Kidnap

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Kidnap
「Kidnap」

 ナヴラートリが始まり、インドはお祭りシーズンに突入した。期待作や話題作の封切りがもっとも集中するのもこの時期であり、インド映画ファンには楽しみである。インドでは通常金曜日に新作が公開されるが、本日木曜日(2008年10月2日)はマハートマー・ガーンディー生誕記念日により休日で、公開日が1日前倒しとなった。今日から公開されたヒンディー語映画は2作だが、どちらも今年の期待作に数えられていたものである。まずは、「Dhoom」シリーズのサンジャイ・ガードヴィー監督が監督し、サンジャイ・ダットとイムラーン・カーンが共演する「Kidnap」を観た。

監督:サンジャイ・ガードヴィー
制作:シュリー・アシュタヴィナーヤク・シネヴィジョン
音楽:プリータム
歌詞:マユール・プリー
振付:レモ
衣装:シルパー・バーティヤー・セーティー
出演:サンジャイ・ダット、イムラーン・カーン、ミニーシャー・ラーンバー、ヴィディヤー・マーラヴァデー、ラーフル・デーヴ、リーマー・ラグー、ソーフィー・チャウダリー(特別出演)、ラージ・ズトシー(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。満席。

 ヴィクラーント・ラーイナー(サンジャイ・ダット)は、時価総額517億ドルの企業を経営するインドでもっとも裕福な男であったが、家庭はうまく行っていなかった。妻のマッリカー(ヴィディヤー・マーラヴァデー)とは別居状態にあり、一人娘のソニア(ミニーシャー・ラーンバー)とは8年間も顔を合わせていなかった。

 12月25日、母親と喧嘩をして家を飛び出たソニアが何者かに誘拐される。その男(イムラーン・カーン)はマッリカーに、まずヴィクラーントを呼ぶように要求する。マッリカーから、ソニアが誘拐されたことを知ったヴィクラーントは、対誘拐犯専門家(ラーフル・デーヴ)を呼び、対策を練り始める。

 男はヴィクラーントに明らかに恨みを持っており、彼に無理難題を押しつける。ヴィクラーントは、娘の命を助けるため、ライバルの会社の社長の家に忍び込んで金を盗んだり、刑務所へ潜入して囚人を脱走させたりと、数々の犯罪に手を染めさせられる。また、男はヴィクラーントがミッションを達成するごとにヒントを書いた紙を提供するが、そこには意味不明の言葉がつづられているだけであった。

 しかし、ヴィクラーントは自分の過去の行動を思い出す中で、ムンバイー近郊の保養地アリーバーグで起こったある事件を思い出す。アリーバーグの家の近くには孤児院があり、そこの子供が彼の自動車を盗んで行ったことがあった。しかも自動車には娘のソニアも乗っていた。その子供は自動車を木にぶつけてソニアに大怪我をさせてしまう。怒ったヴィクラーントは、その子供を誘拐の罪で問答無用で刑務所に送り込む。だが、実はその子供は、孤児院で怪我をした子供を助けるために自動車を盗んだだけで、本当は悪意はなかった。ヴィクラーントに謝ろうとしていたのだが、彼はその機会すら与えられなかった。そして刑務所で酷い扱いを受け、人間性を歪められてしまった。その子供の名前はカビール・シャルマーだった。そしてその子こそが、今回ソニアを誘拐した犯人であった。

 ヴィクラーントは、カビールがアリーバーグの自分の家に隠れていることを突き止めるが、そこでソニアを見付けることはできなかった。そして彼に最後のミッションが言い渡される。それは、ある男の殺人であった。ヴィクラーントはカビールの言葉に従って、大晦日のカウントダウンパーティーの中である男を射殺する。だが、その男こそがカビールであった。

 ミッションを終えたヴィクラーントはイエス・キリスト像の前で自分の行いに対して許しを乞う。だが、そのとき死んだはずのカビールが現れる。カビールは防弾チョッキを着ており、無事だったのである。カビールがヴィクラーントにこれらのミッションを与えた意図は、彼に自分の行動を分からせるためであった。カビールは、友人を救うためにヴィクラーントの自動車を盗み、ソニアに怪我をさせた。ヴィクラーントは、ソニアを助けるために泥棒、脱獄の幇助、殺人をした。どちらも行為は間違っているが、目的は悪いものではなかった。ヴィクラーントはカビールの言わんとしていることを理解し、彼に許しを乞う。カビールはヴィクラーントを許し、姿を消す。ソニアは無事解放された。

 2ヶ月後、ソニアは偶然カビールに出会う。カビールはITエンジニアになっていた。彼はソニアに、誘拐したことを謝るが、ソニアはむしろカビールに感謝をしていた。なぜなら今回の事件を機に、ヴィクラーントとマッリカーは仲直りし、再び明るい家庭が戻って来たからである。

 マハートマー・ガーンディーは、「正しい目的のためには正しい行いをしなければならない」と説いた。だが、正しい目的のためにやむを得ず悪いことをしなければならなかったときは?正しい目的のための悪事は時には許されるべきなのでは?それがこの映画の最大の命題であった。

 しかし、サンジャイ・ダットとイムラーン・カーンのチェイスシーンなど、いくつか緊迫感溢れるシーンがあったものの、脚本がお粗末で、完成度は必ずしも高くなかった。おそらくカットされたシーンがいくつかあり、不自然なつなぎの部分も目立った。サンジャイ・ダット演じるヴィクラーントは水を恐れていたが、その理由も遂に明らかにされなかった。

 「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)でデビューしたイムラーン・カーンは、第2作目の本作では一転して悪役を演じていた。まだ悪役に不釣り合いな幼さはあったものの、彼にできうる限りの迫力を出しており、これからまだまだ伸びて行く俳優であることを感じさせられた。

 ミニーシャー・ラーンバーは、三流清純派ヒロイン志向の女優だと思っていたが、「Bachna Ae Haseeno」(2008年)を経て、なぜかセクシー女優路線に方向転換してしまった。彼女がセクシーかどうかは賛否両論だと思うが、少なくとも今回の映画のように10代を演じるには少し老けすぎであると思う。公式データでは彼女は23歳であるが、シワが目立つためにもっと上に見えてしまう。もう少しキャラを安定させた方がいいだろう。

 サンジャイ・ダットは、顔に似合わずいろいろな役を演じ分けられる器用な男優だが、今回は、インテリかつマッチョという都合のいい役を演じていた。母親マッリカーを演じたヴィディヤー・マーラヴァデーは、「Chak De! India」(2007年)でキャプテンのヴィディヤーを演じていたが、なぜか本作では18歳の娘を持つ母親役を演じさせられていた。ちょっとミスキャストが過ぎるのではないかと思った。

 音楽はプリータム。いくつかノリのいい曲があるが、基本的にこの映画にミュージカルシーンが必要なかったと思う。音楽が映画のハードボイルドな雰囲気を損ねていた。ちなみに、「Meri Ek Ada Shola」ではソフィー・チャウダリーがアイテムガール出演していた。

 「Kidnap」は、いくつか迫力あるシーンがあり、いくつか心に残るメッセージがあったものの、全体としてはつぎはぎだらけの未熟な映画だと感じた。楽しめないことはないが、大きな満足感は得られないだろう。


https://www.youtube.com/watch?v=_ofqsIXkINk