
2026年6月26日からNetflixで配信開始された「Baahubali: The Toachbearer」は、国内外で大ヒットし、インド映画史の分水嶺となった傑作テルグ語エピック映画「Baahubali」シリーズ(The Beginning/2015年/邦題:バーフバリ 伝説誕生・The Conclusion/2017年/邦題:バーフバリ 王の凱旋)のBTS(Behind The Scene)ドキュメンタリーである。日本では配信されていない。SSラージャマウリ監督や主演プラバースなどが「Baahubali: The Beginning」公開10周年を祝う形でインタビューに答えている映像と、「Baahubali」シリーズ撮影中のBTS映像から主に構成されている。言語は英語、テルグ語、ヒンディー語などが使われている。
「Baahubali: The Toachbearer」は以下の4つの短いエピソードから成っている。
- The Dream(29分)
- Building the Dream(38分)
- Beyond Dreams(23分)
- The Toachbearer(33分)
監督は明示されていない。内容は面白かったが、構成や編集などはあまりうまくないと感じた。
インタビュー映像に出演している俳優は、プラバース、ラミヤー・クリシュナン、アヌシュカー・シェッティー、タマンナー・バーティヤー、ラーナー・ダッグバーティ、ナーサル、サティヤラージ、スッバラージュなどである。また、監督のSSラージャマウリ、脚本家のKVヴィジャエーンドラ・プラサード、作曲家のキーラヴァーニなども出演している。
4話を合計すると2時間強のドキュメンタリー映画になるが、中心的な話題になっているのは資金の話だ。ラージャマウリ監督に加えて、「Baahubali」シリーズを製作した映画製作会社アルカ・メディアワークスのショーブ・ヤーララガッダとプラサード・デーヴィネーニが、いかに資金繰りに苦労したかを長々と語る。何しろ、「Baahubali」シリーズ以前のテルグ語映画史で、これほど巨額の予算を費やした映画は存在しなかったのである。当初は1本の作品として企画されていたが、途中で2部作になり、それぞれに20億ルピー以上の予算が掛かった。狂気の沙汰であった。
テルグ語圏だけでは資金回収が難しそうだったため、ヒンディー語圏での公開も模索した。全面的に協力したのがヒンディー語映画界の重鎮カラン・ジョーハルである。従来、南インド映画のヒンディー語版がヒンディー語圏で公開された事例はいくつかあったが、著名な監督やスターの作品に限られており、散発的な試みで終わっていた。「Baahubali」シリーズは、ヒンディー語映画界の支援を受け、システマティックにヒンディー語版が配給された初の作品だったといえる。この点でもエポックメイキングだった。「汎インド映画」という用語は「Baahubali」シリーズから始まった。
今でこそ押しも押されもしない傑作の評価を得ている「Baahubali」シリーズであるが、実は第1部「Baahubali: The Beginning」は公開初日、テルグ語圏で評判が良くなかった。これは、別のNetflixのドキュメンタリー映画「Modern Masters: S.S. Rajamouli」(2024年/邦題:モダン・マスターズ:S・S・ラージャマウリ)でも述べられていたことだ。むしろ実験的に公開されたヒンディー語圏の方で公開初日から熱狂的に支持されるという逆転現象が起こっていた。その後、テルグ語圏でも好意的な反応が主流になり、大ヒットになった。おそらく、テルグ語圏の観客はラージャマウリ監督やプラバースに対して保守的な期待をしており、「Baahubali: The Beginning」があまりに期待と違いすぎて、どう反応していいか分からなかったのだと思われる。バーフバリを殺したのがカッタッパだと判明した場面で第1部が終わったのも、テルグ語圏の観客にはもどかしく感じられたのではなかろうか。その点、ヒンディー語圏の観客はまっさらな気持ちでこの作品を鑑賞でき、素直な高評価につながったのだろう。
「Baahubali: The Beginning」が成功したことで、第2部「Baahubali: The Conclusion」の資金繰りは格段に容易になった。「Why did Kattappa Killed Baahubali?(WKKB)」はモーディー首相の好奇心すらもくすぐったほど国民的な問いとなり、第2部への期待を何倍にも増幅した。もちろん、「Baahubali」チームのメンバーはその答えを知っていたが、特に戒厳令を敷かなくてもその秘密が漏れることは不思議なほどなかったという。また、製作秘話で語られていたところでは、「Baahubali」シリーズ全体のストーリーの中で、最初にラージャマウリ監督が思い付いたのも、カッタッパがバーフバリを殺すシーンだったという。やはりあの衝撃的なシーンが「Baahubali」シリーズの核心であり、出発点だったのである。
また、「Baahubali」シリーズ以前のインド映画に2部構成の作品がなかったことはないのだが、「Baahubali」シリーズが成功し、その手法を確立したことで、インド各地の映画界で複数部構成の映画が盛んに作られるようになった。
日本人としてうれしいのは、「Baahubali」シリーズの国際的な成功の文脈で、ラージャマウリ監督、プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、スッバラージュなどが日本について深い愛情をもって語ってくれていることだ。彼らは「Baahubali」シリーズが日本で熱狂的に受け容れられたことを大変喜んでおり、日本を「第二の故郷」とまで呼んでいる。プラバースは「Baahubali: The Epic」(2025年/邦題:バーフバリ エピック4K)が日本で公開されたときに初来日しているが、インタビュー映像はその後に撮影されたもののようで、彼の来日時の映像もふんだんに使われている。
既に「Baahubali」シリーズがアニメになって新展開されることは公表済みである。それは「Baahubali: The Eternal War」と題されている。ドキュメンタリー映画の中でこのアニメ作品についての直接の言及はなかったのだが、最後にプラバースは「Baahubali 3」があるようなことを口走っていた。もしかしたら「Baahubali: The Eternal War」のことなのかもしれないが、それとは別に裏でとんでもないサプライズが進行中なのかもしれない。ただ、ラージャマウリ監督は現在、2027年公開予定の「Varanasi」に専念しているはずであり、もし本当に「Baahubali 3」があるとしても、その後になるだろう。
