Prince

2.0
Prince
「Prince」

 2001年にインドに住み始めて以来ヒンディー語映画をずっと見て来ているが、その初期の頃にデビューして今までずっと業界に残っている俳優たちは、自分のインドでの映画人生とどこか感情的にシンクロしており、心の底で密かに応援している。男優の中では、「Deewaanapan」(2001年)でデビューしたアルジュン・ラームパールと、「Company」(2002年)でデビューしたヴィヴェーク・オーベローイがそれに該当する。アルジュン・ラームパールは長年フロップ続きだったのだが、「Om Shanti Om」(2007年)や「Rock On!!」(2008年)の成功を受けて、もはや簡単には崩れない地盤を築き上げた。一方、ヴィヴェーク・オーベローイは、デビュー当初は当たりに当たっており、挙げ句の果てには当時絶頂期にあったアイシュワリヤー・ラーイの心を射止めた。しかし、次第にフロップを連発するようになり、2006年にアイシュワリヤーと破局してからはどん底に落ちてしまった。「Omkara」(2006年)や「Mission Istaanbul」(2008年)などで脇役を渋く演じていたが、一時の勢いはなく、その内「あの人は今」状態になってしまうのではないかと心配していた。

 ところが突然のヴィヴェーク復活である。本日(2010年4月9日)より公開の「Prince」は、完全なるヴィヴェーク主演アクション娯楽大作。美女3人を従えたハイテク泥棒という役で、ハリウッド並みの迫力あるアクションシーンが目白押しとのことであった。ヴィヴェークにまだこんなおいしい役がオファーされるほど力が残っていたとは!しかし、主演しただけで満足してはいけない。これをヒットさせなければ、彼の商品価値は以前にも増して低下するだろう。

監督:クーキー・V・グラーティー
制作:レーヌ・タウラーニー、クマールSタウラーニー
音楽:サチン・グプター
歌詞:サミール
アクション:アラン・アミーン
振付:ボスコ=シーザー、ポニー・ヴァルマー
衣装:ナレーンドラ・クマール・アハマド
出演:ヴィヴェーク・オーベローイ、アルナー・シールズ、ナンダナー・セーン、ニールー・スィン、イザヤ、サンジャイ・カーン、ダリープ・ターヒル、ラージェーシュ・カッタル、マユール・プリー、マニーシュ・アーナンド、モーヒト・チャウハーン
備考:サティヤム・シネプレックス・ネループレイスで鑑賞。

 世界を股にかけた大泥棒プリンス(ヴィヴェーク・オーベローイ)は、ある日南アフリカ共和国ダーバンにある自宅で記憶を失った状態で目を覚ます。家にはPK(マーユル・プリー)という使用人が1人おり、彼の名前をプリンスだと教える。だが、他のことは一切分からなかった。

 病院へ記憶喪失の原因を探りに行ったプリンスはインドの諜報機関IGRIPに捕らえられる。IGRIPの長カンナー大佐(ダリープ・ターヒル)はプリンスに金貨の在処を聞く。知らないと主張するプリンスの記憶を調べたが、本当に彼の脳から過去1日前の記憶が消去されていた。カンナー大佐は4日以内に金貨を手に入れるように命じ、プリンスを釈放する。

 釈放されたプリンスは、マーヤー(ニールー・スィン)という女性と接触する。マーヤーはプリンスの恋人だと自己紹介し、プリンスの過去を話す。彼は、世界中の裏社会を支配するマフィアのドン、サーラング(イザヤ)の右腕で、彼が宝物にしていた金貨を奪って逃げ出したのであった。プリンスは、金貨を探し出したらまたマーヤーに連絡することにし、その場は別れる。

 ところが自宅に戻ったプリンスに、マーヤー(ナンダナー・セーン)と名乗る別の女性から電話が掛かって来た。このマーヤーによれば、プリンスはインドの捜査機関CBIのエージェントで、サーラングを逮捕するための囮捜査中とのことであった。そしてやはりこのマーヤーも、自分はプリンスの恋人だと主張する。プリンスは彼女の言うことを信じ、とりあえず金貨を探すことにする。プリンスが自宅を捜索していると、地下に秘密の部屋を発見する。そこには泥棒のためのハイテク機器がズラリと並んでいた。

 また、プリンスは靴のかかとに金貨が隠されていたのを発見する。早速マーヤーに連絡し、サーラングに受け渡すことにする。ところがその金貨は偽物であることが発覚する。また、マーヤーはサーラングの仲間であり、実はサリーナーという名前であった。使用人だと思っていたPKまでもがサーラングの手下であった。プリンスは殺されそうになるが、そのとき1人の女性が上空からプリンスを助けに来る。プリンスは隙を見て脱出し、その女性と逃げる。逃げ切ったところで女性は自分の名前をマーヤー(アルナー・シールズ)と自己紹介する。

 このマーヤーの話では、プリンスと彼女は泥棒コンビで、サーラングと共に仕事をしていた。二人は引退することを決めたが、サーラングがそれを許さなかった。そこでアリー・カーン警部補(サンジャイ・カーン)と取引し、サーラングを逮捕させる代わりに自分たちの犯罪歴を帳消しにする契約を結んだ。折りしもサーラングから金貨を盗む仕事を依頼され、それをこなす。しかし、アリー・カーン警部補と取引していたことがサーラングにばれており、二人は捕らえられてしまう。実は金貨の中には、人間の記憶を自由に操作できるチップが隠されており、サーラングはそれを求めていた。彼はプリンスを実験台として、彼の脳から記憶を全て消去してしまう。隙を見てプリンスとマーヤーは金貨を奪って逃げ出したが、その途中で二人は離れ離れになってしまい、金貨も行方不明になってしまったのだった。プリンスはアリー・カーン警部補とも密会し、事件の全貌を聞く。金貨の売買には、シェリー(ラージェーシュ・カッッタル)という別のマフィアも関わっていた。だが、記憶を消去されたプリンスには6日間しか命が残されていないことも分かる。6日以内に記憶を取り戻さなければ、彼は死んでしまうのであった。記憶のデータはサーラングの手の内にあり、金貨と交換でそれを受け渡すと通達された。

 プリンスは、残された手掛かりから真の金貨の隠し場所を見つけ出す。だが、そこへサリーナーとシェリーがそれぞれ手下を連れて現れ、金貨を奪おうとする。プリンスとマーヤーは逃走するが、プリンスは発作が起きて倒れ、その隙に連れさらわれてしまう。だが、金貨はマーヤーの手元に残った。マーヤーにコンタクトして来たのは、最初にマーヤーに扮装してプリンスに近付いた女だった。彼女は本名をプリヤーと言い、チップ開発と盗難に携わったマイク(マニーシュ・アーナンド)の恋人であった。プリンスをさらったのもプリヤーとマイクであった。マイクはプリンスの記憶データをコピーして持って来ていた。マーヤーはプリヤーと落ち合い、金貨のチップを使ってプリンスの記憶を元に戻そうとする。その前にプリヤーは金貨を奪って逃げようとするが、それは偽の金貨であり、しかも逃げる途中にサーラングらに殺されてしまう。プリンスの記憶復元が行われている中、サーラングがやって来て金貨を奪い、逃げる。そこへはIGRIPのカンナー大佐やアリー・カーン警部補も来ており、銃撃戦が繰り広げられるが、サーラングを逃がしてしまう。この銃撃戦の中で意識を取り戻し、記憶も戻っていたプリンスは、IGRIPの使用している銃が空砲だったことに気付き、カンナー大佐もサーラングの一味であることに気付く。

 サーラングは逃亡してしまったが、プリンスは密かにサーラングに発信器を付けることに成功していた。その発信器を辿ってサーラングを追跡し、彼らの車列に砲撃を加える。プリンスとサーラングは激流の上で死闘を繰り広げ、とうとう彼の義手から金貨を奪い取る。サーラングは滝壺に呑まれてしまった。

 チープなアクション映画であった。努力は感じられたが、ハリウッド映画を見慣れた世代の目には子供だましに映るだろう。学校の宿題ではないので、努力賞はない。ヒットする可能性は低いだろう。

 もしキャストをもう一段階上の俳優にグレードアップしていたら、まだ華やかな映画になっていただろう。指標となるのは「Race」(2008年)辺りか。サイフ・アリー・カーン、アクシャイ・カンナー、アニル・カプール、カトリーナ・カイフ、ビパーシャー・バス、サミーラー・レッディーが主演の「Race」は、「Prince」とアクションやストーリーの面でそんなに違いはなかったが、スターパワーがあったためにヒットとなった。「Prince」の主演ヴィヴェーク・オーベローイには一人で大勢の観客を映画館に呼び込むほどのカリスマ性はないし、3人のヒロインも知名度が低く、ゴージャスさにも欠けた。

 記憶を失ったスーパー泥棒という設定は、「ロング・キス・グッドナイト」(1996年)と似ている。ハイテク泥棒という設定は、「007」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズを彷彿とさせるし、「マーヤー」を名乗る3人のヒロインがプリンスの過去を3通りに語るという展開は、黒澤明監督「羅生門」(1951年)から始まった伝統的な手法である。また、これはオマケであろうが、プリンスの秘密地下室にはバットマンの絵が飾られていた。古今東西の名作のいいとこどりをしたようなストーリーであったが、取って付けたような強引なアクションが多く、そもそもアクション映画としての質に疑問符が付いていた。

 ヴィヴェーク・オーベローイからはスーパーヒーローの風格が感じられなかった。物語のかなり初期で突然記憶喪失になってしまい、スーパーヒーロー振りが発揮できなかったと言い訳されるかもしれないが、記憶を失ってもにじみ出るヒーローのオーラが欲しかった。むしろ悪役サーラングを演じたイザヤの方が迫力があった。

 ヒロインは3人いるが、メインヒロイン級と言えるのが、最後のマーヤーかつ真のマーヤーを演じたアルナー・シールズであろう。英国生まれのアングロ・インディアンだが、欧米で数本の映画に出演しており、本作がヒンディー語映画でのデビュー作となる。顔は地味だが、マーシャルアーツなどのたしなみがあるようで運動神経は良さそうだった。アクションが得意な女優ということで希少価値はあるだろうが、インド映画で使いやすい女優ではないように感じる。

 準ヒロインはナンダナー・セーンになるだろう。ノーベル賞受賞経済学者アマルティヤ・セーンの娘であり、既にいくつかの映画に出演している。3人の中ではもっともセクシーな演技に挑戦していたが、やはり地味な外観であるため、この手の映画に必要なゴージャスさに欠けた。3人目のニールー・スィンについては多くの情報はなく、出番ももっとも少なかった。

 音楽はサチン・グプター。パーキスターン人歌手アーティフ・アスラムが多くの曲でボーカルを務めている。アクション映画を盛り上げる勇壮な曲や、3人のヒロインをそれぞれ象徴するセクシー系な曲などがあったが、メロディーが単調で代わり映えせず、音楽で魅せる映画にはなっていなかった。歌い方に特徴のありすぎるアーティフ・アスラムの使いすぎもその一因だったと思う。

 ちなみに「Prince」はヒンディー語、タミル語、テルグ語の3言語同時公開となっている。公式ウェブサイトも気合いが入っており、予告編を上記3言語で見られるようになっているし、普通のヒンディー語映画公式ウェブサイトでは英語のみで書かれているところをヒンディー語も併記されている。こういう多言語志向は応援したい。

 「Prince」は、ヒンディー語映画がハリウッド並みのアクション映画を一生懸命作ろうとしている途上過程の作品だと言える。「Dhoom: 2」(2006年)でかなり近付いたと思ったが、「Prince」ではまた後退してしまっている。一段階上のスターパワーがあれば何とか押し切れた部分があったと思われるために惜しい。ヴィヴェーク・オーベローイのファンでなければ観る意味はないだろう。やっと浮上しかけたヴィヴェークはこの映画でまた沈むと予想される。


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