2024年2月23日公開の「Crakk」は、韓国発のNetflixドラマ「イカゲーム」(2021年)とエクストリーム・スポーツを掛け合わせたようなサバイバル映画である。題名の「Crakk」とは英語の「Crack」のことで、「すごい」というニュアンスを含んだ「クレイジー」みたいな意味合いで使われていた。
監督は「Table No.21」(2013年)のアーディティヤ・ダット。運動神経抜群のアクション俳優ヴィデュト・ジャームワールが主演をし、アルジュン・ラームパールが悪役を演じる。ヴィデュトはプロデューサーも務めている。他に、ノラ・ファテーヒー、エイミー・ジャクソン、アンキト・モーハン、ジャミー・リーヴァルなどが出演している。
ムンバイー在住のスィッダールト・ディークシト、通称スィッドゥー(ヴィデュト・ジャームワール)は、運動神経の良さを活かして危険なスタントアクションをし、それを録画してインターネットにアップロードしていた。スィッドゥーの兄ニハール(アンキト・モーハン)は、「マイダーン」と呼ばれるサバイバルゲームに参加し死んだ。スィッドゥーもマイダーンへの参加を夢見ていたが、参加のためにはスタントアクションを主催者に認めてもらわなければならなかった。
あるとき遂にスィッドゥーはマイダーンの参加者として認められ、コンテナで運ばれてポーランドまで行く。世界各国から36人の参加者が集められ、マイダーンのチャンピオン、デーヴ(アルジュン・ラームパール)に迎えられた。
第一のゲームで16人に振り落とされたが、最後に勝ち抜きの資格を得たのはスィッドゥーだった。スィッドゥーの身のこなしは視聴者の人気を集める。マイダーンの取り締まりに乗り出したポーランド警察のパトリシア・ノヴァク(エイミー・ジャクソン)は、インフルエンサーのアーリヤー(ノラ・ファテーヒー)と街に繰り出したスィッドゥーと接触し、捜査に協力するように要請する。マイダーンの宿泊地に帰ったスィッドゥーは早速裏切りを疑われるが、彼はデーヴに全てを打ち明け、認められる。しかしながら、デーヴはスィッドゥーを完全に信用していなかった。彼は無理矢理スィッドゥーをゲームから追放しようとするが、マイダーンの創始者であるマークが介入し、スィッドゥーの参加を認める。
第二のゲームでスィッドゥーはアーリヤーとペアを組み、見事賞金を獲得して勝ち抜く。だが、その夜にデーヴはマークに対して反旗を翻す。スィッドゥーは、兄の死の秘密を明らかにするためにマークに話を聞く必要があり、彼を探す。マークはコンテナに閉じ込められていた。デーヴはプルトニウムを売り払おうとしていたが、その野望は潰える。
第三のゲームが始まる前にデーヴはスィッドゥー以外の7人の参加者を殺害し、スィッドゥーと一対一の対決をする。スィッドゥーは勝利し、デーヴは爆死する。こうしてスィッドゥーはマイダーンの新しいチャンピオンになる。
「イカゲーム」で世界的に有名になったサバイバルゲーム映画というジャンルだが、別に「イカゲーム」がそのジャンルの創始者というわけでもない。日本にも「バトル・ロワイヤル」(2000年)など早い例がある。思い起こしてみれば、ヒンディー語映画にも「Luck」(2009年)というサバイバルゲーム映画があった。しかしながら、時期的に「Crakk」が「イカゲーム」の影響を受けていることは否定できないだろう。
「イカゲーム」が基本的に韓国人参加者によるゲームだったのに対し、「Crakk」では世界各国から参加者が集められる。しかも、彼らがプレイするのは危険なエクストリームスポーツであり、命の保証はない。そのため、スタントアクションに長けた者が集められていた。そのゲームは「マイダーン」と呼ばれていた。レースの様子はネット中継で世界中に配信され、視聴者の中にはそのレースの勝者を賭博の対象にしている者もいた。
主人公スィッドゥーは、優れた運動神経を持っていたものの、それをスポーツや就職には使わず、ひたすら仲間たちとスタントアクションをして過ごしていた。といっても無為に過ごしていたのではなく、彼にはちゃんとした目的があった。4年前、マイダーンに出場し決勝戦まで勝ち進みながらもレース中に死んだ兄ニハールの、成し遂げられなかった夢を叶えることだった。マイダーンに出場するには、スタントアクションの才能を認められてスカウトされなければならない。スカウターの目に留まるようにと、彼は日頃からスタントアクションを録画してネットにアップロードしていたのだった。そしてある日遂に彼にも声が掛かる。
純粋にマイダーンのゲームを見せてくれてもそれなりに面白かったのではないかと思うが、それ以外にいくつかの要素が絡み合うことになる。まず、マイダーンの主催者デーヴはマイダーンというプラットフォームを使って裏でプルトニウムの密売を行おうとしていた。マイダーンはポーランドで開催されたが、ポーランド警察はマイダーンを監視対象にしており、プルトニウムの押収にも乗り出す。また、デーヴの上にはマイダーンの創始者であり、デーヴの父代わりでもあるマークという黒幕がいた。マイダーンの進行中、デーヴはマークに反旗を翻し、実権を掌握する。スィッドゥーは、兄の死は事故ではなく殺人だったと知り、その実行犯であるデーヴに復讐しようとしていた。ポーランド警察にプルトニウムを押収されたデーヴは憤り、その怒りの矛先をスィッドゥーに向ける。こうしてデーヴとスィッドゥーの間には互いに敵意が芽生え、最後にはこの二人が直接対決することになる。
ヴィデュト・ジャームワールとアルジュン・ラームパールの対決はこの映画の最大のハイライトだ。元々アクション俳優として名高いヴィデュトと、渋い美形に進化したアルジュンがエクストリームスポーツで激突する。
しかしながら、多くの要素を詰め込みすぎたためにそれぞれが消化不良になってしまっており、散漫とした映画になってしまっていた。アーディティヤ・ダット監督が約10年前に撮った「Table No.21」もサバイバルゲーム映画であったが、こちらにはラギング撲滅という社会的メッセージが込められていた。「Crakk」は純粋な娯楽映画であり、何らかのメッセージ性は感じなかった。そういう意味でも退化を感じた。
アイテムガールとして有名になったノラ・ファテーヒーは最近、単なるダンス要員ではなく、ちゃんと女優として起用されることが目立ち始めた。彼女なりにイメージチェンジを狙っているのだろうか。エイミー・ジャクソンはヒンディー語をしゃべるポーランド人女性警官役を演じた。さらに、コメディアン俳優ジョニー・リーヴァルの娘ジャミー・リーヴァルが端役で出演していたことにも注目したい。
「Crakk」は、主演ヴィデュト・ジャームワールがパルクール、ロッククライミング、自転車レースなどをこなし、抜群の運動神経を徹底的に見せつける「イカゲーム」型のサバイバルゲーム映画だ。ただ、多くの要素を詰め込み過ぎた印象を受ける。ヴィデュトが飛んだり跳ねたりする様子を純粋に観るだけの方が逆に良かったかもしれない。ヴィデュトのアクションを楽しむのが目的ならアリの作品だ。