
2007年3月30日公開の「Delhii Heights」は、デリーのゲーテッド・コミュニティーに住む住民たちの悲喜こもごもをつづった群像劇である。題名は直訳すれば「デリー高原」になるが、劇中に登場する架空のゲーテッド・コミュニティーの名称である。デリーで集中的にロケが行われており、デリーっ子の自尊心をくすぐるような内容の作品だ。
監督は新人のアーナンド・クマール。作詞作曲は大ヒット曲「Bullah Ki Jaana」(2004年)で知られるスィク教徒ギタリストのラッビー・シェールギル。キャストは、ジミー・シェールギル、ネーハー・ドゥーピヤー、オーム・プリー、ローヒト・ロイ、ヴィヴェーク・シャウク、シモン・スィン、カーミニー・カンナー、アルン・ターパル、サークシー・グラーティーなど。また、Rマーダヴァンが本人役で特別出演している他、「Tere Bin」ではラッビー・シェールギルが登場して歌を歌う。
映画公開時にはデリーに住んでいたが見逃しており、2026年10月27日に鑑賞してこのレビューを書いている。
デリーのゲーテッド・コミュニティー「デリー・ハイツ」に住むアビール(ジミー・シェールギル)は大手企業のマーケティング担当だったが、ライバル企業のマーケティング担当スハーナー(ネーハー・ドゥーピヤー)と結婚する。デリー・ハイツには、サーイマー(シモン・スィン)という妻がありながら浮気ばかりしているボビー(ローヒト・ロイ)、世話好きな老人ティミー(オーム・プリー)、クリケット賭博の胴元ラッキー(ヴィヴェーク・シャウク)などが住んでおり、和気あいあいと暮らしていた。
アビールはムンバイーに出張し、Rマーダヴァン(本人)とブランドアンバサダーの契約を結ぼうとする。だが、Rマーダヴァンが契約を結んだのはスハーナーの方だった。それを知ったアビールはスハーナーに情報を盗まれたと怒り、彼女を無視するようになる。スハーナーは誤解を解こうとするが会話することもできず、とうとう彼女は実家に帰ってしまう。一方、浮気ばかりしていたボビーは交通事故をきっかけにサーイマーと仲直りし、忠実な夫になる。
一人になったアビールは孤独になり、スハーナーを恋しがるようになる。ティミーにも後押しされ、彼はスハーナーの実家まで行き、スハーナーに謝る。スハーナーもアビールを受け入れる。
劇中ではデリーのランドマークや地名が映像またはセリフの中でいくつも登場する。インド門、ラージパト、コンノートプレイス、ラクシュミー・ナーラーヤン寺院、パハールガンジ、ダリヤーガンジ、ナイーサラク、プラーナーキラー、パンダーラー・ロード、サーケート、PVRプリヤー、ヴァサントクンジなどである。デリー・ハイツの位置は特定されていないが、2000年代のデリーで過ごした経験から、このゲーテッド・コミュニティーが南デリーのヴァサントヴィハールやヴァサントクンジ辺りにあることが予想できる。
「Delhii Heights」は、デリー・ハイツを舞台に、そこに住む人々の人生模様を同時並行的に映し出した、いわゆる「グランド・ホテル」(1932年)スタイルの物語である。ただ、主人公ははっきりしている。ジミー・シェールギル演じるアビールと、ネーハー・ドゥーピヤー演じるスハーナーだ。アビールは元々デリー・ハイツに一人で住んでおり、スハーナーと結婚して彼女を家に迎え入れた。アビールとスハーナーは、ライバル企業で働くマーケターという代わった設定だった。彼らの働く企業は、コカコーラボトラーズやペプシコをモデルにしたソフトドリンク製造会社だと思われる。
アビールとスハーナーはラブラブな新婚生活を始めるが、ライバル企業で同じ業種の仕事をしていることが障害になり、ビジネス上の対立が家庭まで持ち込まれてしまう。アビールはスハーナーに出し抜かれたと感じて彼女を避けるようになり、スハーナーは実家に帰ってしまう。だが、アビールが素直に謝ったことで二人はよりを戻す。
アビールとスハーナーのこの関係変化と同時並行的に、浮気性のボビーが妻サーイマーの元に落ち着く過程、ティミーの娘スウィーティーの結婚式、クリケット賭博胴元ラッキーの逮捕、そしてデリー・ハイツに住む若者たちの陽気なやり取りなどが描かれる。何か極端な出来事が起こるわけでもなく、日常生活のちょっとした事件が取り上げられ、それが一応の解決を見ることで何となく安心するという流れで映画ができている。典型的な「フィールグッド映画」である。
2000年代にはデリー出身またはデリーで教育を受けた映画人材がムンバイーの最前線で映画を作るようになり、にわかにデリーがブームになっていた。「Delhii Heights」からも、デリーをムンバイーに比肩する映画都市にしようという意気込みがチラチラと感じられた。ただ、本作でデビューとなるアーナンド・クマール監督からは素人臭さが抜け切れておらず、映像の未熟さやテンポの悪さを随所に感じた。いくつか差し挟まれるダンスシーンも見よう見まねで作っているような印象を受けた。
「Delhii Heights」は、ヒンディー語映画の中でデリーのプレゼンスが高まっていた時代を象徴する、オールデリーロケの「グランド・ホテル」型映画である。「フィールグッド映画」を標榜しているだけあって、刺激的な出来事は起こらず、後味はいいが、物足りなさも感じる。デリー愛がほとばしっているため、デリーっ子にとっては自尊心をくすぐられる場面もあるが、映画自体の完成度は高くない。
