インドを去る前に是非見ておきたい映画があった。映画の名前は「Aap Mujhe Achche Lagne Lage(あなたは私を好きになり始めた)」。ヴィクラム・バット監督、リティク・ローシャンとアミーシャー・パテールが主演の映画で、2002年4月19日に公開された。公開から2週間ぐらい経っているので、僕の周りのインド人で既に見た人が多かった。評価を聞いてみると、10代の子は評価上々、それ以上の大人には不評だった。多分典型的なインド製ロマンス映画であることが容易に想像できた。今日は冒険をして、今まで一度も行ったことがなかった映画館PVRヴィカースプリーへ行くことにした。
PVRと付く映画館はデリーに今のところ4つある。PVRプリヤー、PVRアヌパム、PVRナーラーイナー、PVRヴィカースプリーである。もちろん全て同じ系列の映画館で、入場料は一律150ルピー、金持ちインド人御用達の高級映画館である。PVRアヌパムは自宅から近いのでよく利用しているので既にお馴染みである。PVRプリヤーで映画を観たことはないのだが、映画館の辺りには何回か行ったことがある。PVRナーヤーイナーはちょっと離れたところにあるのだが、一度だけ行ったことがあった。残るはPVRヴィカースプリーだけだった。事前の情報により、ヴィカースプリーにマクドナルドがあることが分かっていたので、おそらくPVRヴィカースプリーの周辺はモダンな商店街になっているだろうことが予想できた。
グリーン・パークからオート・リクシャーに乗ってPVRヴィカースプリーまで行った。ヴィカースプリーはデリーの西の方にあり、PVRナーラーイナーよりもさらに遠い。メーターで120ルピーかかった。
PVRヴィカースプリーはちょっとしたモールになっていて、マクドナルド、ピザ・ハット、ピザ・コーナー、カフェ・コーヒーデー、ミュージックワールド、アルチーズ・ギャラリー、ベネトンなどの店舗が入っており、まだ一部工事中でさらに店舗数が増えそうだった。PVRヴィカースプリーの周辺も商店街化が進んでおり、あと1年もすれば金持ちな若者向けのマーケットが出来上がると思われる。ちょっとデリーの中心街から遠いのがネックだが、金持ちインド人なら自家用車くらいは持っているのであまり関係ないだろう。
なぜか「Aap Mujhe Achche Lagne Lage」のチケットは130ルピーだった。PVRヴィカースプリーのチケットの値段がもともと130ルピーなのか、それともこの映画だけ安かったのかはよく分からないが、とにかく得した気分になった。3時半からの回を見た。
サプナー(アミーシャー・パテール)はマフィアのドン一家の娘だったが、父プラタープと兄ラーヴァンに大切に育てられた箱入り娘だった。いつも家の中で暮らしており、いつか白馬の王子様が自分をこの家から連れ出してくれることを夢見ていた。 一方、ローヒト(リティク・ローシャン)は大学に通うスポーツ万能の青年だった。ある夜ローヒトは友達と一緒にバイクに乗って走っていると、たまたまサプナーの乗った自動車が隣を通りがかり、サプナーに一目惚れしてしまう。ところがその瞬間、サプナーの乗った自動車は敵マフィアの奇襲を受ける。ローヒトはサプナーを助け出すが、味方の到着と共にサプナーは彼らと共にどこかへ姿を消してしまう。 すぐにローヒトはサプナーがマフィアの娘であることを知る。しかしサプナーに対する愛は抑えきれない。ちょうどそのときナヴラートリーの祭りで、サプナーの家で数日間祭りが催されることも分かった。ローヒトは友人と共にバンドを組んで、その祭りに潜り込んで演奏をすることになった。 ローヒトとサプナーは再会し、すぐにお互い恋に落ちる。ナヴラートリーの祭りが続いている間、ローヒトはサプナーの家を訪れて逢引を重ねていた。ところが、ナヴラートリーの最終日になり状況が一変する。プラタープはイギリス在住の友人の息子とサプナーの結婚を勝手に決めており、みんなの前で発表したのだった。それを聞いたサプナーとローヒトは悲しみに打ちひしがれる。 ローヒトはそれでも諦めなかった。マフィア一家を敵に回してでもサプナーを手に入れることを決意した。サプナーの結婚式にまたバンドとして潜入し、サプナーを奪って逃げ出したのだった。当然サプナーが姿を消したことを知った兄ラーヴァンは怒り狂った。敵マフィアの仕業であると勘違いし、ムンバイー中のマフィア・グループを殺して廻った。ところが誰もサプナーの居所を知らなかった。 一方、ローヒトは自分の住んでいる男子寮にサプナーをかくまっていた。男子寮に女の子が入ってきたことで一度は大変なことになるが、みんなの協力を得ることができて、サプナーはそこで隠れ住むことができるようになった。ところが、遂にラーヴァンたちに居所がばれてしまう。ローヒトが何度もサプナーの家に電話をかけていたことから、電話番号照会で分かってしまったのだ。 ラーヴァンは部下を引き連れてローヒトの男子寮に押しかける。ところが寮生たちは皆ローヒトとサプナーを守るために立ち上がる。そこへマフィアのドン、プラタープが登場し、ローヒトとサプナーの結婚を認めてサプナーを自宅に連れ帰った。 ところがそれは全てサプナーを連れ戻すための嘘だった。サプナーは無理矢理イギリスに送られることになった。そしてローヒトは無人の薬品工場の連れ込まれリンチを受け、死んでしまう。それを聞いたサプナーは自殺を図り、睡眠薬を大量に呑み込む。 ところがローヒトは生きていた。蘇生したローヒトはまるでターミネーターみたいな超人と化していた。空港へ向かうサプナーを乗せた車の前に立ちはだかり、ラーヴァンの部下たちを一人で全てなぎたおす。しかしサプナーを抱きかかえたときには既に彼女は意識が朦朧としていた。ローヒトはサプナーを病院へ連れ込む。 サプナーは一命を取り留めた。プラタープもさすがに二度もサプナーの命を救ったローヒトを認めざるをえず、二人の結婚を許したのだった。
やはりストーリーが現実離れした典型的なインド映画だった。細かいところを突っ込んでいったらキリがない。そもそもマフィアの娘と結婚してハッピーエンドなわけないだろう・・・。絶対にいつか殺されるって・・・。でもまあ普通に楽しめるインド映画だと思った。こういうインド映画もなくてはならないと思う。それにしてもリティク・ローシャンのダンスは相変わらずうまかった。アミーシャー・パテールもけっこううまくなったと思う。
音楽はラージェーシュ・ローシャン。リティク・ローシャンの父親だ。彼は結構名の売れた音楽監督なのだが、僕はあまり好きではない。なんかまとまりに欠けるのだ。この映画の音楽も、ちょっとゲテ物っぽい部分があった。やたらと転調が多くて、聞いていて目まぐるしい。タイトル音楽の「Aap Mujhe Achche Lagne Lage」だけはついつい口ずさんでしまう洗脳性の高い曲で評価できる。
あまりあってはならないことだが、途中で停電が2回もあった。つまり映画が途中で映らなくなってしまうのだ。安映画館なら許せるが、PVRほどの高級映画館でこういうことが起こるのはよくない。しかも停電だった間のシーンは全て飛ばされてしまうのでさらに理不尽である。巻き戻して見せてもらいたい。普通インドでは映画が途中で切れたりすると、即行で観客から大量のブーイングが出るのだが、やはりPVRの客層はインテリが多いようで、そういうことはなかった。「やれやれ」という苦笑ぐらいだった。多分PVRヴィカースプリーの辺りはまだインフラがあまり整っていないのではないだろうか。