前週には実生活のカップル、ヴィヴェーク・オーベローイとアイシュワリヤー・ラーイが共演する映画「Kyun! Ho Gaya Na…」(2004年)が公開されたが、2004年8月20日からも同じようなコンセプトの映画が公開された。「Fida(献身)」という名の映画で、共演するカップルはシャーヒド・カプールとカリーナー・カプール。カリーナー・カプールは説明の必要がないくらいの有名な女優だが、シャーヒド・カプールは「Ishq Vishk」(2003年)でデビューしたばかりの若手男優である。監督は同じく「Ishq Vishk」でデビューしたケーン・ゴーシュ。音楽はアヌ・マリク。ファルディーン・カーン、アキレーンドラ・ミシュラー、キム・シャルマーも出演する。PVRアヌパム4で鑑賞した。
ジャイ(シャーヒド・カプール)は偶然見かけたネーハー(カリーナー・カプール)に一目惚れし、しつこく口説く。「私のために命を投げ出すつもりはあるの?」との言葉に対し、ジャイは左腕に「I Love U Neha」と自ら刺青を入れて、睡眠薬を大量に呑み込んで自殺を図る。ジャイは一命を取り留めるが、その行動がネーハーの心を動かし、二人は恋仲となる。 ある日、ジャイはネーハーが大きなトラブルに巻き込まれていることを知る。死んだ父親がマフィアから借りた金、6千万ルピーを3日後までに返さなければ、ネーハーはマフィアに殺されることになっていたのだった。ジャイは6千万ルピーを用意するために銀行強盗をすることを決意するが、銀行で7千万ルピーの現金を引き出している男を見つけ、彼から金を盗むことにする。男の名前はヴィクラム(ファルディーン・カーン)だった。 夜、ジャイはヴィクラムの家に忍び込むが、ヴィクラムに殴られて気絶してしまう。翌朝、ヴィクラムは目を覚ましたジャイから事情を聞く。ジャイの置かれた状況を理解したヴィクラムは、6千万ルピーを提供する準備があることを伝える。ただし条件があった。 少し前にインド全土を震撼させた事件があった。何者かが銀行から50億ルピーの金をインターネットをハッキングして盗み出したのだ。犯人はまだ捕まっていなかった。実はその犯人がヴィクラムだった。ヴィクラムはジャイに、身代わりになって警察に出頭すれば、6千万ルピーを提供しようと提案する。ネーハーのためなら命を投げ出す覚悟があったジャイは、ヴィクラムの提案を了承する。 ところが、ヴィクラムが銀行から盗み出した金は、マフィアのドン、アンナー・バーブー(アキレーンドラ・ミシュラー)の口座から引き出したもので、アンナーも犯人を必死に探していた。ジャイが警察に逮捕されると、アンナーはジャイを誘拐するために手下を差し向ける。警察とマフィアの銃撃戦が発生するが、ジャイはその合間に逃げ出し、ネーハーの家へ辿り着く。しかし、そこで見たのは、一緒にシャワーを浴びるヴィクラムとネーハーだった。 実はヴィクラムとネーハーは恋人同士だった。ヴィクラムは銀行から大金を盗み出したが、警察とマフィアの追っ手に怯えて暮らしていた。ネーハーに言い寄る男が現れたのをいいことに、彼を犯人に仕立て上げる計画を立てたのだった。それを知ったジャイは絶望しながらも逃亡するが、途中で警察に見つかって撃たれ、河の中に落ちる。 2ヵ月後、ヴィクラムとネーハーは金を湯水のごとく使って豪勢な生活をしていた。そこへ突然、ジャイから電話がかかってくる。ジャイは生きており、二人に復讐するためにやって来たのだった。ジャイはネーハーを誘拐して、ヴィクラムに警察に自首するよう求めるが、そこへアンナーも現れ、ヴィクラム、ジャイ、マフィアの銃撃戦となる。マフィアは全員死に、結局最後にヴィクラムが優位に立つが、ジャイは最後の力を振り絞ってネーハーの頭を銃で射抜き、死ぬ。ネーハーを失ったヴィクラムは、ハッキングして手に入れた金をチャリティー団体に寄付する。
メインキャラクターは3人。シャーヒド・カプール演じるジャイ、カリーナー・カプール演じるネーハー、ファルディーン・カーン演じるヴィクラム。この内の誰にも感情移入することができなかった。よって、映画を見終わった後の充足感は非常に少なかった。シャーヒドとカリーナーの絡みもほとんどなく、最後にはシャーヒドがカリーナーを撃ち殺すという、残酷な終焉。全く期待外れの作品だった。
シャーヒドまたはジャイに感情移入できなかったのは、まずシャーヒドの無理に作った笑顔が気に入らなかったことと、100%ドーピングのあまりにアンバランスな筋肉。なぜカリーナー・カプールが彼と付き合っているのか、理解できない。映画中のキャラクターもひどかった。彼女(キム・シャルマー)がいるにも関わらず、ネーハーに一目惚れすると彼女を無視してネーハーに言い寄ったりしていたし、ヴィクラムとネーハーに復讐するシーンは悪役に等しかった。ジャイに比べるとヴィクラムの方がかえって純愛キャラだった。ジャイを罠に掛けるところは陰険だが、ネーハーに対する愛情に一点の曇りもなかった。しかし、彼にも感情移入することはできない。ジャイの恋心を弄んだネーハーも、もちろん感情移入することは難しい。よって、インド映画で一番重要な、「映画のキャラクターに観客の心を同調させる」という部分で大失敗していた。
映画全体の流れもチグハグだった。前半から後半序盤にかけての、ジャイが殺されるシーンまではいい流れだったが、そこからがいけなかった。ヴィクラムとネーハーの家に生き返ったジャイが執拗にストーキングするシーンは突然ホラー映画みたいな手法になるし、ジャイの性格がねじ曲がってしまっているので誰が悪役か分からなくなる。ファルディーン・カーンの登場シーンも何だか蛇足だった(突然空き瓶をキックでぶち割って登場)。
映画自体の出来は高く評価できないが、カリーナー・カプールだけはいろんな表情を使い分けていてなかなかよかった。「Dev」(2004年)のときも思ったが、カリーナーは無表情に近い表情のときが一番かわいく見える。笑った表情のときはものすごい不細工に見えるときもある。ファッションでは、ミュージカル「Aaja Ve Mahi」で身に付けていた「Wow」マークのベルトがよかった。
いくつかのミュージカルシーンや後半部分は、南アフリカ共和国やドバイでロケが行われたそうだ。
あまり観る価値のない映画だが、カリーナー・カプールが付き合っているシャーヒド・カプールがどんな男なのか、自分の目で確かめてみるのもいいかもしれない。