リティク・ローシャンの登場以降、ヒンディー語映画界でスターを目指す男優たちにとって踊りは必須のスキルとなった。それ以前もダンスで人気を博す男優はいたのだが、ダンスができないと男優になれないという訳でもなかった。だが、ずば抜けた身体能力を誇るリティクの影響で、最近の男優たちはほぼ全員と言っていいほどダンスに磨きを掛けて来ている。その中でもリティクに対抗できるほどしなやかな身体を持っているのがタイガー・シュロフである。「Heropanti」(2014年)でデビューして以来、その身体能力の高さを活かして、アクションとダンスで快進撃を続けている。2017年7月21日公開の「Munna Michael」も、タイガー・シュロフ主演のダンス・アクション映画である。
監督はサービル・カーン。「Heropanti」の監督であり、本作でタイガーとのタッグは3作目となる。ヒロインは新人のニディ・アガルワール。他にナワーズッディーン・スィッディーキー、ローニト・ロイ、パンカジ・トリパーティーなどが出演している。また、歌手のシャーン、振付師のファラー・カーン、女優のチトラーンガダー・スィンがカメオ出演している。
ムンナー(タイガー・シュロフ)は捨て子で、引退したダンサー、マイケル(ローニト・ロイ)に拾われて育てられた。ムンナーは生まれながらのダンサーで、マイケル・ジャクソンを崇拝しながら成長し、優れたダンサーとなった。だが、ディスコでダンスバトルをして金を荒稼ぎする不安定な毎日を送っていた。ムンバイーにいられなくなったムンナーはデリーへ移住する。そこで地上げマフィアのボス、マヘーンドラ(ナワーズッディーン・スィッディーキー)と出合う。 マヘーンドラは、ダンスバーで踊りを踊るドリー(ニディ・アガルワール)に真剣な恋をしていた。彼はドリーの気を引くためにダンスを習おうとしており、ムンナーをコーチとして雇った。すぐに二人は意気投合し、義兄弟の契りを結ぶまでになる。ムンナーはマヘーンドラに代わってドリーにメッセージを伝えたりもしていた。だが、マヘーンドラの弟バッリ(パンカジ・トリパーティー)に嫌がらせを受けたドリーはムンバイーへ逃げ出してしまう。ムンナーはドリーを連れ戻すことを約束し、彼女の後を追う。 ドリーの夢は、ダンス・リアリティー番組「ダンシング・スター」で優勝することだった。ムンナーはダンシング・スターの会場でドリーと再会する。ドリーを見つけたことはマヘーンドラに内緒にし、彼はドリーの夢の実現のために協力することになる。だが、いつまで経っても吉報が送られて来ないのに我慢ならなくなったマヘーンドラは自らムンバイーに乗り込んで来る。
まずは、タイガー・シュロフに強烈なスポットライトを当てた映画であった。いわゆるスターシステムである。劇中、ダンスを踊らせても戦いを戦わせても彼の右に出る者はいない。ヒロインのドリーが彼に惚れてしまうのも当然の成り行きである。タイガーの視点に立って言えば、存分に自分の魅力をアピールできた作品である。とにかく彼の超絶なダンスとアクションを楽しむ映画である。
そのような映画にありがちだが、主人公があまりに完璧すぎて人間味がなく、感情移入ができないという欠点が「Munna Michael」でも見られた。どんな問題に陥ってもムンナーが瞬時に最適な解決法を思い付き、実行に移してしまうため、彼の苦しみ悩む姿が全く見られない。タイガー自身の演技力もまだまだ発展途上にあり、細かい演技ができていないのも、そう感じてしまう原因であろう。
だが、彼の周囲には演技派俳優たちが揃っていた。筆頭は悪役マヘーンドラを演じるナワーズッディーン・スィッディーキーである。マフィアのボスでありながら、ダンスの習得を目指し、半分の年齢の女性に恋をしてしまうという、ムンナーとは正反対の、人間味あふれるキャラであった。普段はシリアスな演技を見せるナワーズッディーンが今回はアクションやダンスに挑戦するのだが、実はタイガーの予想可能な八面六臂の立ち回りぶりよりもナワーズッディーンのそのようなレアな姿の方がこの映画のより大きな見所かもしれない。
そのマヘーンドラの弟バッリを演じたパンカジ・トリパーティーも最近いろいろな作品に出ずっぱりの力のある脇役俳優である。そして、ムンナーの父親マイケルを演じたローニト・ロイも、強面の割にはおちゃらけた役も演じられる芸達者だ。彼らがタイガーをよく支えていた。
ヒロインのニディ・アガルワールは、頑張っていたと言ってもいいだろう。ダンサー役で、踊りも一生懸命踊っていたが、それでも抜きん出た身体能力を誇るタイガーと並ぶと、どうしても見劣りしてしまう。それでも、劇中で彼女が演じるドリーは、ダンスコンペティションで圧勝できるほどの力は持っていないという設定だったので、ちょうどいいくらいのレベルだったのではなかろうか。
ストーリーはほとんどツイストもなく予想通りの展開となり、面白味はない。タイガーのダンス、アクション、そして見事なヒーロー振りに拍手喝采し、彼のファンになるというのが、「Munna Michakel」の正しい楽しみ方である。