Yudhra

3.0
Yudhra
「Yudhra」

 2024年9月20日公開の「Yudhra」は、2000年代によくあったような、今となっては古風に感じられるアクション・マサーラー映画である。とはいえ、その古風さは好感が持てるもので、古き良きインド映画の伝統をリバイバルしようとしているような意図すら感じた。世界規模で場所の頻繁な転換をしてスケールを大きく見せるなどの工夫も見られたし、歌と踊りにも力が入っている。

 プロデューサーはファルハーン・アクタルなど。監督は「Mom」(2017年)のラヴィ・ウディヤーワル。音楽はシャンカル=エヘサーン=ロイなど。主演は「Gully Boy」(2019年/邦題:ガリーボーイ)のスィッダーント・チャトゥルヴェーディー。ヒロインは「Master」(2021年/邦題:マスターが来る!)などのマーラヴィカー・モーハナン。他に、ラーガヴ・ジュヤール、ガジラージ・ラーオ、ラーム・カプール、ラージ・アルジュン、シルパー・シュクラーなどが出演している。

 ユドラー(スィッダーント・チャトゥルヴェーディー)の父親ギリーシュは有能な警察官だったが、25年前に母親共々交通事故で亡くなった。ユドラーはそのとき母親の胎内におり、彼だけは助かった。ユドラーはギリーシュの上司カールティク・ラートール(ガジラージ・ラーオ)に我が子同然に育てられた。ギリーシュの同僚だった警察官レヘマーン・スィッディーキー(ラーム・カプール)の庇護も受け、その娘ニカト(マーラヴィカー・モーハナン)とは幼馴染みであった。

 ユドラーは事故の後遺症により怒りを制御できなかった。自分の出生の秘密を知り、カールティクにも反抗するようになり、不良グループと悪さばかりしていた。カールティクは彼を国立陸軍士官訓練校(NCTA)に入れる。だが、カッとなって民間人に対して暴行事件を起こしてしまい、軍法会議に掛けられて服役することになる。そんなユドラーを見かねたレヘマーンは、彼に両親は事故死ではなく麻薬密輸マフィアのドン、スィカンダルに殺されたと明かす。そして、レヘマーンに秘密の任務を与える。スィカンダルは既に海外に高飛びしてインドにはいなかったが、その部下のフィーローズ(ラージ・アルジュン)が麻薬密輸業を引き継いでいた。レヘマーンはユドラーに、牢獄でフィーローズの部下と関係を築き、フィーローズのギャングにスカウトされるように指示する。

 ユドラーは牢獄で目立つ行動をしたことでフィーローズに注目され、出所後に彼に呼ばれる。そしてフィーローズのギャングの一員になる。フィーローズの息子シャフィーク(ラーガヴ・ジュヤール)は最初からユドラーを疑っていた。フィーローズとスィカンダルはライバル関係にあった。手始めにユドラーはフィーローズからスィカンダルの居場所を聞き、彼を抹殺する。

 フィーローズは中国のマフィアから大量のコカインを買い付けようとしていた。ユドラーは中国マフィアとの交渉役を任され、上海に送られることになった。レヘマーンはフィーローズを壊滅させるチャンスだと考え、コカインを押収してフィーローズの財政を破綻させようとする。上海に到着したユドラーは中国マフィアからコカインを買い、コンテナに入れて船便でインドに向けて発送した。レヘマーンはその船を海上で急襲し、コカインを奪おうとする。

 船がスリランカ沖に差し掛かったところで麻薬取締局の急襲を受ける。だが、コカインが入っているはずのコンテナは空だった。ユドラーも銃弾を受けて海中に落ちる。ただ、彼は生き残り、スリランカの漁民に救われ、回復したところでインドに帰還する。

 フィーローズはユドラーがミスをしたと考え、彼を捕らえた。同時に彼はレヘマーンも捕まえていた。レヘマーンだけがコカインの在処を知っていたが、激昂したシャフィークが彼を撃ち殺してしまったため、コカインの場所が記録されたファイルのパスワードが分からなくなってしまった。ユドラーは殺されそうになるが脱出に成功する。

 フィーローズはレヘマーンの娘ニカトがパスワードを知っていると考えた。このときニカトはポルトガルに留学していた。フィーローズはシャフィークをポルトガルに送る。ニカトの命が危ないと知ったユドラーもポルトガルに渡り、ニカトを守ってシャフィークを殺す。ユドラーはニカトからパスワードのヒントを得てファイルを開く。レヘマーンは生前に撮影した動画の中でコカインをヴァイザーグの港に隠したと明かす。

 ユドラーとニカトはカールティクの助けを借りてインドに戻る。そしてレヘマーンの動画をカールティクに見せる。大臣になっていたカールティクはすぐに対処することを約束する。一方、ユドラーはフィーローズのアジトに突入し、彼を殺す。だが、フィーローズは死ぬ前に、彼の父親を暗殺した真犯人はカールティクだったことを暴露する。ニカトの命も狙われていた。ユドラーは急いでニカトの元に向かうが、ニカトはカールティクに暗殺を命じられて送られた女性警察官レーヌカー・バールドワージ(シルパー・シュクラー)を撃退していた。怪我をしたニカトは病院に搬送される。ユドラーは、ヴァイザーグ港に向かったカールティクを追い、彼を殺す。

 両親を失いトラウマを抱え、怒ると我を忘れて暴力的になる性質を持つ主人公ユドラーが、極秘任務を遂行すると見せ掛けて次々に仇討ちをしていくという筋書きのアクション映画である。ユドラーの当面の敵は麻薬密輸マフィアたちだった。両親は事故死したと考えられていたが、警察官だった父親が麻薬取締を強化したことで、密輸王のスィカンダルに睨まれることになり、殺されたことが分かる。スィカンダルに接近するため、ユドラーはスィカンダルのかつての部下フィーローズのギャングに仲間入りし、スィカンダルの居場所を突き止めて、彼を殺す。だが、彼の復讐劇はそれだけでは終わらなかった。

 ユドラーをマフィアに潜入させたのは、彼の恩人でもあるレヘマーンであった。ユドラーはレヘマーンの娘ニカトと幼馴染みで、成長してからは恋仲にもなっていた。フィーローズは、彼が中国マフィアから購入したヘロインをレヘマーンがどこかに隠したことを知り、彼を拉致して拷問する。レヘマーンはヘロインの在処を記したファイルのパスワードを明かさずに殺されてしまう。そこでフィーローズは、レヘマーンの娘ニカトにターゲットを定めたのだった。彼女が何かを知っていると考えたのである。これがユドラーを刺激し、彼は最終的にフィーローズとその息子シャフィークを殺すことになる。

 本来ならばそれで復讐劇が終わるはずだが、フィーローズの口から両親を殺した真犯人を聞いてしまう。それはユドラーの育ての親カールティクであった。警察官僚のカールティクは麻薬密輸マフィアと密通して私腹を肥やしており、麻薬取締を真面目に実行する部下ギリーシュが邪魔になっていた。そこで彼はフィーローズにギリーシュ暗殺をさせる。こうしてユドラーの復讐の対象にカールティクも浮上し、彼は容赦なく育ての父親も殺してしまう。

 ユドラーが怒りに任せて手当たり次第に殺してしまうものだから、最終的にはユドラーとニカトしか残らなかった。まるで焼け野原である。悪者を殺して解決ということを繰り返していたらそういうことになってしまう。非常に単純なストーリーだった。それに、カールティクが黒幕だったというどんでん返しがストーリー上の最大の見せ所であるが、この種の映画としてはよくある展開で、事前にある程度予想ができていた。

 ストーリーには特筆すべきところはなかったのだが、俳優たちの演技には楽しみがある。まず主演のスィッダーント・チャトゥルヴェーディーであるが、彼がこのようなアクションヒーローを演じたのは初めてで、彼にとっては新たな挑戦だったといえる。「Yudhra」は第一にスィッダーントのためにあるような映画だ。格闘戦、銃撃戦、バイクのスタント走行など、縦横無尽の働きをしていた。しかも、ダンスが意外にうまいことも分かった。この主演作により、若手俳優の中でスィッダーントのポジションは上がったと感じる。

 スィッダーントのダンスはうまかったのだが、やはりダンサーから俳優に転向したラーガヴ・ジュヤールのダンスの切れは次元が違った。しかも演技面でも彼のエキセントリックな演技は強く印象に残った。踊れて演技もできる俳優は重宝される。主演スィッダーントも良かったのだが、「Yudhra」の真の勝者はラーガヴかもしれない。

 ヒロインのマーラヴィカー・モーハナンは、ケーララ州生まれ、ムンバイー育ちのマラヤーリーであり、南インド映画からヒンディー語映画までマルチリンガルに活躍する女優だ。ヒンディー語映画では過去に「Beyond the Clouds」(2018年)に出演していた。目の辺りがディーピカー・パードゥコーンに似ており、演技も悪くない。

 ラーム・カプール、ガジラージ・ラーオといったベテラン勢の演技も光っていた。特にガジラージの起用は最後の最後で生きてくる。むしろ、ガジラージが起用されていることに何らかの仕掛けを感じてしまった。その直感はピタリと当たった。

 「Yudhra」は、アクションが主体ながら、ロマンスやダンスなどにも力を入れ、期待通りのどんでん返しも用意された、現代的なマサーラー映画である。復讐が行き過ぎていて最後にはほとんど誰もいなくなってしまうことに物寂しさを感じずにはいられないが、主演スィッダーント・チャトゥルヴェーディーや悪役ラーガヴ・ジュヤールのステップアップには十分になった作品であった。興行収入はまずまずだったようである。観て損はないだろう。