ヒンドゥー教の結婚式では様々な儀式が執り行われるが、婚姻を正式に成立させる儀式は結婚式の最後に行われる「サート・ペーレー」と呼ばれるものだ。新郎新婦が火の回りを7回まわり、7つの誓いを立てる。「サート・ペーレー」は「7回の周回」という意味である。
2021年7月23日からZee5で配信開始された「14 Phere」の題名は、「サート・ペーレー」の二倍を意味する。つまり、2回の結婚式だ。過去には「7 1/2 Phere」(2005年)という映画もあったが、それをパワーアップさせたような題名である。
監督はデーヴァーンシュ・スィン。「Patiala House」(2011年)などで助監督を務めていた人物であり、長編映画の監督としては本作が実質上のデビュー作となる。主演はヴィクラーント・マシーとクリティ・カルバンダー。他に、ガウハル・カーン、ジャミール・カーン、ヤーミニー・ダース、ヴィニート・クマール、プリヤーンシュ・スィン、マノージ・バクシー、ゴーヴィンド・パーンデーイなどが出演している。
サンジュー(ヴィクラーント・マシー)とアディティ(クリティ・カルバンダー)は大学時代に出会って付き合い始め、同じ職場に就職し、同棲していた。サンジューはビハール州ジャハーナーバードのラージプート、アディティはラージャスターン州ジャイプルのジャートであった。両家族とも異カースト間結婚を認めておらず、二人の結婚は難しそうだった。サンジューの姉は異カーストの恋人と駆け落ち結婚をし、父親は彼女を殺そうと探し回っていた。 サンジューは劇団で俳優をしており、演技力には自信があった。彼は妙案を思い付く。偽の父親と母親を仕立てあげ、まずはアディティをラージプート女性ということにしてサンジューの家族に紹介し、結婚をする。その後、今度はサンジューがジャート男性ということにしてアディティの家族と会い、結婚をする。駆け落ちをせず、お互いの家族に認めてもらう形で結婚をするという案であった。 偽の父親と母親は、俳優のアマイ(ジャミール・カーン)とズビーナー(ガウハル・カーン)が演じることになり、職場の同僚たちがその他の役となった。まずはサンジューの故郷ジャハーナーバードで結婚式が行われ、二人はラージプート式の結婚式を挙げる。 だが、まずはサンジューの弟チョートゥー(プリヤーンシュ・スィン)にアディティがラージプートではないことがばれてしまう。また、ジャイプルで行われた結婚式では、たまたまジャハーナーバードの結婚式に居合わせた旅行代理業者にばれてしまい、とうとうアディティの家族にも嘘がばれる。しかもその場にサンジューの両親も駆けつけたため、混乱に陥る。しかしながら、最後には土壇場で話がまとまり、改めてサンジューとアディティの結婚式が行われた。
異カースト間結婚をテーマにした映画であった。新郎側がラージプート、新婦側がジャートになる。どちらも武闘派で知られるカーストであり、銃を持ち歩いている。駆け落ちした男女を家の者が殺す名誉殺人も横行している。だが、ライトコメディーの味付けで、悲愴感はほとんどなかった。
家族から反対される異カースト間結婚を成就しようとした場合、普通は駆け落ち結婚という手段が採られるが、「14 Phere」では全く異なる独創的な手法が採られた。それは、偽の両親を仕立てあげて、それぞれの家で合計2回結婚をするというものである。この奇抜な発想の上に組み立てられた物語であった。
だが、冷静に考えればそんなにうまく行くものではない。まず、2回分の結婚式の費用が掛かる。インドの結婚式は巨額の金が掛かるため、2回分の結婚式費用を捻出すること自体が非現実的だ。新郎側から新婦側に贈られる持参金の問題も付いて回る。次に、結婚式参列者の問題だ。インドの結婚式では数百人のゲストが呼ばれるのが普通である。2回結婚式を行い、新郎新婦以外の参列者を俳優で賄うというのはやはり非現実的だ。そしてインドの結婚式では日本にも増して写真撮影が行われる。2回の結婚式が終わった後、2種類の結婚式写真が出来てしまうため、いずればれる運命にあるプランだと言える。
よって、「14 Phere」で試された計画は、現実世界ではほとんど実行不可能なものだ。だが、これは映画である。ファンタジーとして楽しめばいいだろう。一旦認めてしまえば、いろいろなコメディー要素が生まれる余地がある。残念ながら「14 Phere」ではあまりその潜在性を活かし切れていなかったように感じた。まとめ方も唐突でやっつけ仕事だった。詰まるところ、2時間弱の上映時間の中では消化不良な設定であった。2時間半くらいのコメディー映画にしていれば、もっと可能性を探究することができただろう。
主演のヴィクラーント・マシーもクリティ・カルバンダーもAクラスの俳優ではないが、OTT(配信スルー)プラットフォームの隆盛にも助けられ、上昇気流に乗りつつある。脇役たちも、トップクラスの知名度を誇る脇役俳優たちではないが、ジャミール・カーン、ガウハル・カーン、ヴィニート・クマール、マノージ・バクシーなど、それぞれに見せ場があり、映画を盛り上げていた。
「14 Phere」は、異カースト間結婚を題材にした映画だが、基本的にはコメディー映画であり、カースト問題に深く切り込もうとする気概のある映画ではなかった。着想は面白く、もっと上映時間を延ばして出来事を増やして行けば、さらに完成度の高いコメディー映画になった可能性はある。つまらないことはないが、特に残るものもない映画である。