Raid 2

3.5
Raid 2
「Raid 2」

 2025年5月1日公開の「Raid 2」は、所得税局(Income Tax Office)の実直な税務官僚(IRS)、アマイ・パトナーイクが主人公のヒット作「Raid」(2018年)の続編である。インド映画の続編にはストーリー上のつながりがないものが多いが、「Raid 2」に関しては前作から7年後の設定になっていて、完全な続編である。

 監督は前作に引き続きラージ・クマール・グプター。音楽監督もアミト・トリヴェーディーで変更なし。ただし、キャストには若干の変更が見られる。主役アマイ・パトナーイクを演じる主演アジャイ・デーヴガンは不動であるが、アマイの妻マーリニー役はイリアナ・デクルーズからヴァーニー・カプールにバトンタッチしている。また、前作の悪役サウラブ・シュクラーは引き続き出演だが脇役に格下げされており、メインの悪役はリテーシュ・デーシュムクに変更されている。

 他に、ラジャト・カプール、スプリヤー・パータク、アミト・スィヤール、ブリジェーンドラ・カーラー、ヤシュパール・シャルマー、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、シュルティ・パーンデーイなどが出演している。また、「Stree 2: Sarkate Ka Aatank」(2024年)のアイテムソング「Aaj Ki Raat」などでアイテムガールとして人気沸騰中のタマンナー・バーティヤーが似たようなアイテムソング「Nasha」にアイテムガール出演している他、ヨー・ヨー・ハニー・スィンとジャクリーン・フェルナンデスがエンドクレジットのアイテムナンバー「Money Money」に特別出演している。前作が成功したことによって全体的に豪華な布陣となっている。

 前作から7年後。実直な税務官僚(IRS)アマイ・パトナーイク(アジャイ・デーヴガン)はラージャスターン州の所得税局に赴任していた。アマイはクンワル・クルディープ(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)に対して74回目の急襲を行い、ブラックマネーを押収する。ただ、このときの急襲で収賄の容疑を掛けられ、彼はボージに異動となった。

 ボージでは、慈善事業家かつ政治家のマノーハル・ダンカル、通称ダーダー・バーイー(リテーシュ・デーシュムク)が人々から非常に慕われており、脱税などの事件も全く見当たらなかった。ダーダー・バーイーは貧しい出自だったが、貧民党を立ち上げて州政治の実権を握り、現在では国会議員になっていた。だが、アマイは当初からダーダーの脱税を疑っており、密かに調査を行っていた。

 ホーリー祭の日、アマイはダーダーの自宅やオフィスなどを一斉に急襲する。だが、何も見つからなかった。ダーダーも事前にアマイのことを下調べしており、急襲前にあらかじめ全てのブラックマネーを隠していたのだった。所得税局のカウル局長(ラジャト・カプール)はアマイを停職処分とする。

 だが、アマイは諦めなかった。弁護士デーヴィンダル・ゲヘロート(ヤシュパール・シャルマー)を使ってダーダーに公益訴訟(PIL)を行い、息の掛かったヴィナイ・バカーヤー(ブリジェーンドラ・カーラー)をタレコミ屋としてダーダーのところに送り込んだ。また、アマイの後任としてボージの所得税局に赴任した税務官僚ラッラン・スディール(アミト・スィヤール)はいかにも汚職官僚という顔をしてダーダーに取り入るが、実は彼はアマイの右腕だった。さらに、アマイはダーダーのセクハラや違法な土地収奪も掘り起こす。こうしてダーダーの外堀を埋めていき、彼が隠したブラックマネーも次々に発見する。

 ダーダーを慕う人々が税務官僚たちを襲おうとするが、ダーダーの母親(スプリヤー・パータク)はアマイの妻マーリニー(ヴァーニー・カプール)からダーダーが多くの女性たちを手込めにしてきたことを知り、彼を止める。母親を敬愛するダーダーは母親の前で崩れ落ち、逮捕される。

 現在のインドでは決済のデジタル化がほぼ完了しており、人々はスマートフォンのアプリによって商品やサービスの売買を日常的に行っている。2010年代後半から2020年代前半に掛けてモーディー政権が官製決済システムUPIの導入などによって決済のデジタル化を推し進めた大きな理由が、ブラックマネーの撲滅であった。インドには、表の経済(ナンバー1)と同じかそれよりも大きな裏の経済(ナンバー2)が存在しているとまことしやかに噂されており、それは脱税によって作り出されていた。現在でも脱税はあるだろうが、現金しかなかった時代に比べたらその規模は縮小しているのではないかと予想される。

 「Raid」シリーズは、まだスマートフォンやUPIなど存在しなかった1980年代の物語だ。携帯電話すらなく、人々は固定電話で連絡を取り合っている。主人公は、脱税を取り締まる所得税局の税務官僚(IRS)、アマイ・パトナーイクだ。アマイは実直かつ聡明な官僚であり、脱税を嗅覚によって嗅ぎ分け、巧妙に隠したブラックマネーを見つけ出すことに長けている。だが、権力にも物怖じせずに立ち向かうために厄介者扱いされて、大物を捕まえるたびに異動させられてしまうという不便な人生も歩んでいた。正直者の人生は決して楽ではないのである。

 「Raid 2」では、表向きは善人のダーダー・バーイーが敵役となる。貧者の味方であり、ボージ選出の国会議員であり、また、日頃からの慈善事業によって人々から神のように慕われるダーダー・バーイーは、一見すると脱税とは無縁に見えた。平和なボージに異動させられたことはアマイにとっては左遷の人事だと世間からは見られた。だが、アマイは事前にダーダーが巨額のブラックマネーを抱えていることを嗅ぎつけており、左遷と見せかけて自らボージに乗り込んだのだった。

 1回目の急襲ではダーダーのブラックマネーを見つけることはできなかった。ダーダーもアマイについて情報収集をしており、彼が見つけた証拠を全て事前につぶしていた。アマイは失敗の責任を負わされて停職処分になってしまうが、諦めず、あらゆる手段によってダーダーを追いつめていく。その過程が「Raid 2」の最大の見どころである。

 ただ、ダーダーの裏の顔が序盤の早い時間帯に明かされるため、サスペンス性には欠けていたし、実はかなりドス黒い人間でもあり、これだけの悪事が今まで表に出なかったことにも疑問を感じた。ホワイトカラーによる経済犯罪が「Raid」シリーズの醍醐味であるため、性的搾取などの部分をあえて加えなくてもよかったのではないかと感じた。

 円熟期に入ったアジャイ・デーヴガンとリテーシュ・デーシュムクの競演は非常にエキサイティングだった。どちらかといえばアジャイは一辺倒の演技をしており、「いつも通り」という感じであったが、リテーシュはスターの王道から外れた分、さまざまな役を演じるチャンスを得られており、熟達している。ヴァーニー・カプールはほとんど添え物であった。

 「Raid 2」は、前作に引き続き実直な税務官僚アマイ・パトナーイクを主人公にして、ブラックマネーを貯め込む権力者の経済犯罪を暴いていく映画である。興行的にも成功しており、このまま第3作も作られそうな勢いである。タマンナー・バーティヤーやジャクリーン・フェルナンデスを起用したアイテムソングも充実し、豪華さも増している。観て損はない映画だ。