
2025年2月7日公開の「Loveyapa」は、スマートフォンに依存した現代人若者の恋愛を取り上げたラブコメ映画である。低予算ながら大ヒットしたタミル語映画「Love Today」(2022年)のリメイクである。題名は造語である。英語の「Love」と「トラブル」という意味のパンジャービー語単語「Syapa」を掛け合わせたもので、「恋のトラブル」と解釈すればいいだろう。
監督は「Secret Superstar」(2017年/邦題:シークレット・スーパースター)や「Laal Singh Chaddha」(2022年)のアドヴァイト・チャンダン。主演は「Maharaj」(2024年)でデビューしたばかりのジュナイド・カーンと「The Archies」(2023年)でデビューしたクシー・カプール。ジュナイドはアーミル・カーンの息子、クシーはシュリーデーヴィーの娘であり、どちらも筋金入りのスターキッドだ。
キャストは他に、アーシュトーシュ・ラーナー、グルシャー・カプール、キクー・シャールダー、タンヴィカー・パルリーカルなどである。
ガウラヴ・サチデーヴァ、通称グッチ(ジュナイド・カーン)とバーニー・シャルマー(クシー・カプール)は恋仲にあり、毎日スマートフォンでコミュニケーションを欠かさなかった。あるときバーニーの厳格な父親アトゥル・クマール・シャルマー(アーシュトーシュ・ラーナー)に二人の関係がばれてしまい、グッチは家に呼ばれる。アトゥルは二人の関係を公認する前に、お互いのスマートフォンを交換し1日過ごすように言う。
とりあえずお互いのパスワードを教え合っていなかったためグッチは安心していたが、アトゥルからパスワードを教えるように言われる。グッチもバーニーのスマートフォンのパスワードを知る。相手のスマートフォンの中身を盗み見るのはいけないことだと知りながらもついつい誘惑に負けのぞいてしまう。すると、バーニーがグッチに嘘を付いて元恋人と夜のドライブに出ていたことが分かった一方で、グッチも元恋人と連絡を取り合っていたことが分かる。二人はそれを非難し合う。1日が経ったが、グッチはまだ疑いが晴れず、あと3日バーニーのスマートフォンを預かることを提案する。バーニーもグッチのスマートフォンをあと3日預かることになった。アトゥルは削除されたデータの復元を始め、彼が過去にたくさんの女性たちに送ったメッセージや収集したポルノ画像が明らかになる。だが、グッチにとって絶対にばれてはいけないものがひとつあった。それは大学時代に作った「Lover_21」というアカウントで、彼と友人たちはこのアカウントを使って友人たちをだまして遊んでおり、金まで巻き上げていた。グッチはログアウトしようとするがばれてしまう。しかも、過去にバーニーと妹は「Lover_21」から送られてくるメッセージに困らされていたのだった。それがグッチだったことを知って愛想を尽かす。
ところで、グッチの姉キラン(タンヴィカー・パルリーカル)と歯医者のアヌパム・メヘター(キクー・シャールダー)の縁談が進んでいた。アヌパムは太っており、どう見てもハンサムではなかったが、キランは彼の誠実さや紳士ぶりにほれ込んでいた。だが、グッチとバーニーがスマートフォンを交換したことを知り、キランもアヌパムのスマートフォンが気になり始める。彼はこそこそとスマートフォンをのぞき見ることが多く、決して誰にも渡そうとしなかったのである。結婚式の日、キランはアヌパムの隙を見て彼のスマートフォンを盗み、中身を見る。それに気付いたアヌパムは彼女の行為を非難する。実はアヌパムはキランとの結婚が決まったときから、友人たちからそれをちゃかすメッセージを受け取っていた。それをキランに見せたくなかったためにスマートフォンを渡そうとしなかったのである。それを知ったキランはアヌパムに謝罪し、彼に抱きつく。
グッチは、誰にでも隠したいことがあり、全てを明らかにし合うのはよくないと気付く。バーニーとのケンカのせいで彼は親友たちとも不仲になってしまっていた。グッチは彼らに謝る。だが、そのときバーニーのセックスビデオが送られてくる。バーニーは、それは自分ではないと主張するが、アトゥルは信じなかった。バーニーは失踪してしまう。グッチは彼女を探し出す。バーニーは、ビデオに映っているのは自分ではないと言う。グッチもそれを信じる。一方、そのビデオはバーニーの同僚が作ったフェイクビデオであることが分かり、彼は逮捕される。アトゥルは、愛し合うだけでなく信頼し合うことも大事だと諭し、グッチとバーニーの仲を認める。
「Loveyapa」は興行的に失敗に終わった作品である。また、タミル語映画の忠実なリメイクである。それらの要素を差し引いても、久々にいいロマンス映画を観た気になった。フロップに終わったからといって作品自体が悪いわけではない。現代のインド人若者の恋愛模様がよく分かり、それをスタイリッシュに提示できていた。
現代人の生活はもはやスマートフォンなしでは成立しなくなっている。若者の恋愛も然りである。では、付き合っている男女が、1日だけお互いのスマートフォンを交換し、中身も自由に見ることができるとしたらどうなるだろうか。そんなチャレンジを映像化したのがこの作品である。
表向きはラブラブのグッチとバーニーであったが、バーニーの父親アトゥルに命令されてスマートフォンを交換したところ、1日の内に二人とも浮気と疑われるような行為がばれてしまう。どちらも元恋人と連絡を取り合っており、バーニーは夜のドライブまでしていた。
また、バーニーはマッチングアプリで大量の男性たちからメッセージを受け取り、気に入った相手には返信もしていた。グッチのスマートフォンには大量のポルノ画像が保存されていたし、SNSで女性たちの写真に手当たり次第にコメントをしていた。
現代人があまりにスマートフォン依存症に陥っていること、そしてその中に大量の秘密が隠されており、スマートフォンがその人の人生そのものになっていること、また、インスタントな関係に慣れすぎて現実世界では人間関係を築くのに我慢が必要であることを忘れてしまっていることなど、大切な指摘がいくつもあった。
ただ、この映画は現代人に、結婚前にお互いのスマートフォンをチェックし合うことを推奨しているわけではない。逆に、相手のプライバシーを尊重することを訴えている。人を愛するのは簡単だが、全幅の信頼を寄せるのは難しい。信頼とは、お互いの全てを明らかにすることを求めるものではない。相手のプライバシーを認め、自分が見ていない部分を相手に任せることで信頼が築かれる。ラブコメ仕立てではあったが、「Loveyapa」は非常に重要な教訓を我々に投げ掛けてくれる。
コメディー映画としても秀逸であった。間の取り方がうまく、緩急が効いており、展開が小気味よい。主演の若手二人も好演していた。ジュナイド・カーンは「Maharaj」のときよりも生き生きと演技しており、彼にはまずこういうライトな作品の方が合っていると感じた。クシー・カプールも合格点である。
だが、やはりアーシュトーシュ・ラーナーのインパクトが強かった。バーニーが「嘘発見器」と呼ぶほど鋭い父親を演じていたが、ただ厳格なだけでなく、味があった。しかも、決してグッチとバーニーの仲を切り裂きたかったわけではなく、信頼することを教えていた。
太った歯医者アヌパムを演じたキクー・シャールダーはインドを代表する人気コメディアンである。カピル・シャルマーのコメディーショーなどに出演しインド人を爆笑させている。「Loveyapa」では、コメディー要素もあったが、意外にシンミリした役を演じていた。
「Loveyapa」は、スマートフォンがなくては恋も生活もできなくなった現代人の現状を憂いながら、愛よりも信頼の大切さを諭す内容の、面白くて啓発的な映画である。興行的には失敗に終わったものの、ここ最近のロマンス映画の中では一番良かった。過小評価されている映画である。