Phhir

2.0
Phhir
「Phhir」

 2011年8月12日公開の「Phhir(再び)」は、ヒットしたホラー映画「1920」(2008年)でデビューしたラジニーシュ・ドゥッガルとアダー・シャルマー主演のサスペンス映画である。触れた物体から過去や未来のビジョンを見る透視能力や輪廻転生がストーリーに組み込まれている。

 監督はギリーシュ・ダミージャー。台詞作家であり、「Gangster」(2006年)や「1920」などの台詞を書いてきている。監督をしたのはこれが初めてだと思われる。脚本はダミージャー監督の他にヴィクラム・バットなどが手掛けている。キャストは、ラジニーシュ・ドゥッガルとアダー・シャルマーの他に、ローシュニー・チョープラー、パラーグ・ティヤーギー、モーハン・アーガーシェーなどである。

 舞台は英国ニューキャッスル。著名な医師カビール・マロートラー(ラジニーシュ・ドゥッガル)は、妻のスィヤー(ローシュニー・チョープラー)と夕食を待ち合わせたが、約束の時間に遅れてしまう。そのとき以来、スィヤーは行方不明になり、カビールは必死になって探す。翌日になっても見つからなかったため、警察に捜索願を出す。パーキスターン人の警察官アースィフ・シェーク(パラーグ・ティヤーギー)が事件の担当になる。

 カビールのところにディシャー(アダー・シャルマー)という女性から電話が掛かってくる。ディシャーはスィヤーのことで助けたいと申し出る。カビールに会ったディシャーは、自分は物体に触れると過去や未来のビジョンが見えると語る。カビールはそれを信じず、立ち去る。だが、アースィフもディシャーのその特殊能力を活用して事件を解決していた。すぐにカビールもディシャーを信じるようになる。

 ディシャーの特殊能力により、カビールとスィヤーの共通の友人モニカが事件に関わっている可能性が高まり、彼女を訪ねるが、モニカは死んでいた。カビールのところに電話が掛かってきて、身代金を要求される。警察は偽の身代金を餌にして犯人を捕まえようとするが、全て見透かされており、失敗に終わる。

 ディシャーは再びスィヤーの居所を察知し、カビールを「インディア・マンション」という邸宅に連れて行く。そこには白骨化した遺体があった。実はカビールは前世でこの邸宅に住んでいた。彼は妻の貞操を疑い、彼女を殺すが、後に友人から騙されたことが分かる。彼は妻の遺体の前で自殺する。インディア・マンションにあったのは前世のカビールの妻の遺体であった。

 その後、犯人から再び身代金の要求があり、カビールはそれを渡しに行く。だが、そこに現れたのはスィヤー自身であった。実はスィヤーは大富豪であるカビールの父親から資産を騙し取ろうとしていたのだった。カビールは殺されそうになるが、危険を察知したディシャーはカビールを助ける。暴漢たちとの乱闘になるが、最後はカビールが瀕死の重傷を負いながらもディシャーを助ける。

 スィヤーはアースィフに逮捕された一方、カビールは病院で死の淵を彷徨っていた。カビールは一旦死にかけるが、前世のグル(モーハン・アーガーシェー)と交信し、まだ現世でやるべきことがあると生き返らされる。カビールは、ディシャーこそが前世で自分の妻だった女性だと気づき、彼女を見つけ出してプロポーズする。

 インド映画お得意の輪廻転生と、物体に触れることでそこから過去や未来のビジョンを見ることのできる透視能力を絡めて、突然行方不明になってしまった妻を探すという筋のサスペンス映画に仕上がっている。スィヤーがなぜいなくなってしまったのかほとんど手掛かりがないため、その失踪の謎に興味をかき立てられる。持って行き方によってはいい映画になっていたかもしれない。しかしながら、監督が経験不足で素人同然の映像をつなぎ合わせただけになっているし、主演の二人、ラジニーシュ・ドゥッガルとアダー・シャルマーが大根役者であることもあって、完成度は低い。

 この映画でポイントになるのはアダー・シャルマーが演じるディシャーだ。透視能力を持つ女性というのはヒンディー語映画ではかなりユニークである。当初はスィヤーがヒロインと思われたが、終盤で実は彼女が真のヒロインであることが分かるという仕掛けはうまく機能していた。ただ、なぜ彼女が透視能力を持つに至ったのかが全く説明されていなかったし、彼女の家族構成や人物像などもほとんど明かされていなかった。もっとディシャーにスポットライトを当ててストーリーを組み立ててもよかったのではなかろうか。

 序盤はヒロインとして登場しながら終盤に容赦なくヴィランに転落するスィヤーについても、丁寧な人物描写がなかったために、終盤のどんでん返しをうまく咀嚼することができなかった。スィヤーが夫のカビールを裏切った理由も、浮気と金銭欲なのであろうが、メリットが感じられず、首を傾げざるをえなかった。

 ストーリーテーリング上の工夫は、途中で2回ほど、時間を巻き戻して同じ時間帯の出来事を別の視点から見られるようになっていたことだ。一定の目新しさはあったが、うまい監督が同じことをやっていれば、もっとスタイリッシュに演出できたのではないかと思う。

 複数のソングシーンが含まれる映画であった。ラーガヴ・サッチャルとシャリーブ・トーシーが作曲をしている。だが、どれも気の抜けた曲ばかりで、ただでさえ完成度の低い映画をさらに盛り下げていた。

 「Phhir」は、輪廻転生と透視能力を組み合わせてサスペンスにするという悪くない着想のストーリーを経験の浅い監督がまずい形で料理してしまったような作品だ。しかも主演のラジニーシュ・ドゥッガルとアダー・シャルマーが感情のこもっていない演技をしていて、さらに状況を悪化させている。無理に観る必要はない映画だ。


Phhir (2011) Full Hindi Movie | Rajneesh Duggal, Adah Sharma, Roshni Chopra