2003年5月9日公開の「Ishq Vishk(恋か何か)」は、「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)と似た雰囲気のある、学園モノのロマンス映画である。2022年6月30日に鑑賞した。
監督はケーン・ゴーシュ。メインキャストは、シャーヒド・カプール、アムリター・ラーオ、ヴィシャール・マロートラー、シェーナーズ・トレジャリー、ヤシュ・トーンク、ウパースナー・スィン、サティーシュ・シャー、ニーリマー・アズィームなどである。パンカジ・カプールの息子シャーヒド・カプールのデビュー作になる。
ムンバイーのスペンサー・カレッジに通うラージーヴ・マートゥル(シャーヒド・カプール)は女の子にもてたくてたまらなかった。親友のマンボー(ヴィシャール・マロートラー)と共に、ラブグルを自称するロッキー(ヤシュ・トーンク)に相談し、何とかもてようとしていた。 大学の人気者であるダニーとジャーヴェードが、アリーバーグの別荘で泊まりがけのパーティーを計画していた。そのパーティーにラージーヴとマンボーも招待されたが、カップルオンリーであり、誰か一緒に連れて行く女の子を見つけなければならなかった。ラージーヴの幼馴染みパーヤル・メヘラー(アムリター・ラーオ)は子供の頃からラージーヴに片思いをしていたが、ラージーヴは彼女をタイプではないと考えていた。だが、アリーバーグのパーティーに行くために、パーヤルを一時的に利用して恋人にしようとする。ラージーヴから告白されたパーヤルは喜んで受け入れる。 しかし、アリーバーグのパーティーでラージーヴとパーヤルは大喧嘩をし、絶交状態になってしまう。その頃、大学にはアリーシャー・サハーイ(シェーナーズ・トレジャリー)というセクシーな新入生がやって来る。ラージーヴはアリーシャーに一目惚れし、ロッキーの助けを借りて彼女を口説こうとする。アリーシャーがサチン・テーンドゥルカルのファンだと知ったラージーヴは、自分はサチンの友人だと嘘を付いて彼女の気を引き、彼女を口説き落とすことに成功する。パーヤルはラージーヴとアリーシャーが近付くのを遠くから眺めていた。また、マンボーは、パーヤルを使い捨てにするラージーヴに反発していた。 アリーシャーは、ラージーヴとパーヤルが昔付き合っていたことを知り、パーヤルに、ラージーヴに近付かないように言う。だが、次第にラージーヴはアリーシャーの自分勝手な態度に嫌気が差してきて、パーヤルのことを考えるようになる。大学最後の日のパーティーでラージーヴはまずマンボーに謝り、次にパーヤルに謝る。パーヤルはラージーヴを許し、彼を抱きしめる。また、アリーシャーもラージーヴとパーヤルの絆の強さを知り、ラージーヴをパーヤルに譲る。
幼馴染みのラージーヴにずっと片思いをしてきたパーヤルが、紆余曲折の後にその恋を成就させるというプロットのロマンス映画であった。シャーヒド・カプール演じるラージーヴははっきり言って駄目男で救いようがないのだが、パーヤルに肩入れして映画を観ると一応筋が通ったストーリーになっている。
しかしながら、この映画には大きな難点がある。それは、パーヤルを演じるアムリター・ラーオが魅力的過ぎることだ。パーヤルは、大学の友人たちから「ベヘンジー」と呼ばれていた。これは、ダサい女性に対する蔑称であり、パーヤル自身もそれを受け入れていた。ラージーヴが彼女を下に見ていたのも、彼女が「ベヘンジー」だったからだ。
だが、ちょっと待って欲しい。この映画に登場するどの女優よりもアムリター・ラーオは輝いているではないか。学園一のセクシーな美女扱いされていたアリーシャーよりも断然パーヤルの方がいい。一体、この映画に出て来る人々の目は節穴なのだろうか。完全なミスキャストである。
ただ、それを挽回するためか、パーヤルは真面目で奥手な女性として描かれており、人物設定の面ではとにかく「ベヘンジー」を前面に押し出していた。アムリター・ラーオは華奢な体つきをしており、確かにグラマラスな雰囲気ではない。インド人にとっては、庶民的な親しみやすさのある女優に映るのかもしれない。
やがてスター男優の一人に成長するシャーヒド・カプールも、このデビュー作ではまだ初々しい演技を見せていた。リティク・ローシャンに次いでダンスがよく踊れる男優でもあるが、まだこのときはそのダンススキルの片鱗を少しだけ披露しているだけだ。彼が演じたラージーヴは、見栄っ張りで、幼馴染みの恋心を平気で踏みにじる酷い役柄であるが、彼の持ち前のキュートさのおかげでその暗黒面が薄まっていた印象だった。
音楽監督はアヌ・マリク。挿入されるダンスシーンの数は多めで、登場人物の心情に変化がある節目節目にダンスシーンが入ってくる。ただ、古風な曲ばかりで、後世まで残るような名曲はない。
「Ishq Vishk」は、新人男優のシャーヒド・カプールが、やはり駆け出しの女優アムリター・ラーオなどと共に繰り広げる学園モノの青春ロマンス映画である。幼馴染み同士が最後に結び付くありきたりなプロットであり、ほとんどサプライズのない展開だが、言い換えれば、観客の期待通りに結ばれる順当なハッピーエンドで、後味はよい。観ても後悔はしないだろう。