Mirzapur: The Movie

3.0
Mirzapur: The Movie
「Mirzapur: The Movie」

 日本では伝統的にTV局の力が圧倒的に強く、どちらかといえば映画はTVの従属的な立場にある。よって、日本では「踊る大捜査線 THE MOVIE」(1997年)をはじめとして、TVドラマの映画化がよく企画される。それに対してインドでは映画が今でも「娯楽の王様」の地位を堅守しており、TV業界は格下の扱いを受けている。たとえば、映画スターとTVドラマのスターは厳密に区別されており、ステータスは映画スターの方が圧倒的に上である。そんなこともあって、インドにおいてTVドラマの映画化は、「Khichdi: The Movie」(2010年)など一部例外を除いてほとんど見られない。

 ただ、近年はOTTプラットフォームの勢力拡大に伴って状況に若干の変化が見られるようになってきている。2026年9月4日公開の「Mirzapur: The Movie」もそんな変化の一端である。これは、2018年からAmazon Prime Videoで配信され人気となり、現在シーズン3まで作られているウェブドラマ「Mirzapur」(2018年~)シリーズの映画化である。インドでは、いったんウェブドラマとして配信された作品が再編集され、「The Movie」などと称して「映画」として再公開されることがあるが、この「Mirzapur: The Movie」は、オリジナルのキャストの大半が再結集し、新たに映画として撮り直された作品である。

 監督は「Mirzapur」シリーズで多くのエピソードを担当したグルミート・スィン。キャストは、パンカジ・トリパーティー、アリー・ファザル、ディヴィエーンドゥ、ジテーンドラ・クマール、ラヴィ・キシャン、スシャーント・スィン、アビシェーク・バナルジー、ラスィカー・ドゥッガル、シュエーター・トリパーティー、シュリヤー・ピルガーオンカル、ハルシター・ガウル、モーヒト・マリク、シーバー・チャッダー、ラージェーシュ・タイラング、クルブーシャン・カルバンダー、シャージー・チャウダリー、アンジュム・シャルマー、ソーナール・チャウハーン、アナングシャー・ビシュワース、サテーンドラ・ソーニー、ニティン・マヘーシュ、プラシャンサー・シャルマー、プリヤーンシュ・パインユリ、パーリトーシュ・サンド、メーグナー・マリク、マヌ・リシ、マヌジ・シャルマー、シュブラジョーティ・バラート、プラモード・パータクなどである。

 ただし、主要キャストの中で、ウェブドラマの配役と一致していないのは、パンディト家の次男バブルーだ。ウェブドラマではヴィクラーント・マシーが演じていたが、映画版ではジテーンドラ・クマールに交代している。その一方で、ラヴィ・キシャンなど、映画版のオリジナルキャラを演じる俳優が新たに起用されている。

 舞台はウッタル・プラデーシュ州ミルザープル。正義の弁護士ラマーカーント・パンディト(ラージェーシュ・タイラング)と妻ヴァスダー(シーバー・チャッダー)の息子グッドゥー(アリー・ファザル)とバブルー(ジテーンドラ・クマール)は、ミルザープルのバーフバリ(頭領)、アカンダーナンド・トリパーティー(パンカジ・トリパーティー)の側近になる。だが、アカンダーナンドの息子ムンナー(ディヴィエーンドゥ)は彼らに後継者の座を奪われるのではないかと恐れ、特にグッドゥーを敵視していた。しかも、ムンナーが片思いしていたスウィーティー・グプター(シュリヤー・ピルガーオンカル)はムンナーの恋人だった。また、バブルーはスウィーティーの妹ゴールー(シュエーター・トリパーティー)と仲が良かった。

 ジャウンプルのバーフバリ、ラティシャンカル・シュクラー(シュブラジョーティ・バラート)はミルザープルの王座を狙っており、スーリヤプラタープ・ヤーダヴ州首相(パーリトーシュ・サンド)の弟JPヤーダヴ(プラモード・パータク)と結託して、アカンダーナンドを追い落とそうとしていた。

 一方、ラージャスターン州ジャイサルメールでは、JPの従兄弟バッバン・ヤーダヴ(ラヴィ・キシャン)が大量の阿片の買い手を探していた。バッバンはウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウーでJPと会い、ラティシャンカルを紹介される。バッバンはミルザープルの支配権を望んでおり、ラティシャンカルと密約を交わす。バッバンはグッドゥーとバブルーを通してアカンダーナンドと会い、阿片の取引をする。グッドゥーとバブルーはジャイサルメールまで行って阿片の質を確かめるが、同時に、バッバンが所有している阿片は、ジャイサルメールのバーフバリ、バイラヴ・スィン・カルナーワト(スシャーント・スィン)から奪ったものであることも突き止める。

 また、アカンダーナンドの妻ビーナー(ラスィカー・ドゥッガル)は、かつての恋人ビルジュー・ローハール(モーヒト・マリク)とアカンダーナンド暗殺の計画を立てていた。ビルジューはバッバンの側近になっていた。アカンダーナンドを殺すためには、彼をミルザープルの外におびき出さなければならなかった。

 アカンダーナンドは、バッバンとの取引をまとめるため、ムンナー、グッドゥー、バブルー、護衛のマクブール(シャージー・チャウダリー)などを連れてジャイサルメールへ向かう。ムンナーは、この機会にグッドゥーを殺そうとするが、アカンダーナンドがバッバンに誘拐されたことを知り、グッドゥーと手を結ぶことにする。ムンナー、グッドゥー、バブルー、マクブールはバッバンの手下たちを倒し、アカンダーナンド救出に向かう。アカンダーナンドはビルジューに殺されそうになるが、ムンナーたちに助け出される。最後にバッバンはアカンダーナンドの目の前でグッドゥーに殺される。

 ビルジューは生きており、ミルザープルに来てアカンダーナンドを殺そうとするが失敗し、ビーナーの手によって殺される。

 既にシーズン3まで配信されている「Mirzapur」シリーズをどのように映画化するのか関心があったが、いってみればこの「Mirzapur: The Movie」は「Mirzapur」シーズン1のパラレルワールドになっていた。「Mirzapur」シリーズでは、「Game of Thrones」(2011-19年)よろしく、スウィーティーやバブルーなど、主要キャラが次々に死んでいき、それがセンセーションにもなっていたのだが、「Mirzapur: The Movie」では彼らがまだ生きている時代から物語が始まる。そして、キャラクターはそのままに、ウェブドラマとは異なった展開が描かれる。「Mirzapur」を鑑賞済みのファンが対象の「if」ストーリーといえる。特に、ウェブドラマでは犬猿の仲だったムンナー、グッドゥー、バブルーがもし手を結んでいたらどうなっていたかが映画において描かれているのが熱い。

 さらなるファンサービスとして、映画版の本筋にはほとんど絡んでこないキャラがゲスト出演している。たとえばプリヤーンシュ・パインユリ演じるロビンは、ウェブドラマではシーズン2からの出演で、本来なら「Mirzapur: The Movie」に登場するのはおかしいのだが、人気キャラの一人であり、一瞬だけ顔を出して決めゼリフ「Yeh Bhi Theek Hai(これでもいっか)」とつぶやいている。

 このように、「Mirzapur: The Movie」は、完全にウェブドラマ「Mirzapur」を下敷きにして作られた映画だ。日本でよく見られるTVドラマの映画化と全く同じ手法を採っている。このような作り方をしているインド映画は非常に珍しい。しかも、興行的に成功した。今後、二匹目のどじょうを狙って、一定の知名度のあるウェブドラマの映画化が続く可能性がある。

 ただ、ウェブドラマが映画化されたからといって、「Mirzapur: The Movie」が普通の映画並のスケールと深みを獲得していたかというと、そういうわけでもなかった。映画とウェブドラマの脚本を同じだと勘違いしているのか、所々で物語の進め方が安易すぎるように感じられるところがあった。そもそも、登場人物の詳しい紹介がほとんどされずに物語が始まっていた。おそらくウェブドラマを鑑賞済みであることを前提としているのだろう。それ以外にも、ウェブドラマの内容をなぞるようなシーンが多く、それらが必ずしも本筋と関係してこないので、物語をぼやけさせてしまっていた。その癖、本筋は単純かつ一直線である。この手のギャング映画では、もっと複雑な人間関係や因果関係が求められるものだが、「Mirzapur: The Movie」のストーリーは薄っぺらく感じられてならなかった。

 俳優たちも、ウェブドラマで培った各キャラのイメージを壊さないように気を遣って演技をしていたように感じた。パンカジ・トリパーティーのアカンダーナンド、アリー・ファザルのグッドゥー、ディヴィエーンドゥのムンナーなど、期待通りなのだが、それはつまりウェブドラマ通りということで、期待の上を行くようなものではなかった。もしかしたら俳優にとっては、ウェブドラマが映画化された作品で演技するのは制約が多くて難しいのかもしれない。

 「Mirzapur: The Movie」は、独立したひとつの作品というよりは、ウェブドラマ「Mirzapur」のファンのために作られた、同人誌的な世界観の映画だ。ウェブドラマの並行世界であり、拡張世界でもある。インド映画業界でこの種の映画が作られるのは極めて稀であり、その点では非常に興味深いのだが、「Mirzapur」あっての「Mirzapur: The Movie」であるという特徴はこの映画の純粋な評価を難しくする。