今日はPVRメトロポリタンで、2004年6月11日公開の、レズビアンを主題に扱った話題の新作ヒンディー語映画「Girlfriend」を観た。監督はカラン・ラーズダーン、音楽はダッブー・I・マリク。キャストはイーシャー・コッピカル、アムリター・アローラー、アーシーシュ・チャウダリーなど。
タニヤー(イーシャー・コッピカル)とサプナー(アムリター・アローラー)は大学時代からの親友で、5年間一緒に生活していた。タニヤーは気が強くてスポーティーな性格なのに対し、サプナーは女の子らしい性格だった。実は、タニヤはレズビアンで、サプナーのことを一方的に愛していたが、サプナーはタニヤのことをただの親友と考えていた。大学時代、二人は酔っ払って一度だけレズ行為をしてしまったが、その後は何事もなかったかのように平穏に暮らしていた。 ある日、タニヤーが仕事で15日間外出していた間、サプナーはラーフル(アーシーシュ・チャウダリー)と出会い、恋に落ちる。サプナーを取られたタニヤーは執拗に二人の仲を裂こうとする。タニヤーがレズであることに勘付いたラーフルは、サプナーとの恋を成就させるためにタニヤーに立ち向かう。サプナーを巡る、タニヤーとラーフルの争いは、最終的に2人の決闘に行き着く。夜な夜なストリートファイトをして金を稼いでいたタニヤーは、男にも負けないほどの戦闘力を持っていたが、ラーフルは彼女を何とか倒し、サプナーと結婚するのだった。
おそらく言葉が分からなくても100%筋を理解できる分かりやすい映画である。ただ、1人の女を巡る2人の男の争いというありきたりのストーリーではなく、1人の男と1人のレズビアンの戦いという点がヒンディー語映画には斬新であるため、特異な映画となっている。
同性愛をテーマにした映画というと、2003年の「Mango Souffle」が思い起こされる。また、最近のインド映画にはなぜかホモっぽいキャラが多く登場する。例えば、「Tum?」(2004年)や「Muskaan」(2004年)では、脇役かつ道化役として登場したホモキャラが、最後の最後でどんでん返し的に重要な役割を演じていた。基本的にインド映画では同性愛は好意的に描かれていないが、この「Girlfriend」もレズビアンは最終的に悪役となっていた。
性描写もなかなか激しく、特にタニヤーとサプナーのレズシーンは、インド映画の倫理に果敢に挑戦していた。過去にレズビアンを扱った映画としては、ディーパー・メヘター監督の「Fire」(1996年)があったが、純粋なインド映画とは言いがたい。そうなると、女と女の絡みを描いた純粋なインド映画は、もしかしてなかったかもしれない。今年は「Tum?」、「Hawas」(2004年)、「Murder」(2004年)と過激な性描写の映画が続いたが、この映画もその列に加わるだろう。
ただ、レズビアンを恋のトライアングルに入れるという試みは目新しいものの、ストーリー、演技、映像、音楽など、他の点で優れた部分は見当たらなかった。終わり方も強引であっけない。映画としての完成度は非常に低い。全編モーリシャスでロケが行われ、きれいなビーチが映画の背景を飾るが、映画の中ではあくまで舞台はインドということになっているため、トンチンカンな舞台設定になってしまっているのも残念だ。
最初はサプナーをラーフルに奪われて一人ぼっちになってしまったタニヤーに観客は何となく同情してしまうのだが、タニヤーの嫌がらせがエスカレートしていくにつれて、だんだんラーフルとサプナーの結婚を支持するようになる。タニヤーとサプナーが大学時代に一回関係を持ったという事実が発覚するのは物語中盤で、それはけっこう衝撃的なのだが、しかし二人ともレズビアンなのではなく、タニヤーが一方的にサプナーを「レイプ」したので、ますますタニヤーが悪役に転落していく。タニヤーがレズビアンになった理由は、幼少時代に男から受けたセクハラだと語られるのだが、果たしてセクハラを受けるとレズビアンになってしまうものなのだろうか・・・。やはりタニヤーには同情できない。遂にタニヤーは暴力に訴えるようになり、破滅の道を突き進んでいくことになる。本物のレズビアンから「レズを馬鹿にするな」と批判が来そうなストーリーだった。
レズビアンのタニヤーを演じたイーシャー・コッピカルは、最近変な役ばかり演じている。「Rudraksh」(2004年)では悪の大王の妾みたいな役だったし、「Krishna Cottage」(2004年)では嫉妬深い幽霊の役だった。「Girlfriend」ではレズばかりでなく、ストリートファイターとして格闘シーンも披露しており、インドの女優の常識を打ち破り続けている。格闘シーンのためにエキササイズでもしたのだろうか、やたらと二の腕が太くなっていたように思えた。ちょっと暴走気味の女優に思えるのだが、個性があるので少し期待している。イーシャー・コッピカルがあまりに異彩を放っていたため、他の主演俳優であるアムリター・アローラーとアーシーシュ・チョウダリーは影が薄かった。
結局のところ、「Girlfriend」は同性愛やレズビアンを主題にした映画とは言えない。ただ「レズビアン」というスパイスを気分転換のために映画に振りかけただけの、味に深みのない無国籍料理のような映画となってしまっている。「インド映画のレズシーンを観る」という目的のみ、金を出す価値のある映画である。