
ラメーシュ・スィッピーは弱冠28歳にして伝説的な大ヒット作「Sholay」(1975年/邦題:炎)を監督し、インド映画史に永遠に名を刻まれた。ただ、これほど大きな成功を収めた映画でありながら、「Sholay」はその年のフィルムフェア賞を受賞できなかった。作品賞、監督賞、脚本賞など、主要な賞の全てを同年公開のもう一本の名作「Deewaar」(1975年)にかっさらわれたのである。もっとも、「Sholay」も「Deewaar」も脚本はサリーム=ジャーヴェードが書いており、もちろんフィルムフェア賞脚本賞は「Deewaar」でこの脚本家デュオが受賞している。この頃の彼らは飛ぶ鳥を落とす勢いで、ヒンディー語映画の無双状態を作り出していた。1980年12月12日に公開された「Shaan(プライド)」は、スィッピー監督が「Sholay」の後に送り出した作品であり、当然のことながら前作を超える作品を目指して作られている。当時としては最高額となる製作費を投じ、「Sholay」を越えるオールスターキャストで臨んでいる。
監督は前述の通りラメーシュ・スィッピー。プロデューサーは彼の父親GPスィッピー。音楽はRDブルマン。主演はアミターブ・バッチャンとシャシ・カプール。他に、スニール・ダット、シャトゥルガン・スィナー、ラーキー・グルザール、パルヴィーン・バービー、ビンディヤー・ゴースワーミー、ジョニー・ウォーカー、クルブーシャン・カルバンダー、マズハル・カーン、ヴィージュー・コーテー、ビンドゥ、マック・モーハン、ダリープ・ターヒル、シャラト・サクセーナーなどが出演している。また、ヘレンがアイテムソング「Yamma Yamma」にアイテムガール出演している。
「Shaan」には、3時間のバージョンと3時間30分のバージョンの2つがあるという。鑑賞したのは3時間のバージョンである。
舞台はボンベイ。ヴィジャイ(アミターブ・バッチャン)とラヴィ(シャシ・カプール)の兄弟は詐欺をして荒稼ぎをしていた。彼らは同業者のレーヌ(ビンディヤー・ゴースワーミー)とチャーチャー(ジョニー・ウォーカー)と出会い、一緒に詐欺をするようになる。彼らはボンベイを訪問中の王女(ビンドゥ)からダイヤモンドのネックレスを奪おうとするが、それはスニーター(パルヴィーン・バービー)に先に奪われる。彼らはスニーターも仲間に入れ、一緒に詐欺を始まる。だが、ヴィジャイとラヴィの兄シヴ・クマール(スニール・ダット)は警察官であり、ヴィジャイとラヴィを逮捕する。
シヴ警部は密輸王シャーカール(クルブーシャン・カルバンダー)の悪行を暴きつつあった。シャーカールは絶海の孤島に住んでおり、島を最新技術で武装していた。シャーカールは、射撃の名手ラーケーシュ(シャトゥルガン・スィナー)を誘拐し、彼の妻ローマーを人質に取って、彼にシヴ警部の暗殺をさせる。ラーケーシュはわざと暗殺を失敗するが、シャーカールはシヴ警部を誘拐し、自ら殺す。シヴ警部の妻シータル(ラーキー・グルザール)は夫の死を知って悲しむ。
ラーケーシュはローマーをシャーカールに殺され、ヴィジャイとラヴィに接近する。ヴィジャイとラヴィは全ての元凶がシャーカールであることを知り、復讐を誓う。情報屋のアブドゥル(マズハル・カーン)からシャーカールの倉庫の場所を聞きだし、彼らは爆破する。その報復としてシャーカールは刺客を送ってヴィジャイ、ラヴィ、ラーケーシュ、シータルたちを殺そうとするが失敗する。だが、アブドゥルは殺されてしまう。ヴィジャイはシャーカールの手下たちが集うバーを襲撃し、彼らを殺す。
シャーカールはシータルを誘拐し幽閉する。一方、シャーカールの手下ジャグモーハン(マック・モーハン)がヴィジャイとラヴィの元を訪れ、彼らに協力すると言い出す。ジャグモーハンの手引きによってヴィジャイ、ラヴィ、レーヌ、チャーチャー、スニーターは舞踊団に扮してシャーカールの島に潜入するが、実はジャグモーハンは二重スパイであり、シャーカールは全てお見通しだった。それでも別働隊として潜入していたラーケーシュの活躍によりピンチを切り抜け、シャーカールを追い詰める。ヴィジャイとラヴィはシータルを救出し、シャーカールを殺す。だが、シャーカールは死ぬ間際に島の自爆ボタンを押す。彼らはヘリコプターに乗って脱出する。
「Sholay」は農村部を舞台にした「カレー・ウェスタン」だったため、ラメーシュ・スィッピー監督は、「Shaan」をあえて都市舞台の映画にしたという。それはそれでいいのだが、「Shaan」を観ていると、どうしても「Sholay」の二番煎じ的な要素が目についてしまう。詐欺で荒稼ぎする主人公の兄弟ヴィジャイとラヴィは、「Sholay」のジャイとヴィールーを想起させるし、悪役シャーカールは「Sholay」の人気悪役ガッバル・スィンを意識しているのがバレバレだ。
さらに、「Sholay」のフィルムフェア賞受賞を妨害した「Deewaar」の要素も散見されるのである。ヴィジャイとラヴィの兄シヴは警察官であったが、この配置は「Deewaar」においてマフィアのドンになった兄ヴィジャイと警察官になった弟ラヴィとそっくりである。陳腐な言い方をすれば、「Shaan」は「Sholay」と「Deewaar」を足して2で割ったような映画である。
だが、オールスターキャストの映画をバランス感覚を持ってまとめ上げたことは評価されてしかるべきである。「Shaan」公開時のアミターブ・バッチャンは既に押しも押されもしない大スターになっていたし、ラージ・カプールの弟シャシ・カプールも人気俳優であった。しかもスニール・ダットやシャトゥルガン・スィナーといったベテラン俳優たちも起用しており、普通ならば彼らにふさわしい役を割り振るのは非常に難しい。だが、それぞれに適度な出番が与えられており、それぞれのファンも満足いく内容になっていた。このバランス感覚はすごい。ただし、アミターブが演じたヴィジャイとシャシが演じたラヴィのキャラ作りだけは失敗していた。二人にあまり違いが感じられなかったのである。また、本来ならばダルメーンドラとへーマー・マーリニーが主役陣にキャスティングされていたことも余分な情報ではないだろう。
「Sholay」のガッバル・スィンはインド映画史に燦然と輝く不朽の悪役であるが、「Shaan」でクルブーシャン・カルバンダーが演じたシャーカールも、それに勝るとも劣らない悪役のレジェンドだ。話し方はやたら丁寧なのだが、監視カメラなどの最新技術を使って全てをコントロール下に置いており、圧倒的な余裕を持って全てに臨んでいる。スキンヘッドの外観もまた特徴的である。悪役にカリスマ性がありすぎて、「Shaan」公開後はスキンヘッドにする若者が続出したといわれている。
「Sholay」は音楽も有名だ。「Shaan」の音楽も悪くはないが、「Sholay」の総合力には及ばない。それでも、ヘレンの踊るアイテムナンバー「Yamma Yamma」、ネックレス盗難前に流れるダンスナンバー「Shaan Se (Pyaar Karne Waale)」など、キャッチーな曲が多い。「Yamma Yamma」は人気プレイバックシンガー、ムハンマド・ラフィーの遺作のひとつとなった。ただし、コミカルなロマンス曲「Jaanu Meri Jaan」だけは場違いであり、雰囲気を損ねていた。
シャーカールの島は、英国ブリストル海峡にあるスティープ・ホルム島である。もちろん、島の内部にある設定になっていた要塞はボンベイのフィルムシティーに組まれたセットで撮影が行われたが、その崩壊の場面など、時代を考えるとかなり迫力があった。どうしても「Sholay」と比較されてしまうのだが、これはこれでスケールの大きな映画であった。
「Shaan」は、ラメーシュ・スィッピー監督が「Sholay」の大ヒットを受け、それを超えるスケールで作ったオールスターキャストのアクション映画である。どうしても「Sholay」との比較を免れない上に、「Sholay」と「Deewaar」を足して2で割ったような作りになっているため、この作品を「Sholay」以上と評価する人は少ないと思われる。興行的にも「Sholay」の足元には及ばなかったが、商業的な成功は収めたらしい。いったん「Sholay」との比較を忘れるならば、十分に楽しめる娯楽作である。
