
今年に入り、韓国ロケのタミル語映画「Made in Korea」(2026年)、日本ロケのヒンディー語映画「Ek Din」(2026年)が続いたが、2026年8月7日公開の「Korean Kanakaraju」は、韓国ロケのテルグ語映画である。テルグ語映画が韓国をどう料理するのか興味があったが、徹底した娯楽主義を貫くテルグ語映画らしく、アクションとコメディーとホラーが合体したマサーラー映画に仕上がっていた。
監督はメールラパーカ・ガーンディー。音楽はタマン・S。主演は「Operation Valentine」(2024年)のヴァルン・テージ。ヒロインは「Mirai: Super Yodha」(2025年/邦題:Mirai 運命の戦士)に出演のリティカー・ナーイク。
他に、サティヤ、シュリーニーヴァース・アヴァサラーラ、ムラリーダル・ゴウド、チンナー、トゥラスィー、スニール、テンパー・ヴァームスィー、VTVガネーシュなどが出演している。
アーンドラ・プラデーシュ州アナンタプル県のペヌコンダに住むカナカラージュ(ヴァルン・テージ)は、シンガポールで起業し、事業に失敗した兄プリトヴィーラージュ(シュリーニヴァース・アヴァサラーラ)に送金し続ける兄思いの弟だった。プリトヴィーラージュは渡航前に、地元マフィアのボスで政治家でもあるチェンガ・レッディー(スニール)から金を借りており、手下のカッリ・シュリーヌ(テンパー・ヴァームスィー)はカナカラージュを脅迫するが、腕っ節の強いカナカラージュは公衆の面前でシュリーヌの片耳を切り落とす。カナカラージュはチェンガの一味から命を狙われるが、彼は酒場に置いてあった謎の壺に酒を入れて飲み干した。その壺は韓国から流れ流れてペヌコンダにやって来たもので、チョ・サンウという人物の遺灰が入っていた。
遺灰を飲んで以来、カナカラージュは時々変貌し、目を青く光らせて無敵の力を発揮した。シュリーヌは惨殺され、レッディーは全身の骨を粉々に砕かれる。覚醒中のカナカラージュは韓国語も話した。カナカラージュが言い寄っていたチャイトラー(リティカー・ナーイク)は韓国かぶれの女の子で、韓国企業起亜インド支社に務めており、韓国語も話せたため、覚醒中のカナカラージュの通訳になった。また、カナカラージュの親友キシュタッパー(サティヤ)の父親は霊媒師で、彼らに助言を与える。カナカラージュにはチョの亡霊が憑依してしまっており、あと10日以内に追い払わないと彼の身体を完全に乗っ取ってしまうという。チョの亡霊によると、妻と子どもの顔を一目見たら成仏するという。元々チャイトラーは韓国に半年間赴任する予定だったため、彼女と共にカナカラージュとキシュタッパーも韓国へ行くことになった。
済州島に着いた三人は早速チョの家族を探し、その中でボラと出会う。ボラは悪党に追われていたが、カナカラージュが覚醒して彼を助ける。そして左手の中指を切り落とし、自分はマフィアのドン「フォー・フィンガーズ」だと名乗る。ボラは生前のフォー・フィンガーズの部下だった。フォー・フィンガーズは元々、カナカラージュの身体を明け渡すつもりなどなかった。彼は元部下たちを再結集し、自分のマフィアを再起する。また、彼は自分を殺した暗殺者の特定を部下に命じる。キシュタッパーとチャイトラーはフォー・フィンガーズの家に滞在しながら、カナカラージュを救う方法を模索する。
時々カナカラージュの意識が戻ることがあった。チャイトラーは、彼が興奮するとフォー・フィンガーズ化し、落ち着くとカナカラージュに戻ることを発見する。キシュタッパーとチャイトラーはなるべく彼を興奮させないようにする。また、フォー・フィンガーズの家では、韓国でインド料理レストランを開業していたテルグ人ディワーカル(VTVガネーシュ)の息子ガージュボンマが窓拭きをさせられていて、キシュタッパーやチャイトラーと知り合う。
フォー・フィンガーズの暗殺者が特定された。なんとそれは、カナカラージュの兄プリトヴィーラージュであった。ボラたちがプリトヴィーラージュを見つける前にカナカラージュたちはプリトヴィーラージを探し出す。だが、カナカラージュはフォー・フィンガーズ化してしまい、プリトヴィーラージュを刺す。プリトヴィーラージュは病院に搬送される。彼は、シンガポールから韓国に渡り幸せに暮らしていたが、フォー・フィンガーズに妻を殺され、復讐の権化になったのだった。また、フォー・フィンガーズの妻がその暗殺に関与していたことも分かる。
キシュタッパーの父親が韓国までやって来て、カナカラージュの身体からフォー・フィンガーズの亡霊を追い出す儀式をする。カナカラージュはいったん死に、フォー・フィンガーズの亡霊が飛び出すが、それは現世に留まり続けた。だが、カナカラージュの亡霊も現れ、フォー・フィンガーズの亡霊と戦う。カーラ・バイラヴァ神の力を得たカナカラージュの亡霊はフォー・フィンガーズの亡霊を圧倒し、消滅させる。
インドに戻ったカナカラージュは、今度はケニア大統領の遺灰を飲んでしまう。
殺された韓国人マフィアのドン「フォー・フィンガーズ」の遺灰を入れた壺がさまざまな人々の手を渡りながらアーンドラ・プラデーシュ州までたどり着き、その遺灰を主人公カナカラージュが酒と一緒に飲み干してしまったことで、その亡霊が彼の身体に憑依するという導入部であった。そして、その亡霊を追い払うために彼は韓国に渡ることになる。ただし、当初はその亡霊がマフィアのドンのものという情報は隠されており、成仏する前に妻と子の顔が見たいという願いだけが知らされていたため、ハートフルなドラマになりそうな予感がしていた。それを急転直下アクション映画に転換してしまうところにテルグ語映画の矜持を感じた。カナカラージュたちが韓国に渡った直後くらいまではとても楽しく鑑賞していた。
ただ、カナカラージュがフォー・フィンガーズ化すると、バランスが崩れてしまう。その大きな原因はヒロインのチャイトラーにある。ペヌコンダにいる間の彼女は、カナカラージュの意中の人であり、映画の中心にいた。登場するインド人の中で韓国語が話せるのは彼女だけなので、カナカラージュが憑依された後も存在感があった。だが、韓国に渡った後の彼女は、フォー・フィンガーズに怯えるばかりの哀れな子羊に成り下がり、ほとんど出番がなくなってしまう。唯一、カナカラージュを落ち着かせるために彼にキスをする役だけが与えられる。強烈な男性スター中心主義を保持するテルグ語映画にはありがちなのだが、この「Korean Kanakaraju」でもヒロインはほぼ使い捨てだった。
フォー・フィンガーズを暗殺した張本人がカナカラージュの兄プリトヴィーラージュだったというのもあまりに極端すぎる偶然で、物語の信憑性を低める。驚きの展開ではあったが、こういう荒唐無稽なサプライズは期待していなかった。韓国人マフィアの間で収めておいてほしかった。
もっともガッカリしたのはクライマックスだ。カナカラージュの亡霊とフォー・フィンガーズの亡霊のバトルが繰り広げられるのだが、ほぼCGで済まされていた。CGを使うことに異義はないが、CGだけでクライマックスを演出されると盛り下がってしまう。かつてド派手なCGの使用は金が掛かっているように見えたが、生成AIが異常な発展をした現在では、CGでまとめられるともはや安っぽさを感じてしまう。韓国ロケまでして最後はCGというのはあまりにお粗末である。
インドにおいては映画が強力な観光プロモーションのツールになることは「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年/邦題:人生は二度とない)などで既に証明されている。果たして「Korean Kanakaraju」にインド人観光客を韓国に誘致する力があるかどうかということも気になるところだ。「韓国のハワイ」と称される済州島でのロケの裏には、インド人観光客を済州島に呼び込もうという魂胆が見え隠れする。ただ、テルグ語映画らしく娯楽に全振りしているため、韓国の文化や観光地の魅力が分かるような作りにはなっていなかった。その点では、さっぽろ雪まつりに合わせて北海道ロケが敢行された「Ek Din」の方が勝っている。
主題が主題なだけに、セリフにはかなりの頻度で韓国語が入る。フォー・フィンガーズは基本的に韓国語を話すし、チャイトラーもたまに韓国語をつぶやく。序盤のダンスシーン「Kamsahamnida」では、韓国語で「ありがとう」を意味する「カムサハムニダ」がサビになっている。
「Korean Kanakaraju」は、韓国ロケのテルグ語映画ということで、日本人もつい興味を引かれてしまう作品だ。テルグ語映画らしく、思いっきり娯楽路線で韓国を料理してきたが、それが行き過ぎて、舞台が韓国でなくても成立するような物語になってしまっていた。興行的にも失敗している。それでも、インドと韓国が気になる人には面白い映画になるだろう。
