「Khuda Haafiz」(2020年)は、コロナ禍においてOTTリリースされた、ヴィデュト・ジャームワール主演のアクション映画であった。コロナ禍が完全に収まらない中、2022年7月8日にその続編「Khuda Haafiz: Chapter 2 – Agni Pariksha」が早くも公開された。今回は劇場リリースとなった。第1作はDisney+ HotstarがOTTリリースをしたが、続編のOTTプラットフォームに選ばれたのはZee5であった。
監督は前作と同じファールク・カビールで、主演とヒロインも変わらず、ヴィデュト・ジャームワールとシヴァーレーカー・オーベローイ。他に、シーバー・チャッダー、ラージェーシュ・タイラング、ダーニシュ・フサイン、ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ、ルクサール・レヘマーン、リッディ・シャルマー(子役)、ボーディサットヴァ・シャルマー(子役)などが出演している。
前作の直後から始まる映画である。前作では、主人公サミールの妻ナルギスが、架空の国であるノーマン首長国で拉致され、売春をさせられる。サミールはナルギスを救出するが、彼女は長期に渡ってレイプされ続けたことで重い鬱病になっていた。第2作はそこから始まる。前作に引き続き、重い雰囲気を引きずっている。
題名の「Khuda Haafiz」とは、主にイスラーム教徒間で交わされる別れの挨拶である。直訳すれば、「神のご加護がありますように」という意味になる。副題の「Agni Pariksha」とは「火の試練」という意味で、「ラーマーヤナ」で羅刹王ラーヴァナに誘拐されラーマ王子に救出されたスィーター姫が、身の潔白を証明するために火の中に飛び込んだ故事に由来する。映画の中では、トラウマ克服のための苦しみを意味している。
舞台はラクナウー。ITエンジニアであるサミール(ヴィデュト・ジャームワール)の妻ナルギス(シヴァーレーカー・オーベローイ)は、ノーマン首長国でレイプされたトラウマから鬱病になっており、カウンセリングを受けていた。サミールは子供を作りたかったが、ナルギスは強い抗うつ薬を服用しており、妊娠は勧められなかった。また、サミールとナルギスの関係は冷え切っていた。 そんなとき、サミールの親友ディーパクの兄夫婦が死去し、その5歳の一人娘ナンディニー(リッディ・シャルマー)が孤児になってしまう。サミールはナルギスの気を紛らわすため、ナンディニーを養女にしようと思い、自宅に連れ帰る。当初、ナルギスはナンディニーの存在を重荷に受け止めるが、事件をきっかけに二人の絆は深まり、やがてナルギスの方からナンディニーを養女にしたいと言い出す。サミールとナルギスの関係も改善される。 サミールとナルギスが再び幸せな生活を送りつつあった2011年4月、学校の帰りにナンディニーが誘拐される。ナンディニーと一緒にいた、同じ学校に通う15歳の少女スィーマーが標的だったが、たまたま一緒にいたナンディニーもついでに誘拐されてしまったのだった。犯人は、スィーマーのストーカーをしていた、同じ学校に通うバッチュー(ボーディサットヴァ・シャルマー)とその仲間であった。彼らはスィーマーとナンディニーをレイプする。 バッチューの祖母シーラー・タークル(シーバー・チャッダー)は、ラクナウーで畏怖される権力者であった。シーラーは孫が少女たちを誘拐しレイプしたことを知ると、部下のカサーイー(ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ)に少女たちの抹殺を命じ、バッチューたちを匿う。一方、ナンディニーが誘拐されたことを知ったサミールは、警察が頼りにならないため、自分でナンディニーを探す。そして、わずかな手掛かりを頼りにスィーマーとナンディニーを見つける。スィーマーは助かったものの、ナンディニーは死んでしまった。 サミールは、タークルを恐れてバッチューを逮捕しようとしない警察に暴行を加え、逮捕される。刑務所でサミールはターラー・アンサーリー(ダーニシュ・フサイン)に気に入られ、復讐の協力を得る。出所したサミールは、カサーイーたちが根城とする屠殺場に殴り込みを掛け、犯人の内の2人を捕まえるが、バッチューは見つからなかった。だが、シーラーが黒幕であること、バッチューはエジプトにいることが分かった。 サミールはエジプトに渡り、バッチューを見つけ出す。そしてピラミッドの前で彼を殺す。ラクナウーでは、シーラーも側近に殺された。そしてサミールはラクナウーの人々からバーフバリ(頭領)とあがめられるようになる。また、ナルギスは妊娠していた。
近年のヒンディー語映画は、アクション映画でも都会的な上品さがあったが、血なまぐさい南インド映画がインド中で人気になっていることを受けてか、「Khuda Haafiz」シリーズは、ヒンディー語映画とは思えないほど残酷でグロテスクな映画になっている。
何しろ前作に引き続き、レイプが物語の中心にあるのだ。上品な映画ならば、ヒロインがいくら悪漢に拉致されて監禁されようとも、レイプまではされない。だが、「Khuda Haafiz」シリーズのヒロインであるナルギスは容赦なく集団強姦され、鬱病になってしまう。しかも今回は、5歳の少女までレイプされた上に殺される。こんな残酷な筋書きのヒンディー語映画は近年観たことがない。
ただ、被害に遭った女性たちが残酷な目に遭っているだけあって、主人公サミールの暴力が正当化されるという効果はあったかもしれない。アクションシーンにおいて復讐の権化と化したサミールは、何人もの敵を冷酷に抹殺していく。未成年のレイプ犯バッチューすら容赦しない。彼の心臓にナイフを突き刺し、息絶えるまでえぐり続ける。観る人を選ぶ映画だ。
演技面では、悪役シーラー・タークルを演じたシーバー・チャッダーが突出していた。お母さん役などをよく演じるイメージのある女優だが、ここまで禍々しい悪役を演じたのは初めてかもしれない。なぜこんなにいばっているのかよく分からなかったが、すさまじい迫力だった。「Baahubali 2: The Conclusion」(2017年/邦題:バーフバリ 王の凱旋)でラミヤー・クリシュナンが演じたシヴァガミを思わせる演技であった。2010年以降、女性主人公が中心の映画が増加したが、遂に女優が圧倒的な悪役を演じて周囲を震え上がらせるような時代にもなってきたのを感じる。
もちろん、主演のヴィデュト・ジャームワールも好演していた。序盤は静かな滑り出しだったが、中盤からアクションシーンが増え、格闘技の達人ヴィデュトの持ち味が最大限に発揮される。ヒロイン役のシヴァーレーカー・オーベローイは前作ほど見せ場はなかった。
前作ではウズベキスタンでロケが行われていたが、今回はラスト30分になって急に舞台がエジプトの首都カイロに飛び、一気にスケールが大きくなる。カイロといえばギザの三大ピラミッド。当然のようにクライマックスはピラミッドが背景だ。
鬱病に陥ったナルギスに対し、精神科医が日本の「金継ぎ」を引き合いに出して、「壊れたらそこで終わりではなく、新たな自分になれる」と励ますシーンがあった。金継ぎについては、日本滞在経験のあるインド人女性ジャーナリストが日本について書いた「Orienting: An Indian in Japan」(邦訳題:日本で私も考えた:インド人ジャーナリストが体感した禅とトイレと温泉と/白水社/2022年)でも触れられており、インド人にはなぜか人気のあるトピックである。
「Khuda Haafiz: Chapter 2 – Agni Pariksha」は、2020年公開の「Khuda Haafiz」の続編、ヴィデュト・ジャームワール主演のアクション映画だ。単純な筋書きながら、5歳の少女がレイプされるという酷い出来事がプロットに含まれており、グロテスクなシーンも多い。南インド映画の影響も感じる。万人受けする映画ではなく、興行的にも振るわなかった。無理に観る必要のある映画ではない。