ヒンディー語映画界にはシリーズ化されているコメディー映画がいくつもあるが、「Masti」シリーズはそのひとつだ。第1作「Masti」は2004年に公開、第2作「Grand Masti」は2013年に公開され、その第3作となる「Great Grand Masti」は2016年7月15日に公開された。
「Masti」シリーズに一貫しているのは、結婚生活に満足していない3人の男性が浮気相手と「Masti(お楽しみ)」をしようとするというコメディーという点である。三人組のアマル、ミート、プレームを演じるのは、3作ともリテーシュ・デーシュムク、ヴィヴェーク・オーベローイ、アーフターブ・シヴダーサーニーが演じている。第1作が公開された2004年時点では、この3人は若手の有望株であった。だが、時は流れ、2016年にこの3人を改めて見ると、だいぶ落ちぶれた感がある。おそらく、2010年代に入り、起死回生を期して「Masti」シリーズを連発しているのだろう。
監督は「Mati」、「Grand Masti」に引き続き、インドラ・クマール。主演は前述の通り、リテーシュ、ヴィヴェーク、アーフターブの3人である。ヒロインと呼べるのは4人の女優。ウルヴァシー・ラウテーラー、プージャー・バナルジー、ミシュティー、シュラッダー・ダースである。他に、シュレーヤス・タルパデーが特別出演、ソーナーリー・ラウトが「Lipstick Laga Ke」でアイテムガール出演している。また、サンジャイ・ミシュラー、ウシャー・ナードカルニー、カンガナー・シャルマー、ケータン・カランデーなどが出演している。
ムンバイー在住のアマル(リテーシュ・デーシュムク)、ミート(ヴィヴェーク・オーベローイ)、プレーム(アーフターブ・シヴダーサーニー)は結婚生活に満足していなかった。 アマルは妻サプナー(プージャー・バナルジー)の実家に住んでいたが、義母(ウシャー・ナードカルニー)も同居していた。義母は怪しげな聖者アンタークシャリー・バーバー(サンジャイ・ミシュラー)の熱心な信徒で、アマルは辟易していた。 ミートの妻レーカー(ミシュティー)には双子の弟がおり、感覚がつながっていた。義弟が同居し始めたことで、ミートはおちおちレーカーといちゃつくこともできなくなった。 プレームの妻ニシャー(シュラッダー・ダース)にはセクシーな妹(カングナー・シャルマー)がおり、プレームの性欲を刺激して止まなかった。妹のロンドン留学のため、100万ルピーが必要となる。不動産業を営んでいるプレームは、アマルの故郷ドゥードワリー村の物件を売却してその金を作ろうとする。また、三人がドゥードワリー村にセクシーな女の子たちがいるのを知り、みんなで行って村の女の子と楽しもうと決める。 ところが、ドゥードワリー村のその邸宅には女性の幽霊ラーギニー(ウルヴァシー・ラウテーラー)が住み着いていた。ラーギニーは未婚のまま死んでしまったため、男に飢えていた。アマル、ミート、プレームが来たことで、三人の内の誰かと初夜を迎えることを決める。ラーギニーと夜を共にした男はラーギニーと共に昇天することになっていた。 アマル、ミート、プレームは、当初はラーギニーのセクシーな容姿にメロメロになるが、彼女が幽霊であることを知ると、途端に怯え出す。邸宅から逃げ出そうにもラーギニーの魔力によって扉は閉ざされていた。アイデアマンのプレームは、ジゴロのバーブー・ランギーラー(シュレーヤス・タルパデー)を呼び寄せ、彼をラーギニーに宛がおうとする。ところが、三人の妻、サプナー、レーカー、ニシャー、そしてサプナーの母、レーカーの弟、ニシャーの妹までドゥードワリーに来てしまう。ランギーラーはラーギニーの魔力で鶏に変えられ、しかも妻たちによって調理されてしまう。 アマル、ミート、プレームは、ラーギニーと寝ることを拒否する。するとラーギニーは三人を殺そうとするが、ラーギニーが生前怖れていた父親の杖を手にしたことで形勢逆転する。その杖はミートが誤って折ってしまい、再びピンチとなる。彼らは、駆けつけたアンタークシャリー・バーバーの持っていた、霊を呼び寄せる不思議なボードを使って、ラーギニーの父親を呼び寄せようとする。ところが、やって来た霊はバーブー・ランギーラーであった。ランギーラーはラーギニーと惹かれ合い、二人で昇天する。
2002年以降、ホラー映画がジャンルとして確立し、多数のホラー映画が作られて来たヒンディー語映画界だが、歌と踊りが入ったり、様々な娯楽要素を一本の映画に詰め込んだりするインド映画の形式は、必ずしもホラー映画と相性の良いものではなかった。「Om Shanti Om」(2007年)や「Bhool Bhulaiyaa」(2007年)など、様々な試行錯誤を経て、「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)などにおいて、コメディーとの融合こそがインド映画のフォーマットに合ったホラーの活かし方だと手応えを掴んだようで、以後、ホラー・コメディーと呼べる映画が見られるようになった。不倫コメディーとして人気を博して来た「Masti」シリーズも、第3作の「Great Grand Masti」において、ホラー・コメディーの方向に舵を切った。
とは言え、浮気や不倫を中心に物語が展開するコメディー映画という根幹部分に変化はなく、笑いの大部分はアマル、ミート、プレームのお下劣な言動から醸成される。特に男性器にまつわる下品なジョークが目白押しのため、女性や家族向けの映画ではない。それを許容できるならば、大爆笑は間違いなしだ。
コメディーに軸足を置いているので、ホラー要素はオマケ程度である。今回、女幽霊ラーギニーを演じたウルヴァシー・ラウテーラーは、幽霊の役作りに失敗しており、かろうじてセクシーさは出せていたものの、怪しげな妖艶さもなければおどろおどろしさも不足していた。そのおかげで怖さがなく、ホラー映画が苦手な人でも観られる映画にはなっていたと言える。
主演のリテーシュ・デーシュムク、ヴィヴェーク・オーベローイ、アーフターブ・シヴダーサーニーは、2000年代には勢いがあったが、2010年代では、主演を張る男優ではなくなってしまった。ヒンディー語映画界の熾烈な競争に敗れた3人が集まって、かろうじて「Masti」シリーズにぶらさがっている様子は痛々しかった。それでも、恥も外聞も捨て、開き直って下品なギャグに精いっぱい取り組んでいる姿は一定の評価をされて然るべきであろう。
たくさんの女優が登場したが、小粒の女優が多すぎて、誰が誰だかよく分からなかった。この中ではやはり女幽霊を演じたウルヴァシー・ラウテーラーが一番出世するであろう。
劇中ではカルワー・チャウト祭が描かれていた。ヒンディー語映画でよく登場する祭りで、ダシャハラーとディーワーリーの間に祝われる。この日、既婚の女性は断食をし、月が出ると夫の顔を篩(ふるい)を通して見た後に食事をする。こうすることで、夫の長寿が叶うとされている。浮気をしにドゥードワリー村を訪れた三人の男性のところへ、カルワー・チャウトを祝うために妻たちがやって来るという、皮肉な展開となる。
「Great Grand Masti」は、2004年から始まった不倫コメディー「Masti」シリーズの第3作目。主演を務めるのは、2000年代に勢いのあったリテーシュ・デーシュムク、ヴィヴェーク・オーベローイ、アーフターブ・シヴダーサーニーの3人で、多くの小粒の女優たちが登場する。お下劣なギャグのオンパレードで、万人向けの映画ではないが、割り切って鑑賞できれば楽しめる。ヒンディー語映画界におけるホラー・コメディーの発展という点で記憶に留めるべき作品とも感じる。