
2026年4月15日からNetflixで配信開始の「Toaster」は、1台の何の変哲もないトースターが引き起こす奇想天外な騒動を描いたブラックコメディー風味のサスペンス映画である。日本語字幕付きで配信されており、邦題は「トースター」になっている。
監督はヴィヴェーク・ダースチャウダリー。どういう人物なのか全く情報がない。音楽はアマン・パント。主演はラージクマール・ラーオとサーニヤー・マロートラー。他に、アルチャナー・プーラン・スィン、ウペーンドラ・リマエー、スィーマー・パーワー、ファラー・カーン、アビシェーク・バナルジー、ジテーンドラ・ジョーシー、ヴィノード・ラーワト、カルムヴィール・チャウダリーなどが出演している。また、プラティーク・ガーンディーがカメオ出演している。
舞台はムンバイー。香水売りのケチ男ラマーカーント(ラージクマール・ラーオ)は、妻のシルパー(サーニヤー・マロートラー)と共に、老人の住民の多い集合住宅に賃貸で暮らしていた。大家は便秘に悩む老婦人デスーザ(スィーマー・パーワー)で、ラマーカーントは家賃を安くしてもらおうとデスーザにゴマをすっていた。デスーザの息子グレン(アビシェーク・バナルジー)はドラッグ中毒で、遊び歩いていた。
シルパーが空手を師事している師匠(カルムヴィール・チャウダリー)の娘が結婚することになった。シルパーはラマーカーントの反対を押し切ってギフトとして4999ルピーのトースターを購入し、プレゼントする。だが、新郎に妊娠した恋人がいることが発覚し、結婚が中止になる。ラマーカーントはトースターを取り戻して返品しようと躍起になる。だが、師匠の家族はトースターを孤児院に寄付してしまっていた。そこでラマーカーントは孤児院まで行ってトースターの返却を求めるが、院長(ファラー・カーン)は拒絶する。そこでラマーカーントは夜中に孤児院に忍び込んでトースターを盗み出す。
翌朝、警察がラマーカーントの家を訪ねてきて家宅捜索をするがトースターは出て来なかった。トースターはデスーザの家に預けられていた。グレンは、政治家アマル・アームレー(ジテーンドラ・ジョーシー)のセックスビデオを盗撮してSDカードに記録し、彼を脅していた。そのSDカードをそのトースターの中に隠した。その晩、デスーザは息を引き取り、葬儀が行われる。ラマーカーントはトースターを取り戻そうとするが、グレンもその中にSDカードを隠していたため、渡そうとしない。そこでラマーカーントは夜中にデスーザの家に忍び込みトースターを盗み出そうとする。グレンに見つかってしまうが、彼はラリっていて、トースターを奪い合っている内にベランダから落ちて死んでしまう。
アームレーの息の掛った警察官バールガーオデー(ウペーンドラ・リマエー)はデスーザの家を捜索するが、彼のセックスビデオは出て来なかった。バールガーオデーは、グレンと会ったときに彼が抱えていたトースターにSDカードが隠されていると直感する。
一方、ラマーカーントの携帯電話には何者かから、彼がグレンをベランダから突き落としている動画が送られてくる。その送り主は同じ集合住宅に住むフェールワーニーおばさん(アルチャナー・プーラン・スィン)だった。フェールワーニーおばさんはラマーカーントに横恋慕しており、これはチャンスと思って、動画を使ってラマーカーントを性の奴隷化する。また、ラマーカーントはトースターをフェールワーニーおばさんにプレゼントした。ラマーカーントは夜な夜なフェールワーニーおばさんの家に呼ばれ奉仕しなければならなくなる。フェールワーニーおばさんは、その動画が記録されたSDカードをトースターの中に隠した。
ラマーカーントは商売相手のグッドゥー(ヴィノード・ラーワト)にフェールワーニーおばさん暗殺を頼む。だが、グッドゥーは返り討ちにされてしまう。ラマーカーントはフェールワーニーおばさんの命令に従い、廃遊園地にグッドゥーの遺体を埋める。
一方、トースターの行方を調べていたバールガーオデーは、それがラマーカーントの元にあることを突き止める。バールガーオデーはラマーカーントを捕まえ、フェールワーニーおばさんの家に行く。だが、バールガーオデーまでもフェールワーニーおばさんに殺されてしまう。再度、ラマーカーントはバールガーオデーの遺体を廃遊園地に埋めようとする。だが、そのときラマーカーントの行動を怪しんだシルパーが尾行してきてラマーカーントとフェールワーニーおばさんの前に現れる。さらに、バールガーオデーが目を覚まし、拳銃で彼らを脅す。フェールワーニーおばさんは遺体と一緒にトースターを埋めようとしており、その場にあった。トースターの中から2枚のSDカードが出て来る。
混乱の中でバールガーオデーはフェールワーニーおばさんに殺され、フェールワーニーおばさんもラマーカーントとシルパーに襲い掛かった勢いで高所から落下し死んでしまう。駆けつけたアームレーはSDカードを飲み込み消滅させる。こうして一件落着となった。
想像の斜め上を行く、意外性のあるストーリー展開が面白いスリラー映画だった。登場人物各人が個性付けされ、常識と外れた行動をするため、話がどんどんこんがらがっていく。その中でも強烈なのは、節約しか頭にない主人公ラマーカーントと、性欲を持てあましている老女フェールワーニーおばさんだが、その他にも犯罪ノンフィクション番組に影響されすぎのシルパーや、孤児をこき使っている孤児院の院長など、それぞれの行動原理に従って行動し、場をかき乱す。しかしながら一番ミステリーなのは、どういう経緯でトースターにこれほど執着して脚本が書き上げられたのかという点かもしれない。
主演のラージクマール・ラーオは、今やアウトサイダー組出身の星と呼んでもいいくらい成功を収めており、「Maalik」(2025年)のように硬派な役柄も任されるようになっている。だが、彼の持ち味はデビュー時の「Love Sex Aur Dhokha」(2010年)などから一貫して、気弱でズルくて情けない男の役だ。「Toaster」でも、ドが付くほどケチな臆病者を演じており、しかもそのオドオド振りが本当にうまい。ずっと見ていたくなる演技である。この映画のコメディー要素の大半を担っていたのも彼だった。
相手役のサーニヤー・マロートラーも、多少エキセントリックなところがありながらもしっかり夫の手綱を握る妻の役をパワフルに演じていた。空手の黒帯ということで、戦闘シーンにも期待したが、大したことはなかった。腰抜けのラマーカーントを守ろうとする強い女性を体現していたともいえるが、女性中心映画でもないので、そういう部分はあえて抑えられていたように感じた。
身体を張っていたのは年配の女優たちだ。スィーマー・パーワーは、慢性的な便秘に悩まされる老女の役であり、しかも大便中に事切れるという、あまり上品とはいえない最期を迎える。アルチャナー・プーラン・スィンに至っては、性欲オバケの老女役であり、ラマーカーントを性の奴隷にしてしまう。これらのキャラクターが暴走していたため、全体のバランスを欠くほどであった。
「Toaster」は、世界市場をにらみながらインド市場もガッチリと押さえたいNetflixらしい、きれいにまとまったサスペンス映画である。キャスティングに成功しており、意外性のある脚本も良かった。ただ、パンチ力が足りない。一般的なインド製サスペンス映画に比べると小さくまとまり過ぎているように感じる。観て楽しくないことはないが、わざわざインド映画として観たいという種類の作品ではなく、かえって国際的なアピールには乏しくなっていると感じる。
