Zid

3.0
Zid
「Zid」

 2014年11月28日公開の「Zid(意地)」は、ドイツ映画「The Good Neighbour」(2011年)を翻案したスリラー映画である。

 監督はヴィヴェーク・アグニホートリー。音楽はシャーリブ=トーシー。キャストは、カランヴィール・シャルマー、マンナーラー・チョープラー、シュラッダー・ダース、シーラト・カプール、デンジル・スミス、モーハン・カプール、ラージーヴ・サクセーナー、サンジャイ・カプールなどが出演している。

 ちなみに、マンナーラーは新人で、プリヤンカー・チョープラーやパリニーティ・チョープラーの従妹にあたる。どちらかといえばパリニーティ似である。

 2025年10月6日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 ゴア在住の犯罪記者ローハン・アチュレーカル、通称ロニー(カランヴィール・シャルマー)は、彼が勤務する新聞社「The Daily」の編集者カラン(モーハン・カプール)と警部(ラージーヴ・サクセーナー)に、最近起こった事件を話す。

 ロニーは、恋人プリヤー(シュラッダー・ダース)に振られたショックから立ち直るために引っ越しを考えていた。カランの紹介で、彼はココ・ビーチの家に引っ越す。その家のオーナーはマーヤー(マンナーラー・チョープラー)というミステリアスな若い女性だった。マーヤーはロニーに一目惚れし、彼にアプローチを始める。

 ある晩、ロニーはマーヤーを連れてバーへ行く。そこでプリヤーの異母妹ナンシー(シーラト・カプール)と偶然出会う。マーヤーはナンシーに嫉妬する。その帰り道、ロニーとマーヤーの乗った自動車はナンシーの乗ったスクーターと正面衝突する。マーヤーが確かめるとナンシーは死んでいた。二人は怖くなって逃げ出す。

 ゴアでこのひき逃げ事件は話題になり、カランはロニーにこの事件の取材を任せる。モーゼス警部補(デンジル・スミス)はロニーの挙動を不審に思い、証拠を集め始める。マーヤーは勝手にロニーの自動車を湖に沈める。ナンシーの葬儀が行われ、プリヤーがやって来た。ロニーとプリヤーは久しぶりに再会するが、マーヤーは彼女がロニーの元恋人だと知って、またも嫉妬心を燃やす。検死の結果、ナンシーの死因が窒息死だと聞いたロニーは、事故の後にまだナンシーが生きており、他の誰かによって殺されたという可能性を見出し、幾分落ち着く。だが、自分の誕生日をすっぽかされたマーヤーは、ロニーの愛犬ボビーをワニに食わせてしまう。ロニーには次第にマーヤーの異常性が知れていく。

 プリヤーは、ナンシーの死にマーヤーが関与していることに気づき、彼女を問い詰める。だが、マーヤーに攻撃され、彼女は気を失う。駆けつけたロニーもマーヤーに殴られて気絶する。ロニーが目を覚ますと、そこにはモーゼス警部補の遺体があった。マーヤーは、自分がナンシー、ボビー、モーゼス警部補を殺したと明かすと同時に、プリヤーはまた生きていると言う。そしてロニーを灯台の上に連れていく。プリヤーは灯台の下に落とされそうになるが、ロニーが彼女を救う。マーヤーは自ら落下し、海の中に消える。

 以上の話を聞き、カランと警部は納得する。だが、実はナンシーを殺したのはロニーだった。ナンシーの資産を横取りするため、プリヤーとロニーが共謀し、マーヤーをスケープゴートにしたのだった。

 主人公ロニーが引っ越し先に選んだ家は離れ家であり、母屋には家主のマーヤーが住んでいた。マーヤーには病気の父親がおり、看護婦でもあった彼女は父親の看病をしていた。マーヤーは恋愛に飢えた年頃の女性で、離れ家に引っ越してきたロニーに一目惚れする。だが、ロニーは元恋人プリヤーを忘れられておらず、その異母妹ナンシーとも親しかった。独占欲が強いマーヤーは、ロニーの周辺に現れる女性たちを目の敵にしていた。そして、徐々に異常な行動を取るようになる。マーヤーはいわゆる「メンヘラ」の女性だといっていいだろう。

 物語の転機になるのはナンシーの死である。大雨の夜、ロニーとマーヤーの乗った自動車がスクーターに乗っていたナンシーをひいてしまい、彼女はスクーターもろとも崖下に落ちてしまった。マーヤーは彼女の死を確認し、二人は怖くなってその場を逃げ出す。すぐにこのひき逃げ事件はゴア中で話題になり、警察もひき逃げ犯の捜査を始める。犯罪記者のロニーは、この事件の当事者でありながらその担当となり、複雑な思いで取材をする。その中で、ナンシーの死は、ロニーによるひき逃げではなく、第三者による殺人という線が浮上する。ロニーは藁にもすがる思いでそれを「事件の真相」に仕立て上げようとする。ただ、嫉妬に狂ったマーヤーの行動が常軌を逸してきて、とうとう彼は命の危険にさらされる。ロニーはプリヤーを守り、マーヤーは自ら命を絶つ。

 ここまででも一応完成されたスリラー映画になっていた。だが、大どんでん返しは最後に残されていた。ロニーが語った内容は実は彼の完全なる創作であり、真相は異なった。実はロニーはプリヤーと共謀してナンシーを殺し、彼女が所有していた資産を横取りしたのだった。そして、たまたま彼に近づいてきたマーヤーを犯人に仕立て上げたのだった。ロニーは最後に観客に向かって以下のセリフを言い放つ。

पता है, अगर झूठी कहानियों को सच्चे मन से कहो न, तो, सच्ची लगती है, नहीं?
知ってるか、もし嘘の話を誠実な心で語れば、真実に聞こえる、だろ?

 ヴィヴェーク・アグニホートリー監督は、この後、「The Tashkent Files」(2019年)、「The Kashmir Files」(2022年)、「The Bengal Files」(2025年)など、「歴史の真実を暴き出す」ことを売りにした作品を次々に送り出し、物議を醸すことになる。その彼が2014年の時点で作った映画でこのようなメッセージを発信していることは非常に興味深い。

 「Zid」は彼の作品群の中でも「Hate Story」(2012年)などの系統に位置づけられる作品で、その性描写は過激な方である。特にマンナーラー・チョープラーの豊満な肉体を強調して映し出すシーンが多く、ボルテージが上がる。

 細かい部分を見ると気になる点がいくつかあった。たとえば、ナンシーが死んだ夜のフェリーの運航状況は彼女の死の真相に近づく有力な手掛かりになりそうだった。だが、それがストーリーの中でうまく活かされていなかったように感じる。プリヤーがナンシーの死の一日前にゴアに来ていたという下りも、もっと発展させることができれば面白かっただろう。

 とにかく大部分のシーンで大雨が降っている。ナンシーが死んだ夜も大雨だった。ロニーとプリヤーが抱き合うシーンでも雨が降っていた。雨へのこだわりは映画のアクセントになっており、サスペンス性を盛り上げる効果があった。

 「Zid」は、ドイツ映画を原作としたスリラー映画だ。インド映画がドイツ映画をアイデアの源泉にするのは珍しい。結末の大どんでん返しに驚かされる映画だが、そのメッセージは、ヴィヴェーク・アグニホートリー監督のその後の作品を評価する際に参考になる。映画としては並程度であるが、彼の作風を分析する上で重要な作品になりえる。


https://www.youtube.com/watch?v=n_BRrvlxChA