Bow Barracks Forever!

3.5
Bow Barracks Forever!
「Bow Barrack Forever!」

 先日、アンジャン・ダット監督の「The Bong Connection」(2007年)を観たが、それに続くように同監督の「Bow Barracks Forever!」が公開されている。どうもアンジャン・ダット監督はコルカタが大好きのようで、この「Bow Barracks Forever」もコルカタに実在するボウ・バッラクスという地域を舞台とした映画である。ただし、今回取り上げられているのは生粋のベンガル人ではなく、いわゆるアングロインディアンと呼ばれる白人とインド人のハーフのコミュニティーである。英語、ヒンディー語、ベンガリー語が入り乱れるハイブリット映画だ。初公開年は2004年となっており、実は「Bow Barracks Forever!」の方が「The Bong Connection」よりも古い。インドで劇場一般公開されたのは2007年7月27日である。

監督:アンジャン・ダット
制作:プリーティーシュ・ナンディー、ランギーター・プリーティーシュ・ナンディー
音楽:ニール・ダット、アンジャン・ダット
作詞:ニール・ダット、アンジャン・ダット、ウシャー・ウトゥプ
出演:リレット・ドゥベー、ヴィクター・バナルジー、ネーハー・ドゥベー、クレイトン・ロジャーズ(新人)、サビヤサーチー・チャクラボルティー、ソーヒニー・パール(新人)、ムン・ムン・セーン、アヴィジート・ダットなど
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 コルカタ北部ボウ・バラックスには、第2次世界大戦後、米軍兵士のために建造されたアパートがあった。そこには多数のアングロインディアン家族が住んでいたが、建物の老朽化が進んでおり、政府による取り壊しが行われようとしていた。住民たちは何とかそれを阻止しようとするが、人間関係のもつれやマフィアの妨害などによって、様々なトラブルが発生する。

 エミリー・ロボ(リレット・ドゥベー)は夫亡き後、息子のブラドリー(クレイトン・ロジャーズ)と共に住んでいた。長男ケンはロンドン在住で、エミリーもロンドンへ移住しようとするが、ケンからは4年間も音信がなかった。また、ギタリスト志望のブラドリーは失業中だったが、母親には秘密にしていた。

 アニー(ネーハー・ドゥベー)は、夫トム(サビヤサーチー・チャクラボルティー)の暴力に耐えながらも暮らしていた。アニーとブラドリーは密かに出来ていたが、それは公然の秘密であった。また、シンガー希望の女子高生のサリー(ソーヒニー・パール)はブラドリーのことが好きだったが、ブラドリーはアニー一筋であった。ある日サリーは家出をしてムンバイーへ行ってしまう。また、アニーは急にブラドリーを避けるようになる。

 ピーター(ヴィクター・バナルジー)は、マンションの住人からピーター・ザ・チーターと呼ばれる変わった男だった。ほら吹きだったが、トランペットも吹き、住民に迷惑をかけていた。しかし、人々の良き相談相手でもあった。

 ローザ(ムン・ムン・セーン)は、学校教師の退屈な夫メルヴィル(アヴィジート・ダット)に飽き飽きしており、保険セールスマンと浮気していた。あるとき彼女はセールスマンと家を出て行ってしまう。傷心のメルヴィルは妻を待ち続ける。数日後、ローザはメルヴィルの元に帰って来る。

 トムがアニーに暴力を振るっていたとき、ブラドリーが止めに入る。怒ったトムは銃を取り出して彼の脚を撃つ。トムは逮捕され、ブラドリーは病院へ運ばれる。エミリーはアニーのことを嫌っていたが、ブラドリーが命をかけて彼女を救おうとしたこと、また、アニーがブラドリーのために夫の暴力に耐えて来たことに心を打たれ、二人の仲を認める。ブラドリーとアニーは結婚することになる。

 ブラドリーとアニーの結婚式の日、サリーがボウ・バラックスに帰って来る。彼女はムンバイーでシンガーとして成功しており、ブラドリーのためだけにコンサートを開いた。あれほどロンドンへ移住したがっていたエミリーも、今ではここに住み続けることを決める。また、ピーターの演技のおかげで、住民たちに脅迫をかけていたマフィアたちもボウ・バラックスから手を引く。いろいろなことがうまく回り始めていた。

 インド映画界の最近の傾向として、「海外へ移住しようとしていたインド人が、インド(または地元地域)の良さを再発見し、そのまま居残ることを決める」または「海外に移住したインド人がいろいろな経験をした後、結局インドに帰って来る」というプロットを映画のエンディングに持って来て観客を感動させるパターンの映画が増えているように思える。例えば「Khosla Ka Ghosla」(2006年)や「The Namesake」(2007年)などがその例として挙げられる。この「Bow Barracks Forever!」も、一見ごちゃごちゃとした人間関係を追ったいわゆる「グランド・ホテル様式」の映画だったが、最終的には生まれ育った場所に住み続けることの美徳を訴えることで話がまとめられていた。

 アングロインディアン家族が多く住むボウ・バラックスは取り壊しの危機に瀕しており、住民の間では2つのグループが生まれていた。ひとつはボウ・バラックスを出て別の地域または海外へ移住する者、もうひとつはボウ・バラックスを何とかして守ろうとする者である。一応映画の主人公と言えるエミリー・ロボは前者の立場を取っていた。彼女にはロンドンで働いている長男がおり、近隣の住民には「もうすぐロンドンへ移住する」と言っていた。ところが、彼女が毎日ロンドンに電話をかけ、メッセージを残しているにも関わらず、当の長男からは4年間も連絡がなかった。このジレンマが彼女を過度にヒステリックにしていた。だが、次男の勇気ある行動をきっかけに彼女の考えも180度変わり、このまま亡き夫との思い出が詰まったボウ・バラックスに住み続けることを決めるのだった。

 結局映画中ではボウ・バラックスの危機は完全に去っておらず、最後に「ボウ・バラックスは取り壊しの危機に瀕している」とメッセージが出るに留まっている。また、当のアングロインディアン・コミュニティーからは、「アングロインディアンを間違った見方で描いている」として上映禁止の要求も出ている。実際のボウ・バラックスには、アングロインディアンだけでなく、中国人、ゴア人、グジャラート人、ビハール人、ベンガル人など、132家族が住んでいるようだ。

 ヴィクター・バナルジー、リレット・ドゥベー、サビヤサーチー・チャクラボルティーなど、演技派俳優陣の演技は素晴らしかった。ラーイマー・セーンやリヤー・セーンの母親、ムン・ムン・セーンが出演していたのはレアであった。リレット・ドゥベーの娘のネーハー・ドゥベーも非常に良かった。「Monsoon Wedding」(2001年)でもこの二人は母娘共演していた。ブラドリーを演じたクレイトン・ロジャーズと、サリーを演じたソーヒニー・パールはこの作品がデビュー作。クレイトンは外見にオーラがなかったが、演技力はあった。ソーヒニーはこれからどういう女優になっていくのかあまり先行きが見えない。

 言語は大半が英語だが、ヒンディー語やベンガリー語が字幕なしで突然入るので、それらの言語が分からないと一部理解できないところもある。

 「Bow Barracks Forever」は、アングロインディアンのコミュニティーを描いた稀な作品である。パールスィー・コミュニティーを描いた「Being Cyrus」(2006年)にも通じるものがある。インドのマイナー・コミュニティーの映画化がこれからも続く予感がする。展開が少し観客を突き放した感があるが、最後は割とうまくまとめられていたと思う。