ヒンディー語映画界では、過去にリリースされた映画と同じ名前の映画を作ることにあまり抵抗がないようである。「Hera Pheri」(1976年/2000年)、「Golmaal」(1979年/2006年)、「Dilwale」(1994年/2015年)など、いくつかそのような例がある。「Pati Patni Aur Woh(夫と妻、そしてあの人)」も、1978年に既に公開されているが、2019年12月6日に新しく公開された。リメイクと言っていい内容となっている。その他に、「Main, Meri Patni Aur Woh(僕、僕の妻、そしてあの人)」(2005年)という似たタイトルの映画も過去にあった。
2019年の「Pati Patni Aur Woh」の監督は「Happy Bhag Jayegi」(2016年)のムダッサル・アズィーズ。主演は、カールティク・アーリヤン、ブーミ・ペードネーカル、アナンニャー・パーンデーイの3人である。他に、アパールシャクティ・クラーナー、サニー・スィンなどが出演している。また、クリティ・サノンがカメオ出演し、ジミー・シェールギルがナレーションをしている。
舞台はウッタル・プラデーシュ州の中規模都市カーンプル。インド工科大学(IIT)カーンプル校を卒業し、公共事業局に勤める技術者となったチントゥー(カールティク・アーリヤン)は、塾講師のヴェーディカー(ブーミ・ペードネーカル)と結婚し、3年が過ぎていた。二人の間には子どもがいなかったが、両親からはしきりに子どもを作るように言われており、チントゥーは嫌気が指していた。また、ヴェーディカーはヴェーディカーで、デリーに住みたがっていた。 ある日、仕事の中でチントゥーは、デリーからカーンプルにブティックを開きに来た美女タパスィヤー(アナンニャー・パーンデーイ)と出合う。チントゥーはタパスィヤーにメロメロになってしまい、仕事を名目に彼女とカーンプルの空き地を見て回る。タパスィヤーには既婚であることがばれてしまうが、チントゥーは、妻が浮気をしていると嘘の悩みを打ち明け、同情を買う。タパスィヤーはチントゥーに本気になってしまい、ヴェーディカーと別れさせようとする。 ヴェーディカーはチントゥーが浮気をしていることを知りショックを受ける。実家のあるラクナウーに戻り、妹の結婚式に出るが、そこで昔の恋人ドーガー(サニー・スィン)と再会する。一旦カーンプルに戻ったヴェーディカーは、チントゥーに三行半を突き付け、ドーガーと逃げてしまう。ラクナウーの空港からデリーに飛行機で飛び、そこからカナダへ行く予定であった。チントゥーはラクナウーまでヴェーディカーを追いかける。
まず、やはり最近のヒンディー語映画の強い傾向だが、女性が強い。ブーミ・ペードネーカル演じるヴェーディカーは、お見合いの席でチントゥーに、3年間付き合って来た恋人がいること、そして自分が処女ではないことを自ら堂々と明かす。結婚後、嫁と姑の確執のようなものは描かれない。そして、夫の浮気が明らかになっても、冷静に対処する。一方のチントゥーは終始ドギマギしてばかりで頼りない。また、チントゥーとヴェーディカーの両親も我が強くない。女性が強く、男性が弱い上に、両親すらも弱い。これらの人物設定やストーリーは、2010年代のヒンディー語映画の典型例と言える。
ただ、離婚の危機に陥った夫婦が絆を取り戻し元の鞘に収まるというプロットは、インド人が伝統的に好むものである。結婚を神聖視するインド映画のストーリーには、一旦結婚が成立すると、基本的に元サヤに持って行こうとする強い力が働く。1978年の「Pati Patni Aur Woh」は完全に元サヤの映画だったが、それから40年後に作られた2019年の「Pati Patni Aur Woh」もやっぱり同じ結末であった。
ブーミ・ペードネーカルは演技力のある女優であり、貫禄も十分で、「正妻」の役にピッタリだった。一方のアナンニャー・パーンデーイは若々しく、清純で、かつモデル体型であり、浮気相手として絶妙なチョイスであった。演技力と貫禄では完全にブーミの方が上回っていたが、アナンニャーも着実にキャリアを積んでいると感じた。カールティク・アーリヤンもすっかり人気スターとなっている。チントゥーの友人、アパールシャクティ・クラーナーもいいキャラをしていて好感が持てる。
ちなみに、劇中でチントゥーとタパスィヤーがカーンプルからデリーにドライブに行くシーンがあるが、カーンプルからデリーまではアーグラー経由で8時間は掛かり、気軽にドライブできる距離ではない。また、映画の主な舞台となっているカーンプルからヴェーディカーの実家のあるラクナウーまでは3時間ほどだ。
2019年の「Pati Patni Aur Woh」は、1978年の同名映画のリメイク。今、勢いのある3人の俳優、カールティク・アーリヤン、ブーミ・ペードネーカル、アナンニャー・パーンデーイが初めて共演した映画で、浮気をテーマにした、シンプルで分かりやすいストーリーの映画である。新しい点と変わらない点がどちらも見られ、興味深い構成となっていた。