2004年7月30日公開の新作ヒンディー語映画「Mujhse Shaadi Karogi」をPVRアヌパム4で鑑賞した。「Mujhse Shaadi Karogi」とは、「僕と結婚してくれないかい」という意味。監督は、「Biwi No.1」(1999年)、「Kyo Ki… Main Jhuth Nahin Bolta」(2001年)などのコメディー映画で有名な「コメディーの帝王」デーヴィッド・ダワン。音楽はサージド・ワージド。キャストは、サルマーン・カーン、アクシャイ・クマール、プリヤンカー・チョープラー、アムリーシュ・プリー、サティーシュ・シャー、ラージパール・ヤーダヴなど。アムリター・アローラーや、「Kaanta Laga」のミュージックビデオで一躍有名となったシェーファーリー・ジャリーワーラーなどが特別出演。この他、あっと驚く人物も登場するが、それは後述。
長年好きだった女の子(アムリター・アローラー)にふられたサミール(サルマーン・カーン)は、心機一転するため、ムンバイーからゴアにやって来た。ゴアのビーチでライフガードの仕事に就いたサミールは、ファッションデザイナーのラーニー(プリヤンカー・チョープラー)と出会って一目惚れする。仲良くなった占い師のラージ(ラージパール・ヤーダヴ)の助けを得てラーニーにお近づきになるサミールだったが、間違いから彼女の父親で退役軍人の大佐(アムリーシュ・プリー)を思いっきり殴ってしまう。何とか許してもらったサミールだが、その後もやることなすこと全てが裏目に出てしまい、大佐に目を付けられるようになる。 一方、サミールが住んでいた家に同居人が入ってくる。彼の名前はサニー(アクシャイ・クマール)。サニーもラーニーに一目惚れしてしまったため、サミールとサニーは彼女を巡って激しいバトルを繰り広げることになる。特にサニーはサミールの足を引っ張ると同時に、大佐に気に入られて、サミールを一歩も二歩もリードする。 サミールの祖母がゴアにやって来たことにより、さらに話はこんがらがる。サミールが大佐の妻を誘惑しようとしていると勘違いされ、ラーニーも遂に愛想を尽かす。また失恋してしまったサミールはゴアを去ることを決意するが、サニーがラーニーと結婚することを知って、やけくそになる。そのときちょうど、ゴアではインド対パーキスターンのクリケット親善試合が行われており、大佐の家族も観戦に来ていた。サミールはクリケットのフィールドに乱入し、多くの観衆の前で、ラーニーに「オレと結婚してくれ!」と叫ぶ。 実は、サニーはサミールの幼馴染みアルンだった。少年時代にアメリカへ移住したアルンは、インドに戻って来ると同時にサミールの家を訪れたが、彼はゴアに去って行ってしまった後だった。アルンはサミールの恋を成就させるためにサニーと名を偽ってサミールの同居人となって、いろいろ工作をして来たのだった。アルンはラーニーに、サミールが今まで彼女のためにして来た隠れた努力を明かす。 大佐の了承も得たラーニーは、そのままフィールドに駆け出し、サミールと抱き合う。インド対パーキスターンの試合を見に来ていた観衆の拍手喝采を浴びたサミールは、喜びと共にマイクを放り投げる。しかし、そのマイクは大佐の頭に命中するのだった・・・。
間違いなく今年最高のコメディー映画のひとつになるだろう。恋の三角関係という主題は陳腐だし、ストーリーの整合性は少なかったが、監督の才能なのだろうか、随所で爽快に爆笑させてもらった。アクション男優というイメージの強いアクシャイ・クマールが、本格的にコメディー映画に挑戦したのも目新しかった。
まずは主人公サミールの少年時代が描かれ、親友アルンも登場するが、そこから話はすぐにサミールの青年時代へと以降する。サミールは信心深くて素直な性格なのだが、怒りに任せて暴力を振るう癖があり、そのせいで長年恋焦がれてきた女の子にもふられてしまう。人生をやり直すため、サミールは住み慣れたムンバイーを離れて、ゴアのライフガード会社の経営者となる。サミールが借りた部屋の大家は、頭に受けた傷が元で、日によって盲目になったりオシになったりツンボになったりする爆笑キャラだった(大家を演じたのは、デーヴィッド・ダワン監督自身だと思われる)。サミールは向かいの家に住むファッションデザイナーのラーニーに一目惚れするが、その父親の大佐とはどうも馬が合わなかった。道で子供をはねた車の運転手を殴ったら、不幸にもそれがラーニーの父親だったのがその発端で、ボールを蹴り上げたら大佐に当たり、シャンペンの栓を開けたら、その栓が大佐の母親の遺骨が入った壺にヒットして割れてしまったり、バイクで大佐をはねてしまったり・・・。ミスを犯すごとに、サミールの元からラーニーが遠のいていくかのようだった。決定的だったのはサニーの登場である。友人の占い師ラージは、サミールの部屋にシャニ(土星を象徴する神様で、不吉とされる)が現れると予言するが、その予言通り、サニー(シャニとサニーの音の類似に注目)がサミールの同居人となる。サニーもラーニーに一目惚れしてしまい、事あるごとにサミールの恋を邪魔する。特に、大佐のかわいがっていた犬、トミーを誘拐して、その犯人をサミールにしてしまうところなんかは爆笑ものだ。しかし実はサニーはサミールの幼馴染みのアルンで、サミールの恋を助けるために、また彼の恋を試すために、全てのことをしていたのだった。最後、クリケットの印パ親善試合という大舞台で、サミールは公衆の面前でラーニーにプロポーズをする。
いくつか突っ込みどころがあった。サニーに誘拐されたトミーはどうなったのか?サミールに「半径500m以内に近づかないで」と言うまで彼のことを嫌っていたラーニーが、手品師の魔術にかかってサミールのことを惚れるようになるというシーンがあったが、一応の恋愛映画でそんな反則技を使っていいのか?サニーはサミールの恋のキューピッドになるためにやって来たというのに、邪魔しすぎではないのか?ラージの双子の兄の率いる暴走族が突然サミールを「ボス」と呼び出すのは唐突すぎでは?・・・などなど。
近年スキャンダルの渦中にいたサルマーン・カーンは、心なしかスクリーン上でますます「腕っ節は強いが根はいい人」を演じることが多くなったような気がする。自慢の二枚目顔と筋肉は衰えておらず、危機的だった前髪の生え際もいくらか回復したように思えた(カツラか?)。踊りもうまい。しかし、助演のアクシャイ・クマールの好演に終始押され気味だったことは否めない。今回のアクシャイは、登場シーンでヘリコプターにぶらさがって登場したり、モーターボートの舳先に座って踊ったりと、自慢のスタントなしのアクションも魅せ、主役を食っていた。助演男優賞を狙えるかもしれない。
最近注目のプリヤンカー・チョープラーは、2人の男から結婚を迫られる美女の役を魅力的に演じ、ますます大女優のオーラが湧き出てきた。敢えて大女優と言わないのは、彼女に任されるのはあまり演技力を要しない役ばかりだからだ。果たして演技力がないからそうなのか、それとも監督が彼女に多くのことを要求していないからそうなのか、今のところ分からない。このままだと初期のアイシュワリヤー・ラーイのように、「そこにいるだけでOK」という客寄せパンダ的女優になってしまう恐れがある。だが、若手女優の中では頭ひとつ抜きん出たと言っていいだろう。
脇役陣では、アムリーシュ・プリーがよかった。「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年)で演じたような超恐いお父さん役だが、それにうまくコメディー色を混ぜ、映画を面白おかしくしていた。アムリーシュが演じた大佐は、1961年のゴア戦争で活躍した退役軍人。ゴア、ダマン、ディーウなどはインド独立時まだポルトガル領だったが、インド政府が武力で併合した。
映画中、いくつか面白い仕掛けがあった。例えば、大ヒット曲「Kaanta Laga」のパロディー。「Kaanta Laga」は元々ラター・マンゲーシュカルが歌ったオールディーズだが、「DJ Doll Remix」というアルバムに入っている「Kaanta Laga」はそのリミックスである。リミックス版の「Kaanta Laga」のプロモーションビデオは非常にエロチックで、一時期「音楽ビデオの性描写も映倫のような機関で規制すべき」という議論が巻き起こったほどだ。そのビデオの中でセクシーな踊りを踊って一躍時の人となったのがシェーファーリー・ジャーリーワーラーだ。特に、シェーファーリーが左胸のかなり際どい場所に、ディスコの入場スタンプを押させるところがエロチックだった。「Mujhse Shaadi Karogi」の中で、そのプロモーションビデオのパロディー・ダンスシーンがあり、シェーファーリー自身がアクシャイ・クマールらと踊りを踊っている。
しかし一番のサプライズは、最後のクリケット印パ戦シーンだ。インド・クリケット界の大御所カピル・デーヴを筆頭として、ハルバジャン・スィン、ムハンマド・カイフ、イルファーン・パターンなど、実物のクリケット選手が登場していて驚いた。インド映画にクリケット選手が出演したのは、これが初めてではないだろうか?
ミュージカルシーンの踊り振り付けは全てファラー・カーンが担当し、どれも出色の出来。サージド・ワージドの音楽も軽快で心地よく、「Mujhse Shaadi Karogi」のミュージカルシーンは見ても聞いても楽しい。「Jeene Ke Hain Chaar Din」の踊りで、股の間にタオルを通してゴシゴシするところが面白かった。他にパンジャービー風の「Aaja Soniya」、歌詞がいい「Laal Dupatta」などが印象に残った。「Laal Dupatta」で出てきた四角形の池とガートは、ファラー・カーン監督作「Main Hoon Na」(2004年)の「Tumese Milke Dil Ka Jo Haal」のミュージカルシーンにも出てきたような気がする。
「Mujhse Shaadi Karogi」は公式通りの典型的インド映画で、「マサーラームービーとは何ぞや」と思っている人には最適の映画だろう。