Mission Raniganj

3.0
Mission Raniganj
「Mission Raniganj」

 2023年10月6日公開の「Mission Raniganj」は、1989年に西ベンガル州西バルダマーン県のラーニーガンジにあるマハービール炭鉱で起こった事故を題材にした実話系のドラマ映画である。この周辺にはいくつもの炭鉱があり、英領植民地時代から採炭が行われてきた。しかしながら、炭坑に潜って炭を掘るのは危険な仕事であり、事故も多かった。たとえば、1975年12月27日にビハール州(現ジャールカンド州)ダンバード近くのチャースナーラー炭鉱で起こった事故では、坑道に水が流れ込み、375名の炭鉱夫が死亡した。「Mission Raniganj」が描くのは、1989年11月13日にマハービール炭鉱で起こった事故だが、このときには鉱山技術士ジャスワント・スィン・ギルの活躍により、人的被害が最小限に抑えられた。この映画は彼の英雄譚である。

 プロデューサーはヴァーシュ・バグナーニーやジャッキー・バグナーニーなど。監督は「Rustom」(2016年)のティーヌー・スレーシュ・デーサーイー。主演はアクシャイ・クマールで、ヒロインはパリニーティ・チョープラーである。この二人が共演するのは「Kesari」(2019年/邦題:KESARI ケサリ 21人の勇者たち)以来だ。他に、クムド・ミシュラー、パヴァン・マロートラー、ラヴィ・キシャン、ヴァルン・バドーラー、ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ、ラージェーシュ・シャルマー、ヴィーレーンドラ・サクセーナー、シシル・シャルマー、アーリフ・ザカーリヤー、スディール・パーンデーイ、オームカル・ダース・マニクプリーなどが出演している。

 1989年11月13日、ラーニーガンジにあるマハービール炭鉱で、坑道内に大量の水が流れ込む事故が発生する。事故発生時、坑道内には232名の炭鉱夫が作業をしていたが、その内の161名は地上に脱出することができた。残りの71名の安否は不明だった。

 鉱山技術士のジャスワント・スィン・ギル(アクシャイ・クマール)は現場に駆けつけ、ラーニーガンジの炭坑を管理する東石炭社(ECL)のウッジュワル社長(クムド・ミシュラー)に対し、炭鉱夫救出のためのアイデアを考案する。しかしながら、ラーンチーから派遣された役人セーン(ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ)はウッジュワル社長に恨みを持っており、彼やギルの足を引っ張ることにする。セーンは別の救出作戦を提案する。鉱山安全局のオーム・チャクラヴァルティー局長(アーリフ・ザカーリヤー)は両方の案を承認し、二方面作戦で炭鉱夫たちを救出することになる。

 ギルは、炭鉱夫たちが坑道の最高地点に避難しているという前提で、地上からそこまで垂直の穴を掘り、炭鉱夫たちの無事を確認した後、人一人が入るカプセルを降ろして一人一人救出するというものだった。一方、セーンの案は、炭鉱夫たちが作業場所にそのまま留まっているものとして、そこまで大型のカゴを降ろすというものだった。

 早々にセーンの案は失敗する。ギルは、掘削技師のビンダル(パヴァン・マロートラー)や測量技師のタパン・ゴーシュ(ヴィーレーンドラ・サクセーナー)を呼び寄せ、最高地点の真上から垂直に穴を掘る。紆余曲折はあったものの、最終的に65名の炭鉱夫たちの無事が確認できた。ギルは、今度はカプセルの作成を指示し、救出作戦に入る。一方、セーンは最高地点まで水平にトンネルを掘って救出する案を提案するが、これも失敗する。

 カプセルを地中に降ろすためにはセーンが所有するクレーンが必要だった。だが、セーンはギルの作戦を妨害するため、クレーンをわざと修理に出してしまっていた。そこでギルのチームは人力でカプセルを上げ下げすることにする。ギルがカプセルに入って坑道まで下り、指揮を執る。炭鉱夫たちが次々に救出されるが、最高地点にも水が迫り、ガスも充満し始めていた。

 セーンを裏で操っていたインド石炭社(CIL)のダヤール技術課長(シシル・シャルマー)は、一転してギルに協力的になり、セーンにクレーンを早く持って来るように命令する。クレーンが来たことで救出のスピードが上がる。65名の炭鉱夫全員を救出した後、最後にギルが地上に上がる。65名の炭鉱夫を救ったギルは英雄となり、最高人命救出勲功賞を受賞する。

 鉱山技術士ギルの活躍により事故で坑道に取り残された65名の炭鉱夫が救出されたこの出来事は、インドの炭鉱史においては燦然と輝く偉業とされているようだが、一般に認知されているとは思えない。この映画が取り上げたことで改めて周知されたというのが実態であろう。2018年にタイで13名が洞窟の中に閉じ込められ、世界各国のレスキューチームによって救出された事件があった。何となくそのインド版という発想から作られた映画のような気がする。

 この映画の描写が史実通りだと仮定するならば、65名の炭鉱夫を救出できたのは、ギルの機転と勇気のおかげであった。まず、カプセルを使った救出というのはインドでは過去に例がなく、失敗するリスクのある挑戦であった。そして、ギル自身が最初にカプセルに乗り込んで地中に降り、炭鉱夫たちを励ましながら、彼らの脱出を手助けした。彼はこの業績により「カプセル・ギル」の愛称を与えられ、英雄として讃えられるようになった。この辺りは実話であるようだ。

 一方、映画ではギルの足を引っ張る悪役が存在した。こちらは物語を盛り上げるためのフィクションだと信じたい。事故があった炭鉱は、石炭省下の公共部門であるインド石炭社(CIL)、そしてその子会社の東石炭社(ECL)が管理していた。おそらく事故の裏には杜撰な管理体制も原因としてあったのではないかと思うが、これらに対する批判色は薄かった。

 残念だったのは特殊効果の稚拙さだ。坑道内に大量の水が流れ込むシーンはこの映画の技術的なハイライトだが、予算をケチったのか、現代の標準から著しく外れるクオリティーのCGであった。また、登場人物が多い割にはそれぞれの説明が矢継ぎ早に行われる不親切設計だったのもマイナスポイントだ。ストーリーテーリングも映画より舞台劇に近いぎこちなさを感じた。

 アクシャイ・クマールは好演していたといえるが、演技面で目立ったのは炭鉱夫たちを演じた俳優たちだ。特にボージプリー語映画界のスター、ラヴィ・キシャンの存在感が圧倒的だった。悪役のセーンを演じたディビエーンドゥ・バッターチャーリヤも良かった。

 ギルの妻ニルドーシュ役を演じたパリニーティ・チョープラーは完全に無駄遣いだ。ギルの無事を信じて疑わない強い女性という設定だったが、ほとんど出番らしい出番はなかった。

 「Mission Raniganj」は、西ベンガル州の炭鉱で起こった事故と、その際に自身の命の危険を顧みず人命救助に尽力した鉱山技術士の活躍を描いた映画である。知られざる英雄を世間に知らしめる効果はあり、映画が作られた意義はあるが、映画の完成度は高くない。興行的にも失敗に終わった。駄作ではないが、不足も目立つ映画である。