2018年3月2日公開の「Veerey Ki Wedding(ヴィールの結婚式)」は、主人公ヴィールの結婚を巡るドタバタ劇を描いたコメディー映画である。この映画の公開から3ヶ月後に「Veere Di Wedding」(2018年)というよく似た題名の映画が公開されたが、全くの別物なので注意して欲しい。
監督は「Baabarr」(2009年)などのアーシュ・トリカー。今まではシリアスな映画を撮ってきたが、今回はコメディー映画に挑戦している。
主演はプルキト・サムラートとクリティ・カルバンダー。他に、ジミー・シェールギル、サティーシュ・カウシク、ユヴィカー・チャウダリー、パーヤル・ラージプート、アビシェーク・ドゥハン、ラージェーシュ・バクシー、スプリヤー・カールニク、ミッキー・マキージャーなどが出演している。
ヴィール・アローラー(プルキト・サムラート)は正義感あふれる若者で、悪者がいたら打ちのめし、貧しい人々がいたらお金を分け与えてしまう癖があった。父親のプラブ(ミッキー・マキージャー)はヴィールを早く結婚させようと考えていた。ヴィールにはギート・バッラー(クリティ・カルバンダー)という恋人がおり、プラブも彼女を気に入っていた。 ギートは、菓子屋を営むゴーピーチャンド(サティーシュ・カウシク)の娘だった。ゴーピーチャンドは非暴力主義者であり、ヴィールが悪者を打ちのめしているところを見て、彼と娘の結婚を拒絶する。 ヴィールにはバッリ(ジミー・シェールギル)という従兄がいた。自動車ディーラーをするバッリは過去のトラウマから女性嫌悪に陥っていたが、リンキー・ヴォーラー(パーヤル・ラージプート)と出会い結婚を決める。だが、リンキーは昔の恋人ティッルーとよりを戻し、バッリは振られてしまう。 ゴーピーチャンドはギートを、KK建設のKK社長(アビシェーク・ドゥハン)と結婚させようとする。実はKK社長はゴーピーチャンドが所有する70エーカーの土地を狙っていたが売却を断られ続けていた。KKは、ギートと結婚することでその土地を手に入れようと画策していた。だが、その企みがゴーピーチャンドに知られてしまい、彼はKKとギートの結婚を破談にする。そしてギートをヴィールと結婚させることにする。 KKは、叔父のランギーラー(ラージェーシュ・バクシー)や悪漢たちと共にヴィールとギートの結婚式に乱入する。ヴィールは勇敢に戦ってKKを撃退し、バッリはランギーラーを説き伏せ、彼に悪行から足を洗わせる。また、現場に踏み込んできた敏腕女性警官ラーニー・チャウダリー警部補(ユヴィカー・チャウダリー)の働きぶりにバッリは感心し、二人は結婚することを決める。こうしてヴィールとギート、バッリとラーニーの結婚式が同時に行われた。
編集がまずいせいで所々で話が飛び、いまいちつながりがよく分からなくなることがある、お粗末な映画だ。ヒンディー語のコメディー映画でよく見られる、総員登場で繰り広げられるカオスなラストシーンも突っ走りすぎて観客を置いてけぼりにしている。もう少しきちんと脚本を練ってから撮影に臨むべきだったのでは、と偉そうな助言をしたくなる出来の映画だ。
ストーリーの軸となるのはヴィールとギートの恋愛だ。そして二人の結婚の障害となるのが、ギートの父親ゴーピーチャンドの存在である。ゴーピーチャンドは摩訶不思議なキャラだ。妻の元恋人の名前が「プラブ」だったため、彼は「プラブ」という単語を聞くだけで発作を起こす。「プラブ」は「神様」という意味であり、インド人が日常的によく口にする単語だ。よってゴーピーチャンドは苦労している。ゴーピーチャンドのこの不思議な病気が何らかの伏線になっているものと思って映画を見守るのだが、単にしつこく笑いを取るだけで、結局これが何か重大な役割を果たすこともなかった。
むしろヴィールとギートの結婚を難航させていたのは、ゴーピーチャンドが非暴力主義者だったことだ。彼は、暴力を振るう男性に絶対に娘を嫁入りさせないと決めていた。ヴィールは正義のために悪漢と戦うことはあったが、決して暴力的な人物ではなかった。それでも、たまたまヴィールが悪漢を打ちのめしているところを見てしまい、彼は娘の夫としてふさわしくないと考え、その判断にずっと固執することになったのである。
よりによってゴーピーチャンドが娘の結婚相手に選んだのが、表向きは建築会社の社長を務めるが実態はマフィアのKKであった。ゴーピーチャンドとKKは偶然出会い、ゴーピーチャンドの方からKKに娘の縁談を持ちかけたのだが、なぜか途中からKKがゴーピーチャンド所有の土地を狙ってギートとの結婚を画策していることになってしまっていた。
バッリの存在も全く活かせていなかった。バッリは両親を亡くし、ヴィールの父親プラブが彼を引き取って育ててきた。バッリとヴィールは従兄弟である以上に師匠と弟子の関係であり、プラブはヴィール以上に寛大かつ正義感が強かった。だが、バッリがヴィールとギートのエピソードに絡んでくることはほとんどなく、なぜ存在しているのか謎であった。
このように、「Veerey Ki Wedding」はストーリーに一貫性がなく、まるで思い付きで撮影した後に映像をつなげて何とかひとつの映画にまとめたような、パッチワークを思わせる構成であった。この映画のストーリーを真面目に論じる方のは不可能だ。
それでも俳優たちは自分に与えられた仕事をしっかりこなしていた。プルキト・サムラート、クリティ・カルバンダー、ジミー・シェールギル、サティーシュ・カウシクなど、好演していた。特に目を引いたのはユヴィカー・チャウダリーだ。「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)での脇役出演があまりにインパクトが強く、その後なかなか主役がオファーされず、脇役女優としてくすぶることになった不運の女優だが、今回はヒンディー語の一方言であるハリヤーンヴィー語を話す女性警官を面白おかしく演じており、彼女の新しい一面を見られた気がする。
似た題名の「Veere Di Wedding」にはカリーナー・カプールやソーナム・カプールといったA級のスターたちが出演している。それに比べて「Veerey Ki Wedding」の方はA級のスターが不在の中規模な映画であったが、ダンスシーンには力が入っていた。登場人物の大半はパンジャーブ人であり、結婚式もパンジャーブ式だったため、音楽はバングラー調で、ノリのいいダンスナンバーが多かった。有名な曲や人気の曲はないが、十分に映画を盛り上げていた。
「Veerey Ki Wedding」は、似た名前の映画があることで多少話題性があるが、そちらに比べるとスターパワーに劣る映画だ。そして何より脚本もしくは編集がまずく、ストーリーがつぎはぎだらけである。プルキト・サムラートやクリティ・カルバンダーといった若手俳優たちの頑張りを監督が活かしてあげられなかった。惜しい映画である。