「Silence… Can You Hear It?」(2021年)はZee5が製作しOTT配信されたクライムサスペンス映画である。コロナ禍のロックダウンによって映画館が閉鎖されたときにリリースされ、主演マノージ・バージペーイーなどの演技が高い評価を得たが、個人的にはこれといって特徴のない作品に映った。ちなみに、「沈黙」という意味の題名になっているが、これは事件の重要な参考人が昏睡状態に陥り言葉を発せられない状態にあったことを指していたと思われる。
2024年4月16日にZee5で配信開始された「Silence 2: The Night Owl Bar Shootout」は、「Silence」の続編である。監督は前作と同じアバーン・バルチャー・デーオハンスであり、主要キャストも引き継がれている。すなわち、マノージ・バージペーイー、プラーチー・デーサーイー、サーヒル・ヴァイド、ヴァカール・シェークである。他に、ディンカル・シャルマー、パールル・グラーティー、チェータン・シャルマー、パダム・ボーラー、スルビ・ローラー、シュルティ・バープナー、イシカー・マンディープ・ガグネージャーなどが出演している。
ムンバイー警察の特別犯罪班(SCU)を率いるアヴィナーシュ・ヴァルマー警部(マノージ・バージペーイー)は、大臣の秘書が射殺された事件を担当することになる。秘書はナイト・オウル・バーでジャーナリストと会食中、何者かに射殺された。その際、バーにいた他の人も殺された。
ヴァルマー警部は、殺し屋の標的が秘書ではなく、そのときバーにいて殺されたアーズマー・カーン(スルビ・ローラー)という女性だったのではないかと疑う。ヴァルマー警部は部下のサンジャナー・バーティヤー警部補(プラーチー・デーサーイー)と共にアーズマーの友人リズワーン(チェータン・シャルマー)に聴取をし、アーズマーがエスコートガールをしていたこと、殺される前に顧客から顔を殴られていたことなどの情報を得る。アーズマーの家は何者かに荒らされた跡があった。犯人はアーズマーが所持する何かを探していたと思われた。
アーズマーと交遊のあったアミーシャー(イシカー・マンディープ・ガグネージャー)は、ヴァルマー警部とバーティヤー警部補と会った直後に殺されてしまう。だが、アミーシャーの証言からは、巨大な人身売買組織が裏にあることがうかがわれた。
ヴァルマー警部たちはアーズマーの実家へ行き、彼女が死の直前に母親に送ったデータを手に入れる。そこには女性の遺体の写真があった。ヴァルマー警部はすぐに思い付き、ジャイプルの警察署に勤めるジャヤー・ラーワル警部補(シュルティ・バープナー)に連絡を取る。その女性はジャイプルにて遺体で発見されたターラーというエスコートガールであった。
ヴァルマー警部は、ムンバイーからジャイプルに数人の若い女性たちが飛行機で移動していることを察知し、エスコートガールだと勘付く。ヴァルマー警部とバーティヤー警部補はジャイプルに飛び、ラーワル警部補と共に女性たちを救い出す。その過程で、人身売買組織の元締めがアルジュン・チャウハーンという人物であることが分かる。
ムンバイーに戻ったヴァルマー警部はアルジュン・チャウハーン(ディンカル・シャルマー)が社長を勤める会社に踏み込む。だが、アルジュンは演劇マニアの精神異常者で、会社から一歩も外に出ていなかった。アルジュンの異父姉アールティ(パールル・グラーティー)の夫ラージーヴ・スィン(パダム・ボーラー)はアーズマーと接点があったが、彼が犯人とは思えなかった。しかしヴァルマー警部は様々な証拠からアールティこそがアルジュン・チャウハーンであると断定する。アールティは知能の高い女性であったが、レズビアンであったために亡き父親から疎まれ、前妻の子アルジュン・チャウハーンが会社の後継者になった。アールティはエスコートガール供給のために人身売買に手を染め、多くの女性たちの人生を狂わしてきたのだった。言い逃れできなくなったアールティは会社の屋上から飛び降り自殺をする。
前作に引き続き、切れ者の警察官ヴァルマー警部の推理を楽しむクライムサスペンス映画である。冒頭から事件の黒幕となる男性をはっきり見せず、匂わせるだけにしておいて、その候補となる人物を複数用意してこれ見よがしに見せる。だが、最後の最後で明かされた真の黒幕は全く異なる人物で、しかも性別まで違った。物語の組み立て方は手が込んでいた。
しかしながら、この真犯人は反則に近い。終盤になって突然現れる人物が真犯人になっているのだが、ここまで緻密にカモフラージュをしているのなら、堂々と序盤から登場させるべきだった。観客は真犯人は男性だと思い込んでいるはずなので、彼女が出て来ても誰も彼女を真犯人だとは考えないだろう。ネタバレを恐れて慎重になり過ぎたためにクライムサスペンス映画として反則になってしまっていた。また、真犯人の自殺でもって物語を手っ取り早く終えてしまっていたことも残念だった。司法による裁きを受けさせた上で、裏社会で暗躍していた人身売買組織の解体まで見せるべきだった。
「Silence 2」で取り上げられていた犯罪は、若い女性たちの人身売買であった。「女優になれる」などという口車に乗せられて集められた若い女性たちをエスコートガールにして搾取する犯罪組織の存在が想定されていた。当初、顧客は処女を求めるアラブ人大富豪などであったが、最近はカジュアル化が進み、インド人男性たちからも注文が入るようになっていた。特に、結婚前に男性たちが行うバチェラーパーティーに「初夜前のお楽しみ」として提供されることが多いという。
ユニークなのは、女性を商品化して搾取する犯罪組織を女性が運営していたことである。もっとも、彼女はレズビアンであり、それが原因で倒錯した価値観を持っていた。父親からは愛されず、異父弟には会社を乗っ取られ、無理に男性と結婚までさせられた。彼女は女性を束縛から解放するため、エスコートガールにして搾取をしていたのである。
その一方で、この映画には男性たちに児童性的虐待保護法(POCSO)の存在を知らしめる目的もありそうだった。これは、18歳未満の子供を性的虐待や性的犯罪から保護することを目的として2012年に制定された法律で、18歳未満の子供との性行為は全てレイプ扱いになる。映画中、バチェラーパーティーで提供された女性たちは15-6歳であり、POCSOによって厳罰の対象となる。被害者が16歳未満ならば20年以上、18歳未満ならば10年以上の禁固刑になる。バチェラーパーティーに参加した男性の一人は未成年の女性と性行為をさせられることを恐れており、POCSOについてスマホで検索したりしていた。
「Silence 2」は完全にマノージ・バージペーイーの映画である。頭脳明晰かつ厳格な警察官でありながら、時に激しい感情を発露する人間らしさも持ち合わせたヴァルマー警部をバランスよく演じ切っていた。並の俳優ではできない演技である。出番は少なかったものの、アールティを演じたパールル・グラーティーも見せ場をモノにしていた。
「Silence 2: The Night Owl Bar Shootout」は、OTTスルー作品全盛期に話題になったクライムサスペンス映画「Silence… Can You Hear It?」の続編であり、マノージ・バージペーイーの絶妙な演技が光る作品だ。真犯人は全く予想できず、その組み立ては素晴らしいが、反則な人物が真犯人であり、その点には強い不満を感じた。惜しい作品である。