Android Kunjappan Version 5.25 (Malayalam)

4.0
Andoroid Kunjappan Version 5.25
「Android Kunjappan Version 5.25」

 ロボット映画にはそれぞれの土地の文化がよく現れるようだ。インドのロボット映画の代表はラジニーカーント主演の「Robot」(2010年/邦題:ロボット)であるが、この映画はタミル語映画特有の派手さを濃縮したような徹底的な娯楽大作だった。一方のヒンディー語映画界では、シャールク・カーン主演の「Ra.One」(2011年)が作られ、ハリウッド映画に比肩するようなSFスーパーヒーロー映画が目指された。

 インド各地に独立して発展した映画産業の中でも、ケーララ州を拠点とするマラヤーラム語映画は、低予算で地味ながら脚本重視の作品が作られることで定評がある。2019年11月8日公開の「Android Kunjappan Version 5.25」は、そんなマラヤーラム語映画界が送り出したロボット映画である。タミル語映画「Robot」やヒンディー語映画「Ra.One」のような派手な娯楽映画ではなく、登場するロボットもチープだが、それを逆手に取って、心温まる感動作に仕上げている点はさすがの一言だ。

 しかも、我々日本人にとっては、ストーリーに日本がかなり関わってくる映画として興味深い。題名にも「Japan」っぽい綴りが見られるが、この映画に登場するロボットは架空の日本企業キョウト・ダイナミクス社が製造したという設定になっており、ヒロインのヒトミもケーララ人と日本人のハーフと説明されている。そういうこともあってだと思うが、日本でインド映画の配給をするSpace Box社が「ジャパン・ロボット」という邦題と共に日本語字幕付きのDVDを販売している。

 監督はラティーシュ・バーラクリシュナン・ポドゥヴァール。本作が監督デビュー作となる。キャストは、スーラジ・ヴェンジャラムードゥ、ソウビン・シャーヒル、スーラジ・テーラッカード、サイジュ・クルプ、ケンディー・ジルド、パールヴァティーTなど。

 ケーララ州パイヤヌールに住むチュッパン(ソウビン・シャーヒル)は、機械工学の学位を修めていながら、頑固な父親バースカラン(スーラジ・ヴェンジャラムードゥ)の世話をするために田舎町に滞在せざるをえなかった。それでもチュッパンは都会に出て働くことを夢見ていた。

 あるときチュッパンは日本企業キョウト・ダイナミクス社のロシア支社で働く機会を得る。父親の世話のために家政婦を雇ってロシアに旅立つが、バースカランがあまりに偏屈だったため、うまくいかなかった。そこでチュッパンは、キョウト・ダイナミクス社が試作中だったロボット(スーラジ・テーラッカード)を父親の家にヘルパーとして住まわせることにする。

 バースカランはTV、ミキサー、洗濯機なども家に置こうとしない古風な人間だった。当初はロボットを拒否する。だが、次第にそのロボットに愛着を感じるようになる。村人たちはそのロボットを「クンニャッパン」と呼んだ。それは少し前に死んだ小人症の男性の名前だった。ロボットの外見がクンニャッパンに似ているからそう呼ばれるようになったのだった。

 チュッパンは、父親がクンニャッパンを可愛がるようになり一安心していたが、次第に父親があまりにクンニャッパンを気に入りすぎていることに危機感を覚えるようになる。ロシア支社で彼は、ケーララ人と日本人のハーフ、ヒトミ(ケンディー・ジルド)と出会い恋仲になっていた。ある日、チュッパンはヒトミを連れて故郷に戻る。そしてクンニャッパンを父親から引き離そうとする。

 バースカランはクンニャッパンと一緒に逃げ出す。だが、クンニャッパンに恨みを抱いていた男に破壊されてしまう。自己防衛モードに入ったクンニャッパンはチュッパンを攻撃するが、バースカランは息子を助ける。

 ケーララ州の田舎に日本企業が試作した最先端のロボットがやって来るという設定だけでも一波乱二波乱ありそうな予感で映画鑑賞前から期待と不安で胸がざわつく。しかもポスターで見るロボットの姿はまるで昭和の特撮モノのようだ。ゲテモノ映画を期待してこの映画を見始めない方が無理というものだ。

 だが、映画を観ていると、まずはそんなチープなロボットの外観などどうでもよくなってくる。極度の機械嫌いで当初はロボットのヘルパーを拒絶していた父親バースカランがロボットに愛着を持つようになる展開は予想通りであるが、父親とロボットの絆があまりに感動的すぎて、観客もロボットに感情移入をしてしまうようになる。それを演出した俳優たちの演技も素晴らしいし、その演技を引き出した監督の手腕も相当なものだ。ロボットという非生命体を介することによって逆に温かい人間ドラマが作り上げられていた。ロボットがルンギー(腰布)を身に付けるという一見馬鹿馬鹿しい展開すらも愛らしく感じられるようになる。マラヤーラム語映画の質の高さを今一度証明する作品である。

 どうしてもバースカランとクンニャッパンの関係性が注目されるが、チュッパンの親孝行ぶりもこの映画を温かいものにしている。チュッパンは、一方で男やもめの父親を放っておけず、他方で自身のキャリアを追求するために田舎を出たいと考えており、板挟み状態にあった。結局彼は父親を一人残してロシアに渡るわけだが、彼のその決断を責めることはできない。人間に父親の世話を頼むことは難しかったため、彼はロボットにその役目を任す。ロボットはインターネットに接続しており、チュッパンはロシアにいながら父親の様子を確認することができた。そして、ロボットの不具合で父親に命の危険があることが分かると、彼は迷わずロシアでのキャリアを捨てて故郷に戻ってくる。バースカランも、一時は息子そっちのけでクンニャッパンを溺愛していたが、そんな息子の親孝行ぶりを見て我に返り、クンニャッパンに殺されそうになったチュッパンを助けるのである。

 ケーララ州はインドの中でも共産主義が浸透している地域であり、この「Android Kunjappan Version 5.25」からも共産主義的な主張がチラホラ感じられた。例えば、バースカランはカースト制度に非常にうるさい人間で、低カースト者を見下していた。だが、クンニャッパンと出会ったことで彼は考えを改め、宗教やカーストのない未来を信じるようになる。これは共産主義の思想と軌を一にしている。

 バースカランは日本についてもいいイメージを持っていなかった。日本は小さな島国で、日本人も細めで短足の民族だと差別的な発言をしていた。しかし、クンニャッパンを通して、彼は初恋の女性と交流を持つようになる。そうすると、日本に対するイメージも変わってくる。好きな人に自由に告白できる日本のことを知って、彼は日本に生まれていたらと思うようになるのである。

 ケーララ人と日本人のハーフであるヒトミを演じた俳優は残念ながら日本人ではない。日本人女性に見えたのだが、実際にはアルナーチャル・プラデーシュ州出身のインド人女性らしい。ヒトミはマラヤーラム語を話せるという設定だったが、台詞は吹き替えであろう。

 生活を助けるロボットとしてのクンニャッパンの立ち位置は、日本の人気アニメ「ドラえもん」の影響が感じられる。ロボットを友達や家族のように考える文化は世界の中でも日本人にとても特徴的なものである。それもあってこの映画には日本のモチーフがこれほど多く持ち出されたのだと考えられる。他には、米映画「Robot & Frank」(2012年)の影響も指摘されている。

 「Android Kunjappan Version 5.25」は、地味ながら高品質の作品作りで定評のあるマラヤーラム語映画が送り出したロボット映画である。老人とロボットの心温まる交流を描きながら、最終的には親子の絆につなげてまとめている。見た目のチープさに惑わされてはならない。この名作を日本語字幕付きで鑑賞できるのは本当にありがたいことである。