2008年9月12日公開の「Ru-Ba-Ru(向き合って)」は、タイムループ型のロマンス映画である。米映画「If Only」(2004年)のリメイクとされている。公開当時には鑑賞しておらず、YouTubeでShemarooが配信しているものを2023年4月11日に観た。
監督はアルジュン・チャンドラモーハン・バリ。ほとんど無名の監督である。主演はランディープ・フッダーとシャハーナー・ゴースワーミー。他に、クルブーシャン・カルバンダー、ラティ・アグニホートリー、ジャヤント・クリプラーニー、ジェネバ・タルワールなどが出演している。
タイのバンコクに住むニキル・スィン(ランディープ・フッダー)は、恋人のターラー・ミシュラー(シャハーナー・ゴースワーミー)と同棲していた。ニキルは仕事に忙しく、普段はターラーとの時間を作れなかった。この日も大切なプレゼンがあり、ターラーに軽く悪態を付きながら家を出た。プレゼンはうまくいかず、ターラーの邪魔もあって、ニキルはイライラしていた。たまたま乗ったタクシー運転手(クルブーシャン・カルバンダー)との会話には興味を引かれたが、夕方にはターラーが主演する「ロミオとジュリエット」の演劇に遅刻した。その夜、ターラーとは喧嘩をする。ターラーはそのまま一人でタクシーに乗り、交通事故に遭って死んでしまう。 翌朝、ニキルが目を覚ますと、また昨日が繰り返されていた。ニキルにはターラーを失った記憶が残っていたが、もう一度チャンスをもらえたものと考え、ターラーに優しく接する。だが、何をやっても前回と同じような出来事が起こった。ニキルはプレゼンを首尾良く終えてクライアントを獲得し、ターラーには自分の両親を紹介して結婚を匂わせる。夕方には時間通りに劇場へ行って演劇を鑑賞し、しかも彼女が歌を歌うチャンスをアレンジする。その後、彼はターラーにプロポーズをする。そして彼はターラーと一緒にタクシーに乗る。そのタクシーはやはり事故に遭うが、死んだのはニキルだった。
同じ日が二度繰り返されるというタイムループ型の物語である。なぜそのタイプループが起こったのかは説明されない。一回目ではニキルは最愛のターラーを交通事故で失ってしまう。ニキルは、一旦は悪夢だったと自分に言い聞かせるが、前に起こった細かい出来事が微妙に形を変えながらもほぼそのまま起こるのを見て、ターラーの死もこのまま繰り返されるのではないかと危惧する。しかしながら、それを止め、ターラーを救うため、彼はあらゆる手段を講じる。パラレルワールドの両方を生きているのは、ニキルの他にはタクシー運転手のみだ。彼の正体も明かされないが、「迷った人を目的地まで送り届けるのが私の仕事だ」とだけ語っていた。
一回目のニキルは、ターラーに対して冷たい態度を取っていた。ターラーはニキルとの結婚を望んでおり、自分の両親に彼を会わせようとしていたが、仕事が忙しいニキルは生返事しかしなかった。また、ターラーに対して高圧的な態度を取ることもあった。ターラーがニキルを愛しているのは伝わったが、ニキルは本当にターラーを愛しているのか、疑問に思えるような展開だった。少なくとも彼にとって、ターラーよりも仕事の方が優先だった。仕事の成功がターラーとの未来につながると信じていたし、彼女にも言い聞かせていた。
ところが、ニキルは交通事故でターラーを失ってしまう。悲しみに沈んだニキルはターラーの写真を抱いて眠ってしまうが、翌朝目を覚ますとターラーが隣に寝ていた。日付も前日に戻っていた。そこから二回目が始まる。
ニキルは未来を変えるため、ひたすらターラーに優しくする。ニキルの変貌に驚きながらも、ターラーは「人生で最高の日」を過ごす。だが、ニキルは、前回起こったことが着実に繰り返されていくのを目の当たりにする。ニキルは、彼女の望みを何でも叶えてあげようとし、彼女が前々から望んでいた結婚についても自分から切り出す。この辺りの展開は、特に女性観客にとても好まれそうだ。
それでも、ターラーの死は着実に近づいていた。ニキルは、ターラーが交通事故に遭ったタクシーに一緒に乗り、運命を共にすることを決意する。その交通事故で死んだのはニキルであった。彼は自らの命を差し出してターラーを助けたのだった。
できることならハッピーエンドで終わって欲しかったストーリーだ。ニキルの努力によりターラーが助かり、ニキルもそのままという終わり方にできなかったものだろうか。ターラーの代わりにニキルが死ぬという結末だと、ターラーは幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とされることになり、見方によっては一回目よりも悪いエンディングに感じられてしまう。
それでも、ランディープ・フッダーとシャハーナー・ゴースワーミーの演技がとても純粋で、ハラハラしながらも楽しんで観ることができた。2000年代のランディープはまだくすぶっていた頃だが、その後の躍進を予感させるに十分の存在感を示していた。シャハーナーがブレイクしたのは同年公開の「Rock On!!」(2008年)であり、「Ru-Ba-Ru」撮影時にはまだまだ駆け出しの女優だったはずだ。彼女も瑞々しい演技を見せていた。
「Ru-Ba-Ru」は、まだ売れる前のランディープ・フッダーとシャハーナー・ゴースワーミーが主演の、タイムループ型のロマンス映画だ。興行的には大失敗に終わったようだが、その情報だけで鑑賞を取り止めるのはもったいない作品である。エンディングを改善すればもっと評価が上がったのではないだろうか。