー)、ネーハー(クリティ・カルバンダー)と結婚することになり、結婚式はインドのスィータムガルの古城で行われることになった。 スィータムガルの古城は現在、高級ヘリテージホテルになっていた。スィータムガルに着いたハリーは、600年前、自分がマーダヴガル王国の王子バーラー(アクシャイ・クマール)だったことを思い出す。バーラーはマーダヴガル王国を追放され、スィータムガル王国に流れ着き、そこでスーリヤ・スィン・ラーナー王(ランジート)の長女マドゥ(クリティ・サノン)と結婚することになった。また、次女マーラー(プージャー・ヘーグデー)は舞踊家バングルー・マハーラージ(リテーシュ・デーシュムク)と、三女ミーナー(クリティ・カルバンダー)は護衛ダラムプトラ(ボビー・デーオール)と結婚することになった。ところが、王位簒奪を狙う王子スーリヤ・バーン(シャラド・ケールカル)の策略により、蛮族の王ガーマー(ラーナー・ダッグバーティ)に攻め込まれ、バーラー、バングルー、ダラムプトラ、マドゥ、マーラー、ミーナーの六人とガーマーは屋根の下敷きになって死んでしまった。 600年の時を経て、そのとき死んだ六人は転生したが、相手が異なっており、ハリーはそれを正そうと努力する。やがてロイとマックスも順々に前世の記憶を取り戻す。ところが、ガーマーの生まれ変わりであるパップー・ランギーラー(ラーナー・ダッグバーティ)もカッワールとして結婚式場に来てしまっていた。ガーマーも前世の記憶を取り戻し、六人に復讐をしようとする。その中でマーラーとミーナーも記憶を取り戻し、最後にマドゥもやっと600年前の出来事を思い出す。実は六人とガーマーを殺したのは、スーリヤ・バーンであった。そこへスーリヤ・バーンの生まれ変わりであるマイケル・バーイー(シャラド・ケールカル)もやって来る。マイケル・バーイーも記憶を取り戻すが、因果応報により屋根の下敷きになって死ぬ。
「Baahubali」シリーズや様々なヒンディー語映画のパロディーを織り交ぜながらも「Housefull」シリーズが培って来た、結婚を巡る男女3組のゴタゴタを核にしてまとめ上げた、スケールの大きなコメディー映画だった。輪廻転生をストーリーに組み込んだ上に、前世と現世でカップルの組み合わせが変わるというギミックを盛り込んだことで、インドならではの映画になっていた。「Baahubali」シリーズのSSラージャマウリ監督が2009年に撮った輪廻転生映画「Magadheera」のエッセンスが加わっていると考えてもいいだろう。
物語のベースラインでは「Baahubali」シリーズのパロディーになっているが、数から言えばヒンディー語映画のパロディーの方が多い。よって、ヒンディー語映画の知識があるほど、「Housefull 4」で散りばめられた笑いに反応できるだろう。例えば、アクシャイ・クマール演じるハリーの健忘症は「Ghajini」(2008年)のパロディーであるし、ボビー・デーオールが600年前のシーンで演じたダラムプトラは「ダラムの息子」という意味で、これはダルメーンドラの息子であるボビー・デーオールのことを指している。「ソルジャー、ソルジャー」という台詞も何回か聞こえて来たが、これはボビーの代表作「Soldier」(1998年)のタイトルソングの一節だ。600年前のシーンでクリティ・サノンはマドゥ役、アクシャイ・クマールはバーラー役を演じていたが、「マドゥ」と「バーラー」と言えば、往年の名女優マドゥバーラーをおいて他にない。このように、細かいパロディーで笑いを連打するタイプのコメディー映画だった。
アクシャイ・クマールはどんなジャンルの映画でもそつなくこなせる万能型の俳優だが、コメディーもお手の物だ。今回はいつになく吹っ切れた馬鹿騒ぎをしていた。特に600年前のシーンにおいて、つるっぱげの頭と共に踊る「Shaitan Ka Saala」は映画のハイライトのひとつだ。リテーシュ・デーシュムクとボビー・デーオールは助演扱いの役柄だったが、それぞれいい仕事をしていた。
過去に「Housefull」シリーズには、ディーピカー・パードゥコーンやジャクリーン・フェルナンデスなど、A級の女優たちが出演して来た。今回ヒロインを務めた3人の中では、クリティ・サノンが既に頭角を現している女優である。名前が同じで紛らわしいが、クリティ・カルバンダーも成長株だ。プージャー・ヘーグデーは南インド映画界で活躍して来た女優で、ヒンディー語映画界での活躍は今後となるだろう。3人とも似たような容姿で、3人揃うと容易には区別が付かないのだが、3人ともよりビッグになる可能性はある。
三人娘の父親を演じたランジートは、1970年代から80年代にかけて悪役俳優として名を馳せた俳優である。彼の出演する映画には必ずレイプシーンがあるということで、一部のインド人観客から絶大な人気を誇った。彼が「品行方正な」父親役を演じるという点が既にパロディーなのである。
チャンキー・パーンデーイは、「Housefull」シリーズに一貫して登場して来たアーキリー・パスタ役を今回も演じていた。「Housefull」シリーズにはなくてはならない存在になっている。コメディアン俳優として尊敬を受けているジョニー・リーヴァルも小気味よい暴走振りであった。
物語の大半はスィータムガルが舞台となるが、このような名前の土地も王国もなく、架空のものである。撮影は主にラージャスターン州のジャイサルメール・パレスで行われたようだが、かなりCGで盛られている。
「Housefull 4」は、2010年から続くコメディー映画シリーズの第4作。テルグ語映画「Baahubali」シリーズのパロディーに加え、多数のヒンディー語映画のコメディーがあちこちに散りばめられており、インド映画にドップリ漬かっているほど楽しめる作品だ。興行的にも大ヒットとなった。