若年性脱毛症を主題としたヒンディー語映画としては、アーユシュマーン・クラーナー主演の「Bala」(2019年)が有名だが、その2週間前の2019年11月1日に公開された「Ujda Chaman(荒れた花畑)」も同様の主題の映画であった。主題が似ているだけでなく、映画が最終的に主張するメッセージも共通している。また、両方とも秀逸な作品であり、比較して鑑賞するのは面白い。ちなみに、「Ujda Chaman」はカンナダ語映画「Ondu Motteya Kathe」(2017年)のリメイクである。
「Ujda Chaman」の監督はアビシェーク・パータク。主演は「Sonu Ke Titu Ki Sweety」(2018年)などのサニー・スィンと「No One Killed Jessica」(2011年)などのマーンヴィー・ガグルー。他に、サウラブ・シュクラー、カリシュマー・シャルマー、アイシュワリヤー・サクージャーなどが出演している。
デリー大学でヒンディー語を教えるチャマン・コーリー(サニー・スィン)は30歳独身で、50回もお見合いに失敗していた。その理由は祖父から受け継いだ若禿にあった。生徒たちからも「ハゲ」とからかわれる始末だった。大学1年生のアーイナー(カリシュマー・シャルマー)に言い寄られて有頂天になったこともあったが、彼女は単位欲しさにチャマンに接近していただけで、テストが終わると振られてしまった。 チャマンは出会い系アプリTinderを使い、女性と出会おうとする。ところが、マッチングした相手、アプサラー・バトラー(マーンヴィー・ガグルー)はプロフィール写真を偽っており、会ってみるとかなり太った女性だった。チャマンは自分のことは棚に上げて彼女との結婚は絶対に有り得ないと考えるが、彼女をスクーターで送って行くときに転んで事故に遭ってしまい、二人で入院することになる。そこでコーリー家とバトラー家が意気投合してしまい、二人の縁談が急速に進み始める。アプサラーも本気になるが、チャマンはどうしてもアプサラーの見た目が気に入らなかった。婚約式の日にチャマンはアプサラーを拒絶する。
「Bala」では、若禿に悩む男性と肌の黒い女性の恋愛が描かれていたが、「Ujda Chaman」では、若禿に悩む男性と太った女性の恋愛が描かれていた。また、男性の方は自分のコンプレックスにクヨクヨしているが、女性の方は自分のコンプレックスを基本的に受け入れていることも共通していた。さらに、自分の外見のコンプレックスを隠して生きるのではなく、堂々と受け入れて生きることこそが大事であるというメッセージも2つの映画に共通するものであった。
「Ujda Chaman」の主人公チャマンは、最終的な達観に辿り着くまでに紆余曲折を経る。その中には、芥川龍之介の「鼻」のようなエピソードも含まれる。ハゲを隠すためにカツラをかぶって大学に現れたら、余計に学生たちから笑われたのである。また、彼が、誰かを愛するということは、相手の弱点をも愛することだと気付くきっかけとなったのは、大学で働く小間使いの男性ラージ・クマールだった。講師を務めるチャマンに比べたら目下の身分であったが、彼は既婚で妻との仲も良く、チャマンはその秘密を知りたがっていた。ある日、チャマンがラージ・クマールの家に招待されて行ってみると、彼の妻が言葉をしゃべれないことを知る。ラージ・クマールは、彼女のそういう障害をも受け入れ、愛していた。チャマンは二人の関係に感動し、アプサラーを受け入れる気持ちになる。
また、アプサラーも非常に性格のいい女性であった。チャマンから婚約式の日に破棄を突き付けられても、彼に恨みを言ったりすることもしない。逆に、チャマンに、自分を受け入れて生きることを助言する。アプサラーも、過去に自分の体型を理由に彼氏の両親から拒絶されたことがあった。チャマンの両親は彼女を心から受け入れてくれたため、チャマンとの結婚に乗り気になったのだった。
「Bala」もとてもいい映画であったが、「Ujda Chaman」もそれに負けず劣らずいい映画で、甲乙付けがたい。太った女性が主人公という点では、「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)や「Fanney Khan」(2018年)との比較もできるだろう。
チャマンは若禿という点でもからかわれていたが、それに加えて、ヒンディー語講師という職業でも偏見を持たれていた。インドの教育セクターでは理数系の方が優越していることに加え、英語のステータスが高く、ヒンディー語を含む現地語の学問や教科は蔑ろにされがちだ。ヒンディー語の講師は「退屈」と評価をされていた。この点は特に解決されずにエンディングを迎えた。
デリーが舞台であり、フマーユーン廟、ハウズ・カース、ディッリー・ハートなど、元デリー在住者としては懐かしいロケ地がいくつも出てきた。大学のシーンでは、デリー大学のハンスラージ・カレッジでロケが行われていたようであった。
「Ujda Chaman」は、「Bala」と同じく、若年性脱毛症に悩む男性を主人公にした、外見コンプレックス克服の物語であり、コメディータッチでコンパクトにまとめられている。キャスティングにスター性は低く、予算的にも低い金額で作られているが、万人の共感を呼ぶ感動作であり、「Bala」と合わせての鑑賞を強くオススメする。